国連ECEのエネ・フォーラム、脱炭素化における原子力の重要性で議論

2018年11月19日

 国連の欧州経済委員会(UNECE)が11月12日から15日まで、ウクライナのキエフで開催した「持続可能な発展に向けた国際エネルギー・フォーラム」で原子力が初めて議題の1つに取り上げられ、高度な脱炭素化を進めるにあたり原子力がどのように貢献していくかについて議論が行われた。
 9回目となる今回のフォーラムは、約30年前にチェルノブイリ事故を経験した同国の政府が、ECEを始めとする国連の5地域の経済委員会と共催した。その中で、世界原子力協会(WNA)と国際原子力機関(IAEA)は「原子力と持続可能な発展:脱炭素化したエネルギー・ミックスにおける原子力の役割」と題するワークショップを共同で開催。ウクライナのエネルギー・石炭産業省の次官は、同国のエネルギー・インフラの中で原子力が今や、主要な柱となっている事実に言及した。同国の複数の専門家も、ウクライナの持続可能な発展という目標に原子力がいかに貢献しているかを紹介したほか、英国、カナダからの参加者は、高度な脱炭素化の実現で原子力が寄与している国家プログラムについて説明している。

 ワークショップでモデレータを務めたWNAのA.リーシング事務局長は、2015年のCOP21で設定された「パリ協定」について、「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度Cより十分低く保つ」という目標の達成に向けた動きが、世界ではあまり軌道に乗っていないと述べた。片や、世界の30か国で稼働する約450基の商業炉は、世界の総発電電力量の約11%を供給するとともに、2015年には低炭素電源の中でも2番目に大きい約30%という発電シェアを達成。毎年、約20億トンものCO2排出抑制に原子力が貢献していると強調した。
 同事務局長はまた、現在の原子力発電は過去60年にわたる技術革新や供給チェーンが生み出した物であり、信頼性の高い電力を大規模かつ適価で提供できるとした。ワークショップの議論総括でも、「クリーンな電力への需要増に対応するため、世界の原子力産業界は2050年までに原子力で約25%の電力を供給するビジョンを打ち出した」と指摘。そのためには、再生可能エネルギーなど他の低炭素エネルギー源とも、協働していく考えを明らかにしている。

 UNECE持続可能エネルギー部のS.フォスター部長は、冒頭挨拶の中で「原子力発電を考慮せずにエネルギーの移行問題を議論しても不十分だ」との認識を表明。だからこそ、同フォーラムでは今回初めて、原子力を議題に含めたと説明した。世界では多くの国が、事故発生のリスクを受け入れられないとして、原子力を活用しない道を選択したが、もう一方の国々は、原子力抜きではそれぞれの開発目標を達成することはできないと判断。後者の例として、中国、インド、ロシアの名を挙げるとともに、バングラデシュやベラルーシ、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコといった国が導入初号機の建設を進めているとした。
 先進的な原子力発電システムには受動的な安全性能が組み込まれており、このような革新的技術を採用した中・小型炉の建設などを通じて、コストの削減を加速していかねばならないとUNECEは明言。現在、50以上の中・小型炉が様々な国で設計段階、あるいは認証段階にあるが、IAEAのエネルギー計画経済課長は議論の席上、そうした設計が原子力発電に大変革をもたらす可能性があると指摘した。これらが低炭素な代替電源として2030年までに建設可能になれば、地球温暖化にともなう飲料水の需要増に対応できるほか、遠隔地域や特定分野への適用を下支えすることになるとしている。

 (参照資料:UNECEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)