(OECD)各種エネルギーのリスク比較を発表
経済協力開発機構(OECD)はこのほど、「原子力発電所の事故リスクとその他のエネルギー源の事故リスクの比較」と題する報告書を発表した。
報告書は、他のエネルギー源と比較して原子力発電所の事故リスクはどのように管理されているかについて、政策決定者の理解促進に資するためポールシュラー研究所によりまとめられた。調査は、1969年から2000年までの間のエネルギー産業における5名以上の急性死亡につながる事故を対象としている。
当該期間中に、世界中で1870件の過酷事故が発生し、81,258名が死亡した。原子力発電所では唯一の過酷事故であるチェルノブイリ事故が起き、31名(発電所および緊急時要員)が死亡した。
報告書は、OECD加盟国と途上国との間では、安全レベルに顕著な違いがあることを示している。OECD加盟国では、過酷事故は390件しか発生していない(死亡者数は8934名)。原子力発電所の過酷事故は皆無である(表参照)。
OECDは、チェルノブイリ事故によって影響を受けた地域の長期的な健康影響について、今後70年間で最終的に9,000〜33,000名が死亡するとの数字を引用している。この数字は、EC、世界保健機関、IAEA及びロシア当局の報告書に依拠しており、検討対象地域や低レベル放射線影響についての解釈によって左右される。
報告書は、「この数字は議論のある『閾値のない直線(LNT)』仮説に基づいている」と指摘して、この数字の利用について厳しく条件付けている。報告書はまた、すべての人が自然放射線から受けている被曝の影響について、同仮説を適用して考えることは意味がないともしている。つまり、チェルノブイリ事故の影響(世界の実効線量は60万人シーベルト)により9,000〜33,000名が死亡すると計算したLNT仮説を用いると、今後70年間にわたって、一般公衆は自然放射線によって9億1,000万人シーベルト(人口は一定と仮定)の集団線量を受ける。したがって、自然放射線による死亡者数は理論的にはチェルノブイリ事故による死亡者数の1500倍(50,000,000人)になるとの計算になる。しかしながら、(LNT仮説以外に)チェルノブイリ事故による死亡数を予測する手段はほかになく、ここでのがんによる死亡者数は極めて過大評価となっている。
OECD報告書はさらに、OECD諸国にチェルノブイリ事故のリスクを外挿することは、不適切であるとも指摘している。その理由として、当時のウクライナがおかれた状況とは違い、OECDの原子力発電所は、より安全な技術を用いてより厳しい体制の下で運転されている点をあげている。
さらに、「原子力発電所の事故はまれであり、安全性を比較する最も有力な方法は確率論的安全評価(PSA)手法を使うことである。PSAをスイスのミューレベルグ原子力発電所に適用したところ、2,000名の潜在的死亡者数の発生確率は百万年に1回の割合であることがわかった。つまり、新しい原子力発電所で事故が発生して放射能が放出する可能性は、第1世代の原子力発電所に比べて1600倍低い」と指摘している。
報告書は、チェルノブイリ事故による潜在死亡予測は、非OECD国の最大のダム決壊による早期死亡と同様のレベルであるともしている。これは、1975年、中国のBanqiao/Simantanダム決壊事故を引用したもので、3万人が犠牲になっている。
報告書には、原子力以外の事故による潜在的死亡者数は含まれていない。しかし、OECDの「環境アウトルック」のデータをベースに、化石燃料発電の粉塵による約28万8,000人(世界)の早期死亡の数は含めている。結論をいえば、エネルギー利用による事故での死亡は、化石燃料の排出物による健康被害に比べ非常に少ない。しかし、事故は多くのメディアの注目を集め世間の注目を集めている。
(2010年9月3日付WNN)
(原産協会・国際部まとめ)