vol07.再生可能エネルギー拡大の影響は一国にとどまらない

脱原子力 ドイツの実像

5電気料金の推移

 ドイツでは1998年に自由化が開始されたことで、競争の活発化、設備の合理化の進展等によって電気料金は一時低下したが2000年以降は上昇傾向にある。2014年には2000年比で家庭用が109%増、産業用が153%増と大幅な増加となっている。
同期間の料金内訳の変化を見ると、家庭用では電力の調達にかかる費用であるエネルギー・ネットワーク費用が約35%増、再生可能エネルギーの導入促進にかかる賦課金が約42%増となっている。一方で、産業用では、エネルギー・ネットワーク費用が約16%増、対して再生可能エネルギー賦課金が約65%増となっている。共通している点は、電力供給そのものにかかる費用であるエネルギー・ネットワーク費用が増加している点と再生可能エネルギーの導入促進にかかる費用が増加している点である。
 家庭用電気料金については、2014年のエネルギー・ネットワーク費用は全体の料金の概ね半分程度であり、残りが税金や公的な負担金(租税公課)となっている。再生可能エネルギー促進のための賦課金はkWhあたり(以下同)6.24ユーロセント、電力会社が事業を行うために地方自治体へ支払う料金(コンセッション・フィー)が1.66ユーロセント、電力税が2.05ユーロセント、付加価値税が4.65ユーロセントとなっている。各費用項目の中で、電力税、コンセッション・フィー等は2000年からほぼ横ばいとなっているが、再生可能エネルギー促進賦課金は2000年の0.2ユーロセントから大幅な増加(年平均28%増)となっており、CHP 導入促進のための費用と合わせると電気料金全体に占める割合は2014年で23.2%となっている。
 特に、家庭用電気料金の中でも大きな割合を占める再生可能エネルギー促進賦課金は2015年には6.17ユーロセントとなり初めて減少することとなった。今後、政策変更の見直しによって賦課金の伸び幅が縮小していくことが期待されているが、2016年の見通しでは、6.354ユーロセントとなり再び増加する見込みとなっている。再生可能エネルギーの絶対量を増やす方針の中で負荷金額が今後どうなっていくかが課題となっている。

 

 産業用電気料金については、2014 年のエネルギー・ネットワーク費用が占める割合は全体の料金の半分以下であり、過半が税金や公的な負担金(租税公課)となっている。再生可能エネルギー促進のための賦課金が6.24ユーロセント、コンセッション・フィー等が0.591ユーロセント、電力税が1.537ユーロセントとなっている。家庭用電気料金と同様に各費用項目の中で、電力税、コンセッション・フィーはほぼ横ばいで推移してきたが、再生可能エネルギー促進賦課金は2000年の0.2ユーロセントから大幅な増加(年平均34%増)となっており、特に産業用電気料金は家庭用電気料金に比べて絶対額が低いため、電気料金全体に占める再生可能エネルギー賦課金の割合が2014年には40.8%にまで上昇している。一方で、エネルギー・ネットワーク費用は卸電力市場価格の低下の影響によって2012年から2年連続で減少し、2年間で約2ユーロセントの減少となっている。この結果、産業用電気料金の構成費用の中で、政策費用としての再エネ賦課金の負担が重くなってきている。

 

 ドイツでは、自由化後にエネルギー・ネットワーク費用が減少したが、その後、2000年代に入り国内での化石燃料価格の上昇等に伴って同費用が増加してきた。加えて2000年3月に導入された再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)によって再生可能エネルギーの導入が益々拡大する中で、再生可能エネルギー普及拡大に伴う支援政策にかかる費用が益々増加している。直近では、卸電力市場価格の低下に伴ってエネルギー・ネットワーク費用の低下により電気料金の絶対値の伸びはやや鈍化しているが、再生可能エネルギー支援政策推進に伴う費用負担が電気料金の中で大きな割合を占めることとなっている。政府は、国際競争力の確保、家庭負担の緩和の観点から再生可能エネルギー導入促進にかかる負担の見直しを含めて買取政策の見直しを進めており、買取価格、買取方式の変更によって負担額を押さえるための対策が検討されている。

