vol07.再生可能エネルギー拡大の影響は一国にとどまらない
(3) 電力市場の枠組みと自由化
ドイツではエネルギー事業法で電気事業・ガス事業の規制が行われており、送配電部門が規制対象となっており、発電及び小売供給は安全に関わるものを除き非規制となっている。自由化当初は、前述の通り送配電部門を含めた事業規制の撤廃で家庭部門を含めた小売全面自由化を実施するとともに、送配電利用料金である託送料金及び託送制度は産業界等との協議で決定する自主規制方式であり、電気事業の監視は連邦カルテル庁による独占禁止法に基づく規制のみであった。
しかし2003年改正EU電力指令により、電気事業専門の独立規制機関の設置と、独立規制機関による送配電部門への規制が義務化されたことを受け、2005年にエネルギー事業法が改正され連邦ネットワーク庁が設立され、送配電料金規制と市場監視を担うことになった。また2009年改正EU電力指令により、2011年のエネルギー事業法改正で連邦ネットワーク庁は送電線の建設計画策定の取りまとめの責任を負うようになった。更に2013年のエネルギー事業法改正では、再生可能エネルギー発電の導入拡大で卸電力価格が低迷すると共にガス火力発電の稼働率が低下したため、火力発電設備の廃止が相次いだことを受け、1万kW以上の発電所に対し、発電所の停止に際しては事前届出および許可制とする措置を導入した。
このように自由化開始当初は独占禁止法に基づく規制のみで、電力業界と産業界の協議に基づく自主規制方式であったが、EU大での規制枠組みの見直しや再生可能エネルギーの導入拡大に対応するため、発電部門及び送配電部門への規制が強まっている。
3ドイツを中心とした国際電力取引市場
(1) EPEX Spot とEEX Derivatives
ドイツには実際の発電計画を取引する卸電力取引所としてEPEX Spot が設置されている。EPEX Spotはドイツ、フランス、スイス、オーストリアを跨る国際卸電力取引所であり、前日スポット取引及び当日スポット取引を行うことができる。EPEX Spotはオランダに本拠を置くAPX Group の100%所有(APX Groupはオランダ/イギリス/ベルギーでスポット市場を運営)となっている。スポット取引の他、隣接する17 ヵ国との国際連系線の市場結合(連系線市場取引管理)も担っている。
またドイツにはエネルギーデリバティブを扱う取引所としてEEX Derivativeが設置されており、電力先物取引、ガス先物取引、石炭先物取引、石油先物取引、CO2排出権取引および農作物先物取引(ジャガイモ等)を扱っており、金属先物取引の導入も検討されている。このように多様な商品が提供されていることで、電気事業者はEEX Derivativeでの各種取引を通じて各燃料の調達やCO2取引を総合的にリスクヘッジすることができる。電力先物取引の多くは年間物であり、固定価格の電気料金を希望する需要家へ小売販売を行う際の調達費用固定化を図ること等に用いられることが多い。
(2) 電力取引状況
ドイツはオーストリアと同じゾーンに属しており、ドイツ単独でスポット価格を形成していない。
ドイツの発電部門は4大電力会社のシェアが7割程度に達していることから、4大電力会社の市場支配力を緩和するためにオーストリアと共通市場としたという経緯がある。2014年のEPEX Spotにおけるドイツ/オーストリアエリアの取引量は前日スポット取引2,699億kWh および当日スポット取引264億kWh に達しており、これは両国の電力消費量合計の50%に相当する。
EEX Derivative の電力先物取引は8,120億kWh に達しており、電力消費量を上回る規模に達している。
こうした先物取引の活発化はスポット取引の入札にも影響を及ぼしている。先物取引のポジション解消のためにスポット取引が利用されるため、価格水準と関係なく取引を行う価格独立型の入札の割合が高くなっている。送電会社(TSO)による再生可能エネルギーの固定価格買取制度による電気の販売もスポット取引が使用されるため、入札の7割から8割近くが価格独立型となっている。つまり2割~3割程度の取引でスポット取引全体の価格を決めていると言い換えることができる。
また再生可能エネルギーの導入拡大でスポット取引においてマイナスの取引価格となる事態が生じている。マイナスの取引価格ということは、発電側がお金を支払って発電し、消費側はお金をもらって電気を消費することを意味する。火力の多くは一旦停止すると再稼働までに時間を要することが多いが、再生可能エネルギーのうち風力および太陽光は短時間の間に出力が大きく変動することがあり、こうした出力変動による火力の特定時間のみの停止を回避するためにマイナスのスポット価格となるのである。
(3) 予備力共通市場
ドイツでは各送電会社が独自に予備力の調達そして運用を行っていたが、2001年より送電会社は連邦カルテル庁のガイドラインに基づき予備力の市場調達を開始した。2006年から一部の商品で送電会社が共同で調達を開始し、2010年からは送電会社4社が共通のプラットフォームで予備力の調達を行うようになった。
ドイツの予備力には周波数の水準に応じて発電機側で自動応答する一次予備力、送電会社が周波数の水準と発電・消費のバランスを監視しながら自動で発電機へ指令を出し運転を行う二次予備力、送電会社からの指令で二次予備力を使った後に二次予備力を代替するために使用される三次予備力があるが、一次予備力・三次予備力は送電会社が共同で調達し、三次予備力は入札価格が安い順番から使用するメリットオーダーで運用を決めている。
この予備力調達プラットフォームには2012 年にベルギー、デンマーク、チェコおよびスイスが参加し、各国の送電会社間で卸電力取引することで各国のインバランスを他国へ輸出することが可能になった。2014年にはオランダも参加することになり、オランダの送電会社の予備力の調達にも活用されている。なお、オランダの送電会社TenneTはドイツE.ONの送電会社を買収して子会社化している。