令和6年 第一号 三菱重工業株式会社 上田陽功さんに聞く!令和6年 第一号 三菱重工業株式会社 上田陽功さんに聞く!
  • text: 石井敬之
  • 28 Jun 2024

太陽内部で起きている核融合

上田さん:小さいころ、どうして太陽が燃えているのか、どうやって膨大なエネルギーを出しているのか、不思議でなりませんでした。

小学3年生の理科の授業で、酸素があれば火が燃えるというのを学んだ時、宇宙空間には酸素がないということを知っていたので、「じゃぁ、なんで太陽燃えてんのよ?」と。

周りの人にたずねても、スッキリとした回答が得られません。そこで自分で調べていくうちに、太陽の内部では、核融合が起きているということを知りました。大学では太陽や宇宙を研究しようと物理の分野に進みました。そして核融合をもっと人類のために、人々の暮らしに役立つものとして生かしたいと思うようになりました。

上田さん:現在は量子科学技術研究開発機構(QST)の核融合炉「JT-60SA」に組み込む、「ECランチャー」の設計を担当しています。

JT-60SAはトカマク型と呼ばれる核融合炉で、ドーナツ型の真空容器の中にプラズマを生成します。核融合を起こすにはこのプラズマを1億℃まで高める必要があります。つまりプラズマを、超高圧かつ超高温な状態にしなければいけません。

高圧にするために、磁場で電子を閉じ込めます。外に逃げられないよう磁石で引っ張るようなイメージです。引っ張って集めたプラズマに、ランチャーを用い、別の場所で作った高周波のエネルギーを入射させます。ビームを打ち込むようなイメージです。プラズマに電磁波のビームを当てて電子と陽子を活性化させ、より温度を高めていくわけです。電子レンジの原理と同じですね。

ただし、ビームを打ち込む時に漠然と全体に打ち込んでも、意味がありません。温度が不安定になりやすい部分へ向かってバシッと当てます。ビームの方向を調整するために、ランチャーのミラーで反射角度を変え、狙った位置にビームを当てるのです。

上田さん:大学院では地球を包む磁場を可視化するための観測装置の開発に携わりましたが、製作し、検査し、ちょっとここが足りないから、こういう風にしてみよう、という風に改良を重ねる…こうしたモノ作りがとても面白かったのです。今は、高温下に耐えるミラーの冷却装置を設計していますが、形を考えて決めて加工してという一連の作業に、とてもやりがいを感じていて、自分は設計に向いているのかなと思っています。

実際に作ってみると設計通りにいかないことが多々あるのですが、こうすればいいんじゃないか、ああすればいいんじゃないかと、試行錯誤しながら進め、課題を一つずつクリアしていくところに途轍もない達成感を味わえます。設計あるあるですかね。

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将来は実用段階の核融合炉を設計したい

将来は実用段階の核融合炉を設計したい

上田さん:入社したばかりの頃は、提案したものが次々とダメ出しされました。

自分が正解と思ったものが、現実には不正解であることが続きました。解析では良い結果が出たものでも、実際には製作自体が不可能ということもありました。どうしても知識と経験が足りないのです。大きな時間をロスし、もどかしい思いをしました。最終的には同じチームの先輩方がカバーしてくれて、納期に間に合わせることができました。自分も知識と経験を蓄えて、一日でも早く先輩たちのようになりたいと、切実に思います。

上田さん:私の究極の夢は、核融合によって、地球上に普遍的かつ半永久的なエネルギーを生み出すことです。私が今携わっているJT-60SA計画は、核融合エネルギーの早期実現のために日本と欧州が共同で実施しているプロジェクトであり、今の仕事は自分の夢に繋がっていると思っています。

実用規模の前段階の核融合炉としては、日本、欧州、米国、ロシア、韓国、中国、インドの7極が取り組む超大型国際プロジェクト「ITER」1「イーター」と読みます。元々は「International Thermonuclear Experimental Reactor (国際熱核融合実験炉)」と呼ばれていましたが、現在ではITERが正式名称となりました。がありますが、私が機器設計の一端を担っているJT-60SAは、ITERではできないような野心的な実験を担当しています。たとえばプラズマは圧力が高ければ高いほど不安定になります。それをどこまで高圧にすればいいのか、どのように制御すればいいのか、かなり挑戦的な数値を設定してJT-60SAで実験をします。JT-60SAで一歩ずつ積み重ねた成果をITERに反映させ、そこでまた一歩ずつ実用レベルへ持っていくのです。設計冥利に尽きます。

もちろん瞬間的に核融合を発生させるのは、現段階でも可能です。それを非常に長い時間、ずーっと起こし続けるというのは、現代の技術力ではかなり難しいことです。核融合を安定して持続させることが世界的な課題になっています。

上田さん:三菱重工を選んだ理由ですか?もちろん核融合に取り組みたいと思っていましたが、三菱重工は現在の原子力の主流である軽水炉はもちろん、高速炉や高温ガス炉についても、主力となってリードしている企業です。ここならば、幅広くさまざまな分野のものを扱える、と考えました。まだ目の前の業務に必死で、将来の自分の姿を想像する余裕はないのですが、今のITERやJT-60SAの次にくる、実用段階の核融合炉を担当できるような、設計の中心となれるような人間になりたいと思っています。

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