英政府と原子力産業部門の連携協定、新設計画のコスト削減を確約
英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は6月27日、国内の民生用原子力部門との長期にわたる戦略的パートナーシップとなる「部門別協定」の内容を公表した。
英国全土で国民の生産性と収益力の向上を目指したBEISの「産業戦略白書」に基づき、原子力が今後も技術革新や最先端技術を通じて英国内に電力を供給し続けられるよう保証するのが目的。英国のエネルギー・ミックスを多様化するとともに原子力発電コストを削減するため、産業界からの投資金も含めて新たに2億ポンド(約290億円)を超える資金を同協定で確保した。このうち、5,600万ポンド(約81億1,668万円)が新型モジュール式原子炉(AMR)の研究開発に充てられているほか、産業界側は新規原子力発電所建設プロジェクトのコストを2030年までに30%、閉鎖した原子力サイトにおける廃止措置コストを20%削減することを約束。民生用原子力部門における女性の従事者数を2030年までに全体の4割に拡大することも、目標の1つに掲げている。
英国原子力産業協会(NIA)は同日、「この意欲的な協定が産業界と政府間で開始されることを大いに歓迎する」とコメント。両者は今後、同協定の内容を実行に移す具体的なプランを共同で策定することになるとしている。
BEISが昨年11月に「産業戦略白書」を公表した際、生命科学など4つの産業部門との「部門別協定」がすでに決定しており、民生用原子力部門は5つ目となる。産業界側からは、政府と原子力産業界の協議の場である原子力産業協議会(NIC)が昨年12月に提案済み。内容は、政府と協働することにより原子力発電所の新設計画と廃止措置プログラムでどれほどのコスト削減が達成できるかという点に集中していた。
最終版の「部門別協定」は、BEISのG.クラーク大臣が今月4日、ウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所建設計画について、総事業費の出資分担など最終投資判断に向けた日立製作所との協議を継続すると表明した後に決定した。同協定により、英国は民生用原子力部門における新たな事業を推進しつつ、クリーン・エネルギーによる経済成長の達成を目指して前進していくとBEISは強調。英国が原子力先進国としての立場を維持していく上で必要な技術や能力を開発するため、技術革新に集中的に取り組む考えを示している。
約2億ポンドの内訳
AMRの研究開発資金となる5,600万ポンドのうち、政府は第1フェーズとして最大400万ポンド(約5億7,976万円)を原子炉ベンダー8社が実施する技術面、商業面の詳細な実行可能性調査の支援金として充当。第2フェーズでは、3~4社の設計開発を加速するためにさらに4,000万ポンド(約57億9,763万円)を拠出するとした。また、新型原子炉設計の評価や許認可を行う規制当局の能力と人員の増強に、最大700万ポンド(約10億1,458万円)を充てる方針。これに加えて、500万ポンド(約7億2,470万円)を規制当局の支援用として支出する可能性もあるとしている。
なお、BEISが昨年12月に設置した独立の立場の「資金調達に関する専門家作業グループ(EFWG)」は、小型モジュール炉(SMR)開発に対する資金調達方法の分析作業をまもなく終える見通しである。EFWGはこの夏にも、分析結果に基づく勧告事項を報告書にまとめて担当大臣に提出するが、SMR初号機の建設で英国は有利な立場にあるとしたほか、SMRの特性上、民間から投資を呼び込む可能性がある点を示唆している。
「部門別協定」ではまた、8,600万ポンド(約124億6,490万円)をオックスフォード近郊のカラム研究所における核融合研究を加速することに充当する計画。世界中に影響を及ぼす可能性のあるパイオニア的研究であることから、政府としても力を入れる方針である。
さらに、3,200万ポンド(約46億3,810万円)を先進的な製造・建設プログラムに充てるとしているが、ここでは世界をリードする可能性のある原子力技術の研究開発に投資を実施。このうち、政府の拠出分は2,000万ポンド(約28億9,881万円)で、残り1,200万ポンド(約17億3,928万円)が産業界からの初期投資になるとした。
このほか、3,000万ポンド(約43億4,822万円)を新しい国家サプライ・チェーン・プログラムに確保した。国内の小規模企業が高額契約を獲得したり、新しい市場への参入が可能になるよう、官民が協働で支援していく内容。1,000万ポンド(約14億4,940万円)までを政府が拠出する一方、産業界側からは原子炉ベンダーや国内のサプライ・チェーン企業などが1,000万ポンドを出資、現物出資分が1,000万ポンドになるとしている。