楢葉町
ふくしま ましまし事業者数は増えてるんです
齋藤 徹さん
楢葉町商工会経営指導課 主査
経営指導員
2018年01月10日掲載
齋藤さんは福島市出身。県立福島高等学校、福島大学経済学部を卒業。2010年4月に楢葉町商工会に赴任。その1年後に地震に遭遇した。
商工会のおしごと
齋藤さん:
楢葉町商工会は2016年4月に楢葉町へ戻ってきました。これまで商工会が従来行っていた税務や資金繰りの支援に加えて、楢葉町で事業を再開している、再開を目指している、または避難先で再開している事業者さんの全体的な支援と、楢葉町役場と一緒に商業面での町づくりを進めています。
事業者数については、商工会の会員数だけで考えると、震災前は209でしたが、現在(2017年2月時点)は255です。減るどころか増えてるんですよ。もともと会員ではなかった地元の事業者さんや、新しく事業を始めたり楢葉町に進出してきたりした事業者さんが、商工会の経営支援を求めて会員になったのが主な要因です。東京電力の営業損害賠償の請求手続きや、事業再開に関する補助金、資金繰り制度、等といった震災復興関連の新制度を活用するには、請求書や申請書類の作成がかなり大変なのです。商工会は会員・非会員を問わず地域の商工事業者の支援をする団体ですが、地道に支援を続けたところ、多くの入会申し込みがありました。非常にありがたいことと思っています。その反面、再開できなくて悩んでいる、廃業を決意して脱会した会員もいます。
楢葉町で事業を再開する場合は、国や福島県から復興関連の支援施策を受けることができます。2016年度から公募が開始された「福島県原子力被災事業者事業再開等支援補助金」は、施設・設備を整備するために必要な費用の4分の3が補助される制度です。ただし、補助金はお金が入って来る前に事業費全額を立替えなければいけません。例えば3000万円の事業費がかかるとして、補助金は2250万円まで出るんです。ですから用意するお金は750万円で済むかというとそうではなく、3000万円全額を用意して支払った後に実績報告をしてからでないと補助金は入ってきません。
その3000万を支払うための資金繰り計画が必要になります。資金繰り制度についても無利子・無担保といった支援施策があり、申し込みのための事業計画作成をお手伝いします。将来的には、事業計画をご自身で作成できるように指導しております。
今は建設業が中心ですが、これからは小売業や飲食業、サービス業の方々が中心になってくれるといいなと思っています。商業は住民がいないと成り立ちませんが、住民の生活も商業がないと成り立ちません。今、両者は互いに先が読めない状況ですが、楢葉町が進めるコンパクトタウン(商業施設)構想が早急に実現するよう、商工会も全力で支援しています。
まず県内から風評払拭を
齋藤さん:
風評被害対策にも力を入れています。楢葉町の食べ物をちゃんとPRしていこうと。私自身先日、日本橋ふくしま館MIDETTEに同行して、楢葉町に出店している飲食店の豚丼のPRをしてきました。「1日30食、3日で100食いけばいいね」と話してたんですが、1日で100食を販売することができました。3日間で400食は超えたと思います。私は店舗のレイアウトや商品の販売方法をアドバイスするだけでなく、豚肉を焼いたりもしていました。その際、日本橋ふくしま館の出展担当者から聞いた話ですが、福島県産の食品について、ちゃんと放射能検査をして安全性が担保されているものでも、「福島県産」となっていると未だに買ってもらえない。特に、福島県民自身が地元産を避けている傾向にあるようです。
そこで、福島県内から風評被害を払拭するために、福島県商工会連合会の主催で、「福島の美味しいもの食のフェア」も開催しています。福島県の美味しいものを福島県の人を中心に食べてもらおうという取り組みです。まずは、福島県内から風評を払拭していこうと取り組んでいます。楢葉町からパン屋さんのラスクや地元飲食店からイワナの味噌漬けを出展しました。いずれも完売して、大きな自信になったようです。
楢葉町も特色を出したい
齋藤さん:
過去の歴史を振り返ると、1973年に原子力発電所が立地した時に、楢葉町は町の色を打ち出すことができず、商店街の規模も他の町ほどではなかったと伺っています。そのため、楢葉町の北に位置する富岡町が、商業の中心地になってしまったとのことです。今後、楢葉町が独自の色を出して他の町の模範となれるように、町行政と協力して町づくりに取り組んでいきます。
事業再開は段階的に進んでいます。震災復興事業が主な産業になっている今の楢葉町においては、建設業の再開が多く、商工会の「商」が小さくなって「工」が強くなっています。
どの業種においても、楢葉町で働く人が今はどうしても足りなくて、人材不足が深刻です。人材のマッチングのため、商工会は福島広域雇用促進支援協議会の構成員としてインターンシップ(就業体験)の導入を提案してみたり、事業者さん自身で求人サイトに登録するよう勧めています。やはり自分の会社を自分でPRできないと、人は集まりません。自分でPRする心構えが大切です。
震災前までは東京電力の企業城下町のようなもので、電気事業をはじめとする関連事業の取引が多く、仕事に困ることが少ない地域でした。「俺は関係ねぇよ」とうそぶいていても、関連する社員がたくさんいたおかげで消費があったというのは間違いのない事実です。そのためどちらかというと「待ち」の営業という感覚があるんです。もう状況は変わってしまっているので、これからは自分から仕掛けていかないといけません。そこを商工会としてもしっかり支援していかないといけないなと思っています。
震災はきっかけだった
齋藤さん:
廃炉関係や研究関係で、楢葉町の外からやってくる起業家のみなさんは、長期的な需要が見込まれるため、今後また増えていくと思います。その反面、事業の廃業というのも今後、増えていくでしょう。震災からずっと休業している方に関しては、前向きな判断をしてほしいと願っていますが、そのほとんどが、おそらく廃業の方向に進むのではないかなと予測しています。
これは悪意を込めて言うわけではないのですが、今回の震災と原子力事故が原因で「事業をやめることができる」というのもあるのかなと。「どうすっかな、やめっかな、息子はサラリーマンになっちゃったし」なんていう人もいて。売上不調や後継者問題等で事業を続けるかどうか悩んでいた事業者さんは、おそらく今回の震災という大きなきっかけに加え、営業損害賠償金により債務が無くなった。さらに個人としての賠償金も出た。「東日本大震災と原子力事故」という、事業をたたむ大きな理由ができた等で、廃業しやすい環境にあると思います。休業中の事業者さんは50くらいあるのですが、実際に話を聴いてみると、事業を再開したいと考えているのはそのうち5人くらいなんですよ。
楢葉町商工会にとって2017年が正念場だと思っています。それこそ、コンパクトタウン構想における商業施設の整備にすべてが懸かっています。これから3回目の補助金公募がスタートするのですが、数多くの事業者さんが手を上げてくれることを期待しています。事業再開に向けて不確定なことも多いですが補助金等の支援施策で少しでもリスクが軽減されれば。
しかしながら、補助金とか賠償金に頼り過ぎない形で、事業者のみなさんが自立できるように、商工会としてもしっかりと支援活動をしていきたいです。
(本記事は、2017年5月23日に公開されたものを再レイアウトしたものです。 )
photo & text: 石井敬之