加NB州、将来のエネ輸出目指し州内で溶融塩炉のSMR建設へ
カナダ東部のニューブランズウィック(NB)州政府は7月13日、世界的水準の小型モジュール炉(SMR)開発で同州がカナダのリーダー的立場を確立することを目的に、英国籍のモルテックス・エナジー社が開発している燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)の商業規模の実証炉を、2030年までに州内のポイントルプロー原子力発電所敷地内で建設することを目指すと発表した。
SMR技術の研究開発促進のため、NB州政府が1,000万カナダドル(約8億4,800万円)を投じて州立大学内に設置した「原子力研究クラスター」の一員として、新たにモルテックス社を迎えたもの。この合意により、同社は500万加ドルの財政支援を受けて同州の最大都市であるセント・ジョンに北米本部を起ち上げるとともに、開発チームを設置する方針だ。
NB州はすでに今月9日、米メリーランド州のアドバンスド・リアクター・コンセプツLLC(ARCニュークリア)社とも、州営電力のNBパワー社を通じて協力することで合意。NBパワー社は州内唯一の原子力発電設備であるポイントルプロー発電所の所有者であり、ARC社が開発中のSMRでナトリウム冷却・プール型高速中性子炉となる「ARC-100」についても、同発電所敷地内で初号機の建設可能性を探るなど、商業化を進めることになっている。
NB州では、エネルギー部門がGDPの6%以上を占めており、州経済に大きく貢献している。このため州政府は、同州の地理やエネルギー資産を活用して、エネルギー製品やサービスを輸出する機会を模索中。昨年5月に州政府とNBパワー社が合弁で起ち上げたニューブランズウィック・エナジー・ソリューションズ社(NBEC)は、この目標の実現を目的としたもので、モルテックス社との今回の合意もNBECが窓口となっている。
先進的なSMR技術の開発は、安全・確実かつクリーンで価格も適正な原子力エネルギーを開発する一助になると同州は認識している。SMRによって低炭素な環境への移行を進めつつ、州経済の成長が促されることを期待するとした。また、エネルギー需要を満たすだけでなく、輸出の機会も得られるようなエネルギー・ソリューションの開発において、同州がリーダー的立場を獲得することも可能だとしており、モルテックス社のようなパートナーは、州内のエネルギー部門を発展させる能力を持っていると強調した。
モルテックス社によると、同社のSSR-Wは既存炉の使用済燃料を低コストで新燃料に転換することが可能なため、NB州内で将来、使用済燃料の処分問題の解決に役立つことになる。また、物理的に小型である一方、エネルギーの貯蔵が可能であり、日中の需要がピークになる時間帯には出力を2倍、3倍に増やすことができるという。最も重要なのは、燃料ピン型溶融塩炉の技術が非常に低コストなクリーン・エネルギー源である点で、CO2の排出抑制目標を満たすと同時に顧客の電気代も削減することが可能だと強調している。
なお、モルテックス社は、英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が昨年12月に開始していた新型モジュール式原子炉(AMR)のコンペに応募。今年6月には、BEISが技術面、商業面の実行可能性調査を支援する対象企業8社の1つに、ARCニュークリア社やウェスチングハウス社とともに選定された。BEISは民生用原子力部門との長期にわたる戦略的パートナーシップ「部門別協定」において、合計5,600万ポンド(約82億円)をAMRの研究開発に充てると明記。このうち最大400万ポンド(約5億8,500万円)を第1フェーズの8社に割り当てるほか、第2フェーズでは対象を3~4社に絞って、最大4,000万ポンド(約58億5,200万円)を拠出するとしている。