特集 大日機械工業 「原子力発電所を知りつくした設計製造」解析にも自信
このたび原産協会の新会員となった大日機械工業は、原子力発電所関連の設計製造経験を活かし、3月に紹介したキュリオン社などとともに福島第一原子力発電所事故対応に大きな役割を果たしてきた。創立50周年を迎える2015年、長年培ってきた原子力分野での設計製作とともに、新エネルギー開発や解析などの分野にも注力していく。(中村真紀子記者)
「事故直後の福島第一で据え付け点検」小崎徹 取締役
大日機械工業は1965年、当初IHIの産業機械設計を担当していた2名で設立した。東芝の京浜事業所の原子炉内機器向けメンテナンス・取扱機器の設計製造する仕事を受注し始めたことから、福島第一や浜岡などの発電所の定検作業に使うロボット関係の機械を納めるようになった。弊社の小林社長は東芝で原子炉設計などの様々な経験を長年積んできており、自身もIHIで原子力圧力容器を設計していた。弊社で東京電力や中部電力など人的交流が広がっていき、原子力に関わる仕事が増えていった。
福島第一原子力発電所事故直後の2011年4月末頃、小林社長や自身と長年つきあいのあった故吉田昌郎所長から現場の様子を見に来ないかとの電話があり、すぐ現地へ向かって吉田所長に案内してもらいながら惨憺たる状況の福島第一発電所内をくまなく見て歩いた。免震棟も足の踏み場がないくらいで事務所に戻るとへたりこんでしまう。夜は狭い会議室で雑魚寝しながらいろいろなことを話したのを覚えている。
間もなくして米国のキュリオン社などの外国企業も、汚染水のセシウム除去装置の設置で現地入りした。東京電力から直々に据え付けチェックの依頼を受け、米国からの作業者とともに現地で一か月ほど最初の水処理の据えつけを行った。
福島第一原子力発電所事故以前は、定期検査関連で大型改造工事や予防保全工事などを行っていた。日本の各原子力発電所では、外国での不具合例を水平展開して日本の原子力発電所で不具合が出る前に改善する試みを積極的に行っていた。中でも一番大きな工事は、福島第一原子力発電所1~3号機の原子炉圧力容器内のシュラウドの取り替えであったが、マンパワーもコストもかけたが事故で失ってしまい残念だ。そのほか、浜岡原子力発電所や女川発電所などの予防保全工事にも参画した。
また原子力発電所の工事で、水の中に沈めて遠隔操作でグラインダー切削や写真撮影、サンプル採取などができるロボットの設計製作もカスタムメイドで行ってきた。「こんなものがほしい」という要求を作業の段階まで落とし込んで圧力容器の底に林立する制御棒や中性子計測の棒などの150ミリ弱の間を通り、中央の配管を切断し、機械加工を行って新しい配管に溶接してつなぎ替える作業を行う「狭隘部用遠隔加工機」をはじめとして、水中遠隔加工装置、水中放電加工装置の取扱い装置、水中遠隔研磨装置、動力伝達機構など様々な製品を開発してきている。これまで培った原子力発電所での知識と経験に基づいて、今後も顧客ニーズに合った製品を提供していく。
「原子力設備を利用して水素エネルギーを生成」直井登貴夫エネルギー技術部部長
大日機械工業が2013年7月に日本原子力研究開発機構(JAEA)から受注採択した「連続水素製造試験設備」が、2014年3月に竣工した。同設備は、高温ガス炉(HTTR)からの約900度の排熱を熱源とし、ヨウ素(I)と硫黄(S)を媒介として水を分解する「ISプロセス」と呼ばれる方法を用いて、ブンゼン反応、ヨウ化水素(HI)分解反応、硫酸分解反応が起こることで、水を供給するだけで連続的に水素と酸素を生成することができる。設備全体の大きさは、幅20m、奥行き5m、高さ8.5mで、HIガスなどが漏れ出ぬよう安全対策をしっかり行い、実験を行っている。
また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託及び助成で、大手エネルギー供給会社2社からの外部協力を受け、オンサイト型水素ステーション用水素製造装置の低価格化にも取り組んでいる。従来水素ステーションに5~6億円、その中の水素製造装置に1億5000万円くらいのコストがかかるが、解析結果をフィードバックし数値シミュレーションを行って、5000万円以下の小型低コスト水素製造装置の開発を目指している。
弊社では原子力事業を大事にしながら、多様化するエネルギー源にも対応していく。弊社社長の小林も「原子力に貢献しながら頑張っていく」と明言している。
「日本での海外製品許認可取得に多くの経験」上田浩久技術主幹
リーマンショックと震災で製造業への発注が減ったこともあり、大日機械工業では、モノづくりは全ての基本ではあるが、それだけでなくエンジニアリングや解析も行っていくという方向にシフトしてきている。以前に比べて工事前の構造強度や流れの非常に高度な解析内容が求められる一方で、各社メンテナンスの予算は限られてきており、厳しい条件のもとで詳細な計算を行ってから、必要な改造や新設および追加の工事を決定していく。実際の原子力発電所内の構造や機器類がどう動くのか理解している弊社は、顧客のニーズをとらえやすく、解析の結果から軽量にできる部材や省略できる工程などの提案も可能であり、実績を積み重ねている。
事故後は福島第一原子力発電所が発電しておらず、発電所に適応する従来の法令は適用されないこととなった。福島第一原子力発電所のみに適用される政令が出たが、実際の運用ではケースバイケースで対応していくといった部分もあり、必ずしも明確と言えるものではなかった。キュリオン社のストロンチウムおよびセシウム除去装置の据え付け申請の際にも、輸入機器をそのまま使用するのにどこまで設置認可の申請範囲となるのか、規制庁と何度もやりとりしながら手探りで進めていった。また、同じ時期に米国のクレーン会社による福島第一原子力発電所の燃料取り出し用クレーンの許認可対応用の解析も行った。
海外製品は米国機械学会(ASME)など外国の基準に基づいて製造されており、日本で導入する際には日本の基準に合わせるため、許認可に対応した解析を行っていく。その際の翻訳に関わることもしばしばある。各国から日本の廃炉事業などに参入したい企業は多いが、海外企業が日本に設備などのソリューションを持ち込む際には日本でうまく立ち回るためには国内法令・基準・規格による許認可は避けて通れないものである。日本の基準に合わせるためのコンサルタントが必要な時には、素早くきめ細かい対応が可能な弊社に任せてほしい。