仏政府、原子力シェア削減目標の達成に向けたエネ政策案で公開協議

2019年1月29日

 仏国の環境連帯移行省は1月25日、今後10年以上にわたり同国でエネルギー・温暖化防止戦略の基盤となる「エネルギー複数年計画(PPE)」の案文を公表し、3か月間の公開協議に付した。
 昨年11月にE.マクロン大統領が発表していた通り、現在70%を超える同国の原子力発電シェアを、前政権がエネルギー移行法で定めた「2025年までに50%まで引き下げる」ことは、電力供給の不安定性や化石燃料発電所を再利用せざるを得なくなるリスクを考慮すると実行不可能。このため、その達成スケジュールを10年先送りする方針である。社会的な影響を考慮しつつ、最も古いフェッセンハイム原子力発電所の2基も含めて、合計14基の90万kW級原子炉を2035年までに閉鎖する具体策を提示している。

 発表によるとPPEでは、一層強靱かつ効率的、かつ環境に配慮した多様化したエネルギー・システムへの移行を成功裏に進めるためのプロジェクトが記されており、仏政府としてはこの移行を、十分な検討を重ねた明確な道筋に沿って実行しなくてはならないとした。具体的には、2050年までに大気中のCO2濃度が一定レベルに保たれるよう仏国を導く上で、政府が行動を取るべきエネルギー分野の優先事項が示されている。

 まず、エネルギー移行法が定めた原子力発電設備容量の上限を維持するため、建設中の最新型・欧州加圧水型炉(EPR)フラマンビル3号機(PWR、163万kW)の起動に合わせて、2020年の春までに最も古いフェッセンハイムの2基を閉鎖する。また、電力供給保証上の問題がなければ、90万kW級原子炉が立地する他の8サイトで追加の2基を2027年と2028年に閉鎖。さらに、欧州の近隣諸国で石炭火力から再生可能エネルギーへの移行が進むなど、電力市場でいくつかの条件が満たされた場合、さらに2基を2025年から2026年に閉鎖する可能性があるとした。2035年までに閉鎖する残りについては、少なくとも閉鎖の3年前に、これらの閉鎖条件がすべて満たされているか確認した上で実施することになる。
 また、PPEの最終バージョンでは、原子炉が優先的に閉鎖されるサイトを決定する方針。そのためフランス電力(EDF)は公開協議の完了前に、原子炉の閉鎖が可能なサイトのリストを政府に提示しなければならない。さらに、原子燃料のリサイクル戦略はPPEの対象期間以降、2040年代まで温存される計画。現時点では、約20基の90万kW級原子炉にウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料が装荷されているため、14基を閉鎖するのにともない、代わりにいくつかの130万kW級原子炉にMOX燃料が装荷されるとしている。

 一方、新規の原子力設備容量について、仏政府はPPEの中で「2035年頃までは新たな設備が必要になるとは考えにくい」と指摘。それ以降は既存炉の廃止状況など需給バランスを見極めた上で、低炭素な電力の供給方策を新たに考えるとした。既存の発電技術の中では、競争力が最も高くて、2035年以降に既存の原子力発電所のリプレースが可能な技術を確信を持って特定することはできず、2030年から2050年頃までの期間は、100%再生可能エネルギーとするシナリオから原子力が長期的に存続するシナリオまで、数多くのシナリオを評価する必要があるとしている。
 また、電力供給ミックスにおいては、競争力など複数の不確定要素が存在するため、新たな原子炉の建設能力を技術面や国家的産業としての側面からも温存する必要があると明言。新規の原子炉建設に向けた意思決定を可能にするため、政府としては2021年の半ばまで、以下の点を含めた全面的な作業プログラムにより、原子力部門を主導していくとした。すなわち、

●原子力産業界とともに、仏国が新規原子炉建設プログラムの遂行能力を有している点を実証。仏国初の欧州加圧水型炉(EPR)となるフラマンビル3号機の起動経験をフィードバックして、その経済性と安全性能を確実なものとする。また、EPR設計を採用して英国で建設中のヒンクリーポイントC発電所計画も動員し、EDFが低リスクのニュー・モデル「EPR2」を提案する。

●「EPR2」モデルの開発で必要となるコストについては、すべての直接コストと間接コストを考慮した上で、その他の低炭素発電技術と技術・経済面の比較を行う。

●新たな原子炉建設プログラムに対する資金調達など、経済的側面も含めたオプション分析を実施する。

●資金調達等について欧州委員会が実施する検証に対し、必要なアクションを取る。

●新規原子炉の立地サイト選定に向けた調査を実施し、公開協議等に向けたアクションを取る。

●このようなプログラムの実施で必要になる法令および規制枠組の調整を行う。

  (参照資料:EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)