IEA、原子力発電の将来像を探る高官級会議を開催
国際エネルギー機関(IEA)は6月29日、原子力発電が直面する重要課題を特定するとともに、その将来像を模索することを目的とした高官級の国際会議「原子力の今日と明日」を、28日にパリで開催したと発表した(=写真)。IEAの認識では、原子力は過去40年以上にわたり、様々な国におけるエネルギーの供給保証や無炭素電力の主要電源として重要な役割を果たしてきた。しかし今後は、再生可能エネルギーやガス火力との競争、一般市民による反原子力の気運が激化するなど、ますます多くの課題に直面していくことが予想される。
このような状況を背景に、今回の国際会議ではIEA加盟国の閣僚や政府高官、関係企業のCEO、専門家らが一堂に会し、成熟した電力市場における原子力の役割を検証。エネルギー供給保証や経済、環境に対する原子力の将来的な関わりと課題についても議論を行った。
IEAのF.ビロル事務局長は開会挨拶のなかで、「原子力は今後も、他の従来型発電技術とともに電力の供給セキュリティ上、重要部分を担い続けるにも拘わらず、近年のエネルギー政策では先進国の原子力発電が近い将来、大幅に増加する見通しは暗い」と指摘。ただし、こうした予想を変える可能性を持った技術革新の促進で、新たな取り組みも見受けられるとした。
続いて、米エネルギー省(DOE)のD.ブルイエット副長官が、原子力技術革新の重要性に焦点を当てた基調演説を披露。「米国では原子力の有用性が理解されているため、その復活と再生、および最終的な利用拡大に熱意を持って取り組んでいる」と述べた。米国におけるエネルギー供給保証上の必要性とクリーン・エネルギー目標を満たす上で、原子力が有する可能性がようやく見え始めたところだが、米仏その他の国で開発中の新型原子炉や先進的な燃料、材料物質は、信頼性の向上や温室効果ガスの排出量削減に非常に有望との考えを表明した。
同会議ではこのほか、カナダ天然資源省のK.ラッド政務官、ハンガリー唯一の原子力発電設備であるパクシュ発電所の増設計画を担当するJ.シュリ無任所大臣、仏国で商業炉すべてを所有するフランス電力(EDF)のJ.B.レビィ会長、2014年に石炭火力の全廃に成功した加・オンタリオ州の州営電力会社(OPG)からはJ.ライアッシュ社長兼CEOなどが登壇した。
テーマは主に3点に絞られており、(1)経済や環境、エネルギー供給保証の各面における全体目標のバランスを取りつつ、原子力に特化した政策目標を満たすための課題、(2)成熟した電力市場における原子力発電の位置付け、(3)柔軟な発電という将来的な課題や温室効果ガスの排出量抑制目標に取り組む際の、原子力発電技術の可能性――など。近年の政策枠組の下、新規設備への投資が限られる中で、市場のエネルギー・ミックスに対する原子力の貢献度がどのように縮減していくかが、中心的に議論された。
IEAによると、現在建設されている原子力発電所の多くがアジア地域のもので、中国とインドだけでその半数以上を占める。IEAが昨年公表した「世界エネルギー予測(WEO)」最新版でも、各国で実行される可能性の高いエネルギー政策を前提とした「新政策シナリオ」において、2040年までに原子力による発電量増加分の90%以上が両国のものになると予測。一方、経済先進国における原子力発電量は、この年までに20%減少するとしている。
同会議ではまた、原子力発電技術の技術革新促進を目指す新たなイニシアチブが紹介された。その中には、出力が変動しやすい再生可能エネルギーの発電量増加に合わせ、一層柔軟性のある発電システムに取り組むものが含まれていたことを明らかにしている。