IEAビロル事務局長が米議会で証言:原子力設備の減少防止で政治的アクション必要

2019年3月4日

 国際エネルギー機関(IEA)のF.ビロル事務局長は2月28日、米国議会上院のエネルギー・天然資源委員会が開催した公聴会で証言を行い、効果的な政治的アクションを取らない限り、原子力発電でかなりの設備容量が失われていくことになると警告した。

 この公聴会は、米国の役割も含めた世界のエネルギー市場の将来見通しに関するもので、ビロル事務局長はエネルギー専門機関であるIEAの視点から、まず近年の動向について説明。最後の部分では原子力発電設備について、「米国の主要な資産と捉えるべきだ」と発言しており、米国は、フランスやロシア、日本などとともに60年にわたって原子力発電技術でリーダー的立場を維持してきたが、米国の政策が変わらなければ、新たなリーダーとして今後は中国が台頭することになるとの認識を表明した。
 同事務局長によると、中国は過去20年間に原子力発電開発を急速に加速し、2000年に3基だった商業炉の数は昨年末までに46基に拡大。このまま行けば、10年以内に中国が米国を追い抜き、原子力設備で世界第1位になる見通しである。

 米国の原子力発電所は今もなお、太陽光と風力を合わせた低炭素電力の約2倍の量を発電するなど、電力供給保証の維持という点で重要なベースロード電源。異常な寒波に見舞われて、電力とガスの需要量が増大した北部地域においては、太陽光発電量が不足する時期などは特に原子力が重要となるほか、原子力であれば周波数の制御やその他のシステム・サービスが可能だと述べた。
 事務局長はまた、小型モジュール炉(SMR)など原子力発電関係の技術革新に、近年は国際的に開発意欲が増大していると指摘。工場で組立ができるほか、場所を選ばずに建設が可能という柔軟性、先行投資額も少なくて済むなど複数の利点を挙げた上で、米国が指導的役割を果たせる技術革新上のさらなる機会になるとしている。

 しかし、米国の原子力発電所は、今や大きな課題に直面していると事務局長は強調。政策面で効果的なアクションを取らなければ、設備容量のかなりの部分が失われていく方向にあり、エネルギーの供給保証とクリーン・エネルギーの確保という2つの目標の、どちらについても害を及ぼすとした。
 最も優先すべき事項としては、既存の原子力発電所の保護を挙げており、安全性が確保される限りは原子力発電所の運転期間を延長すべきだと指摘。同事務局長は、米国内の大部分の地域でこのことは「課題」になるとしたが、その理由としては、エネルギーの供給保証やクリーン・エネルギーの確保に対する原子力の貢献に、電力卸市場が価値を見出していない点を挙げた。原子力によるこのような貢献を長期的に維持するためにも、米国はSMRを含めた新しい原子力技術革新を継続的に加速していく必要があると説明している。

 (参照資料:米国議会上院の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)