6電力市場2.0
(1) 電力市場改革の必要性

 ドイツは国内に豊富な石炭資源を有しており、これを使った石炭火力発電の開発を中心に電源開発を進めてきた。特に石油危機以降は原子力発電の開発を進め、現在も主たる電源としている。1998年の全面自由化以降は、競争に伴って余剰となっていた発電設備の整理が進み、さらに2002年の脱原子力政策により発電設備の中心は石炭火力からガス火力、その後の固定価格買取制度(FIT)による再生可能エネルギーへと移ってきている。特に2011年3月以降は、一旦は撤回した脱原子力政策の回帰とともに再生可能エネルギーの更なる普及促進によって、火力発電の新設計画を見直す事態が発生している。これは、再生可能エネルギー電源の導入拡大による卸電力価格の低下が一因となっている。
 再生可能エネルギーは、FITの下で系統に優先的に供給されるルールがあり、くわえて、多くの再生可能エネルギーは燃料費がかからないため市場で低い価格で入札される。このため、他の電源と比較して優先的に落札される傾向にあり、卸電力市場に大量の再生可能エネルギー由来の電力が流れ込むことで市場価格の大幅な低下を引き起こした。これにより、既存の発電設備は採算がとれなくなり運転停止、閉鎖に追い込まれる事例が増えている。結果として、電力システムを安定的に維持するために必要な十分な発電設備容量、供給力の確保に対する懸念が生じることとなった。
 ドイツ連邦政府は、発電設備の閉鎖の連鎖による供給力不足問題の対応として、対症療法的に、事業者に対して発電設備を稼働停止する場合には政府に申し出ること、更に、必要に応じて発電所の稼働停止を禁じた上で当該発電所に適切な範囲で運転継続にあたっての補償を請求する権利を与える制度を策定した。政府による発電所稼働停止にかかる指導の事例として、イルシング発電所の事例がある。
 イルシング4,5号機は2010年、2011年に運開した世界最高レベルの効率を誇るコンバインドサイクル・ガス火力発電所であるが、卸電力価格の悪化等により採算性が悪化し、事業者であるE.ONが発電所の閉鎖の方針を打ち出していた。これに対してTenneTは連邦ネットワーク規制庁と共同で、系統安定上の必要性を考慮した上での経済合理的な解決策として両機の運転継続を求めたのだ。現在、火力発電を含む発電投資の採算性の改善は、ドイツ国内での安定供給上の課題となっている。
 連邦経済エネルギー省(BMWi)は、電力市場の抜本的な解決策によってこのような状況を打開すべく、再生可能エネルギーの大量導入と電力の安定供給の維持、経済性の追求を同時達成しうる新たな電力市場設計のあり方を関係者に問うとして2014年10月にGreen Paper(Grünbuch)を発表した。その後、関係者からのGreen Paperへの意見を受けて、2015年7月に電力市場改革法案の元になるコンセプトを記したWhite Paper(Weißbuch)を表している。
 White Paperは、従来型電源の経済性を保証する枠組みとして、Green Paperで検討されていた仕組みの一つである「容量市場」を導入しないと決定した点が大きなポイントである。White Paperでは容量市場を導入しなくても、電力量を取引する卸電力市場と需給調整市場の改革によって低迷している発電設備投資を促し、戦略的予備力(容量リザーブとも呼ばれる)を導入することで、安定供給を維持できると結論づけている。BMWiでは、White Paperのコンサルテーションを経て2015 年11 月4 日に電力市場改革を含むエネルギー政策を閣議決定している。これを踏まえて、2016 年春に改革法案の議会での成立を予定している。

(2) 電力市場改革の目指すもの

 White Paper では、電力市場改革によって、必要な供給力を決定し、投資家が信頼できる法的枠組みの構成を進めることで、安定供給、経済性、イノベーションと持続可能性の3 点を追求することを挙げている。特に電力市場改革を実行するにあたり、短期的に必要な20 の手法を明らかにし、

 

  1. 市場メカニズムの強化:市場の透明性向上・インバランス料金強化等
  2. 弾力的で効率的な電力供給:バランシング市場参加拡大、デマンドレスポンス導入を促す託送料金、スマートメータ導入、輸送電化、ピーク抑制型再エネ導入インセンティブ等
  3. 供給セキュリティー追加措置:セキュリティー監視、容量予備力の創設、戦略的予備力の継続等

 ――の3つの論点毎に整理している。くわえて、より長期の取り組みとして今後のエネルギー転換の進展にともなう課題の解決に向けて、「欧州域内市場の強化」、「再生可能エネルギーの支援策の最適化」を始めとした更なる発展に向けて取り組むべき分野についても言及している。
 また、ドイツの議論とともに、欧州全体として欧州委員会が2015 年2 月に「エネルギー同盟戦略案」、同年11 月に「エネルギー同盟現状報告書」を発表し、再生可能エネルギーの普及拡大を前提とした、今後の市場改革の方向性として「市場メカニズムの強化」、「再生可能エネルギーの市場への統合」、「インフラ整備の強化」といった点を挙げている。欧州で進む再生可能エネルギーの導入拡大は、一国の課題にとどまらず、電力市場改革を通じて連系する地域全体に市場メカニズムの活用と更なるインフラの強化を求めている。


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