花ってのは人を呼ぶんだね

佐藤右吉さん

2019年07月16日掲載

震災後、いち早く大熊町へ戻った佐藤さん。

数年前から町のいたるところに「ざる菊」を植え始めました。

「少しでも人が町に戻れば」との思いで始めた活動が、多くの人の心を動かしました。

──震災後に大熊町から避難をされて、どのようなご苦労を?

 

最初は、昔会社勤めしていた新潟県の柏崎に行ったんだよね。

女房と二人で軽トラックで。道はガタガタだったから乗用車だともったいないし、避難先では物置としても使ったりして、軽トラはなかなか便利だったな(笑)

 

その次は若松に戻ってきたの。やっぱり県外生活をしてると情報が入ってこないことがあって。若松は80世帯くらいが住んでいるところだったんだけども、周りにいたのが(大熊町から避難していた)知ってる人ばっかりだったから、かえって楽しかったくらいだ。

毎日毎日。話すこともあったりして、寂しさは感じなくて。

 

 

──最初は大熊に1人で戻るということに、周囲の方々の反対はありませんでしたか?

 

まぁいろいろ言われた。1番目だから、オレ。

 

若松に住んでいたときに、大川原が復興拠点になるって話があって。一度家の様子を見に来たときは除染が始まっていたんだけど、屋根の瓦の一枚一枚までやってくれててね。これはスゴいと思った。ここまでやってくれるんだったらよそへ行くことないと思って。

町長も「1人でも町民が戻れば、大熊町は何とかする」って言ってたんだよね。だからオレが一番先に戻るわと。

 

 

──町をパトロールする見守り隊にも参加されているんですね。

 

そうだね。戻れない人もたくさんいたから。特に子どもさんがいる人たちなんかはな。そういう人たちの財産を守ってやらなきゃなんねぇなと思って。

自分たちのふるさととして、大熊に戻ってきたからにはこれをやらないと。

 

初めてからもう7年近くになるかな。今までずっと見回りをやってきた。

きのうも夜中までやって帰ってきたんだ。

──夜勤もあるのですね。かなり大変ですよね。

 

そう。見回りは3交代でやってるの。24時間やってるから。
だから、(午前)7時から(午後)4時まで、また次の人は(午後)3時から12時、その後は、本当に朝までやるんだ。(午後)11時から(午前)8時まで。
その3交代なんだよ。1組3人で。

 

すごいと言えばすごいんだけど、これも財産をみんなで守ってやんなきゃなんないからと思ってのことで。これから戻ってくる人もいるだろうし。それで今もこのまま続いてんだ。

 

 

──動物による被害も多いと聞いています。

 

そうだな。泥棒よりひどい。

うちも泥棒にいろいろとやられたけど、イノシシはそれ以上だ(笑)

 

 

──やはりイノシシですか。

 

イノシシはハンパじゃない。夕べなんかも7~8頭はいたな。
車なんか近づいても避けないから。あいつら頭いいんだ。こっちがゆっくりパトロールしてると追っかけてくる。

除染作業で機械の作業の音に慣れちゃったのかな。さすがに人間がおりて近づけば逃げちゃうけども。

そこら中にいるって感じだったな、最初のころは。

──町内にざる菊を植えているのも、少しでも町民の方に戻ってきてほしいという思いがあるのでしょうか?

 

そうだね。ざる菊を植えようと初めて考えたのは6年前(2013年)くらい。どうせ植えるなら大川原にないような花がいいなと思ってたらこれを見つけてね。
それまではざる菊なんか全く知らなかった。20株ばかり分けてもらって、うちの畑で増やしたんだよね。

 

それを道路の横に植えたら、そこを通る人たちが、「なんていう花だ?」と聞いてきたりして。そのとき思ったんだよな、花ってのはいいものだって。知らない人が声をかけてくる。「それなんの花?」って。なにもなかったら他人に声かけたりしないもんね(笑)

 

これから大熊に戻ってくる人も復興住宅に入ったきりではいられねぇだろうから、散歩したりすると思うんだ。そうすると、そういう人たちの楽しみもないとね。

 

 

──先ほども花を見ている方々がいらっしゃいました。

大熊町役場前のざる菊(2018年11月撮影)

 

そう、花ってのは本当に人を呼ぶんだね。それを見ていいことだなと思って、2年目、3年目は花をどんどん増やしていった。すると、写真を撮りに来る人なんかも結構いて。みんな写真を撮ってく(笑)

 

 

──我々も撮らせていただきました(笑)

 

こっちの花も(壁にかかった写真を指差して)、この前NHKが取材に来て、テレビで流れたんだ。それを見て東京とか、いろんなところから人が来たんだよ。
役場に問い合わせたようで、そこからオレのとこに来たんだ。いろんなところから電話もかかってきたりして、すごかったな。

──町内だけではなく、県外までも反響があったんですね。

 

うん。(写真を指差し)この人が熊本の人なの。あっちも震災で大変だったからね。
オレ70株くらい向こうに菊を送ったのよ。そしたらその人が去年の秋に来てくれたんだよ。「どういう花なんだべ?」って、「どうやって育てるのがいいんだが?」って聞きに来た。教えてやったんだけども、結局あまり出来は良くなかったみたい。

だけど後で写真を送ってくれたり、少し前にも電話をくれたり。オレからも電話するときもあるし。
いいつながりだな。お互い(地名に)熊がつくとこに住んでるし(笑)

 

 

──確かに(笑) 花にはすごい力があるのですね。

ざる菊を準備中の畑

 

そうだな、日本の花は。でもやっぱり菊が王様だな。夏の花なんかは咲いて当たり前だと、オレはそう思うんだよな。

でも菊は咲くまでに本当に手がかかる。菊人形とかもね。咲くまでに手がかかる分きれいに見えるのかな。

 

 

──今も佐藤さんの畑には、たくさんのざる菊が植えられていますね。

 

そう、今は今年の分の準備をしていて、900本くらいあるかな。
おかげさんでテレビとか、皆さんがいろいろ宣伝してくれたから、たくさん声がかかって。大変なんだよ、逆に。

うちの女房は手伝う気ないし。だけどもう、やめるわけにはいかないだろ?(笑)

photo: 石井敬之
text: 山田敬