安藤ハザマ、中性子遮蔽材で先端医療分野への展開をテコ入れ
株式会社安藤・間は、1956年の日本原子力研究所の建設に係って以来、原子力発電と再処理・放射生廃棄物処分を中心とした核燃料サイクル、放射線を利用した医療・研究施設の分野において長年の施工実績を誇る。調査、研究、設計、施工に至るまで総合的な技術力を有する。中でも注目されるのがBNCT(Boron Neutron Capture Therapyの略で、ホウ素中性子捕捉療法)と言われる中性子とホウ素との反応を利用してがん細胞のみを選択的に破壊する最先端の治療を行う医療施設だ。世界的に先駆けて病院に加速器を併設してBNCTでがん治療を目指している南東北BNCT研究センター(福島県郡山市)と関西BNCT共同医療センター(大阪府高槻市)の2施設の建設を手がけたのが同社である。また、新たな開発分野として、2000年代からは放射線の遮蔽材料の研究開発にも着手している。中性子を遮蔽するコンクリートや樹脂板、塗料材を開発した。先端医療・研究施設の分野における取り組みについて、エネルギー事業推進室技術第一グループ涌井俊秋部長、技術研究所建築研究部奥野功一主席研究員、今井久原子力部長に話を伺った。
あらゆる形状に対応する液状の遮蔽材を共同開発
放射線は原子力分野だけではなく、医療分野での利用も進む。このことから、安藤ハザマでは、効率よく放射線を遮蔽する材料開発にも力を注いできた。これまでに、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と、従来のコンクリートの1.7倍の中性子遮蔽効果(252Cfにおいて)がある中性子遮蔽コンクリートを共同開発したほか、放射線源の近くやダクト内、複雑な空間を遮蔽しやすい樹脂系中性子遮蔽材(煉瓦タイプとボードタイプ)を開発してきた。これらは、中性子が発生する医療施設や最先端の研究施設等への使用を目的に開発されており、重厚長大になりがちな遮蔽壁を薄くできるため、室内空間を広げることを可能にする。
これに加え、2018年11月に発表したのが、極東産業株式会社と共同開発した、低エネルギー中性子による放射化を抑制する塗料材だ。従来は、ポリエチレンとホウ酸を組み合わせた板状の樹脂材料や、研磨剤などに用いられている炭化ホウ素を混入した板状の樹脂材料などを利用して平面の壁に対する放射化抑制対策が施されてきた。新たに開発された塗料材の特徴として「液状であることから、平面だけではなく曲面などの複雑形状部にも直接塗布できる」と、奥野主席研究員は説明。最大約30mmの厚塗りが可能で、コンクリートや金属、ポリエチレン等の樹脂に塗布できる。
放射化とは中性子によりコンクリートや金属を構成する元素の一部が放射線を出す物質に変わってしまうことを言い、コンクリートや金属が放射線を放つようになる。一方、中性子は、がん治療に有用であることから臨床現場や研究での利用が進むことが予測されるため、中性子による放射化を防ぐための解決策が求められてきた。中性子が発生する医療施設や研究施設内での人への影響のほか、コンクリート等が放射化することにより、施設解体時などで放射性廃棄物の増加につながることが懸念されてきた。
こうした課題への解決策として、同社が開発する遮蔽材料には、放射線を遮蔽して被曝から守るための技術と、物質の放射化を防ぐ技術が際立つ。現在、同社の中性子遮蔽材は、大強度陽子加速器施設「J-PARC」や、理化学研究所、日本原子力研究開発機構などで採用されている。
安藤建設とハザマの合併が生み出した相乗効果
「医療施設の設計施工に定評ある安藤建設と放射線遮蔽関連技術に実績あるハザマの合併による相乗効果で病院への展開が可能になった」と話すのは今井部長。
同社は、主な実績として、南東北がん陽子線治療センター、メディポリス国際陽子線治療センター、北海道大学病院陽子線治療センター、南東北BNCT研究センター、関西BNCT共同医療センターなどの建設を手がけてきた。「海外では研究のためのBNCT施設はあるけれども、医療施設としては存在しない。日本だけ」と続けた。
涌井部長は「施設が放射化すると、従事者の被曝量が多くなり、作業時間が制約される。放射化を抑えることができれば、建物を解体してリニューアルするときも、放射性廃棄物が少なくなる。これを目指している」と話す。
建設業界では唯一、技術研究所に放射線実験室を持っているため、材料開発だけではなく、放射線量の分布や分析など計測や再現が可能だ。放射線の中でも中性子の線源を持っている民間企業の実験室は同社以外では国内では珍しい。
実際に、中性子遮蔽塗料材は、この実験室で遮蔽性能試験を実施している。また、加速器を用いて中性子を照射し、コンクリートの放射化抑制において、塗料材を10mm厚で塗布したコンクリートの方が、普通コンクリートよりも、放射化は1/25に抑制されたことを確認した。
中性子は、がん治療のほか、高分子材料の構造解析、水素を吸わせることを目的として開発される水素吸蔵合金の研究などに使われる。中性子を発生する加速器を用いたBNCT施設や、心臓や脳などの体内の細胞の動きを画像解析するPET施設、陽子線を用いる粒子線治療施設などの建設に携わってきた実績と、共同開発した中性子遮蔽材料で、今後も、人と環境に優しい技術開発に努め、先端医療分野での事業を展開していく。
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