IAEAシンポ:「緊急時の明確かつ迅速な意思疎通は主要なリスク軽減策」
原子力発電所や放射線が関わる緊急事態の発生時に、一般大衆と効果的にコミュニケーションを取ることは放射線その他による健康被害を食い止める上で重要な役割を担っている。このような認識の下、その最良の方策について議論するため、国際原子力機関(IAEA)は今月1日から5日まで、「国際シンポジウム:原子力・放射線緊急時における大衆とのコミュニケーション」をウィーン本部で開催したことを8日付けで明らかにした(=写真)。IAEAのJ.C.レンティッホ原子力安全・セキュリティ担当次長は、「コミュニケーションという課題は我々すべてがともに直面するもの」と指摘。関係者が共通して目標とするところは、「一般大衆と効果的な意思疎通を図ることにより、何が起きているのか理解してもらうほか、パニックに陥ることを抑え、当局が出す指示に従ってもらうことだ」としている。
同シンポジウムはIAEAとしては初の試みで、74か国から幅広い分野のコミュニケーターや緊急時対応の担当者など約400名の専門家が参加。このほか、13の国際機関やメディア、非政府組織、学術界からも参加があったが、全体の半数以上(53%)が女性であった点を特筆すべき点として挙げている。
セッション・テーマとして取り上げた課題は、「緊急時の備えと対応(EPR)」や、「ステークホルダーの関わり方」、「緊急時に大衆と意思疎通を図るためのチャンネルとツール」、「ソーシャル・メディア」、「効果的なコミュニケーション」、「コミュニケーションにおける心理学」、さらに、「『自分は安全であるか?』という問いへの対応」、などである。
参加者らの一致した見解として示されたのは、「正しいメッセージを作成した上で、適切なタイミングで関係するチャンネルを通じて、適切な人々に対し発信すること。これこそが先を見越した活動を効果的に実行し、恐怖を最小限に抑える上で役に立つ」というもの。これには、予め十分な計画を立案するとともに、準備を整えておく必要があるとした。
また、緊急事態の発生時には技術者が最も信頼できる情報源とみなされる点、コミュニケーターは情報発信で必要とされるスピードと正確性について、バランスを取ることを学ばねばならないという点で、参加者らは合意に達した。さらに、メディアの代表者が登壇したパネル・ディスカッションでは、原子力関連ニュースのリポーターを支援している「アトミック・リポーターズ」の創設者が、「正しい情報が入らなくなれば、その隙間に誤報や偽情報が蔓延することになる」との認識を示した。
このほか、「ソーシャル・メディア時代のコミュニケーション」が、同シンポ全体を通じて話題に上った。「緊急時のソーシャル・メディアは好機か障害物か?」と題されたセッションで、スペイン原子力安全委員会のコミュニケーション・アドバイザーは「ソーシャル・メディアは今や、市民の主要なジャーナリズム・ツールになった」と指摘している。
万一緊急事態が発生した場合、シンポジウムの参加者らはコミュニケーターに対し、ツイッターのようにメッセージの拡散に役立つアカウントを捜すことを推奨。一般大衆の懸念事項をモニターするだけでなく、一層巧みなコミュニケーション管理が行えるよう、ソーシャル・メディア戦略を策定することを働きかけた。同アドバイザーも、「我々は口を開く前にまず話を聞かねばならないし、ソーシャル・メディアは緊急事態に際して人々が何を考え、何を怖れているのか知る上で一助になる」と明言している。
(参照資料:IAEA発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)