原子力発電所再稼働によるCO2削減効果について
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所
下郡 けい
(これまでの経緯)
福島第一原子力発電所事故(以下、福島第一事故)後、2013年7月に原子力規制委員会(NRA)が新たに策定した新規制基準が施行された。この新規制基準に基づき、事業者は設備の安全対策や体制整備を実施している。2018年5月までに、25基について新規制基準への適合性審査が事業者からNRAへ申請され、営業運転を再開した原子炉は、2018年5月末時点で7基となった。
日本には39基の運転可能な原子炉が存在するが(2018年5月現在)、その多くは、福島第一事故後、定期検査に入ったまま運転を再開していない。そのため、原子力発電による発電電力量は徐々に減少し、2014年度には一旦ゼロとなった。減少した原子力発電による発電電力量を補ったのは、石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を用いた火力発電である。
原子力発電の特長の一つとして、運転中にCO2を排出しないことが挙げられる。日本のエネルギー起源CO2排出量の推移(図1)をみると、2013年度に1990年度以来最高レベルを記録した。CO2排出量増加の要因の一つとして、化石燃料を用いた火力発電による発電量の増加が指摘できる。
図1 エネルギー起源CO2排出量の推移
(出所)国立環境研究所、温室効果ガスインベントリオフィス
(原子力発電所再稼働によるCO2削減効果)
エネルギー起源CO2には、エネルギー転換部門のほか、産業部門や業務部門、運輸部門、家庭部門が含まれ、エネルギー転換部門の中に発電部門が包含されている。2016年度のエネルギー起源CO2排出量に占める発電部門の割合は、約41%であった。ここで、福島第一事故後、もし原子力発電所が運転を継続していたとしたら、発電部門CO2排出量をどれだけ削減できたか試算してみよう。
仮に、国内の原子力発電所が停止することなく運転を継続した場合、日本の発電部門CO2排出量は2011年度から2017年度までの期間、累積で約846百万トンCO2の削減が可能であったと言える。この数値の年平均は約121百万トンCO2であり、これはフィリピンの年間CO2排出量よりも大きい(図3)。なお、2015年度の東京都のCO2排出量は、約61百万トンCO2であったため、その約2倍の規模とも言える。2017年度の数値でみると、発電部門CO2排出量は原子力発電が稼働することで実績値よりも約3割の削減が可能であった。2013年度以降、節電努力等によりエネルギー起源CO2排出量は減少している(図1)が、仮に原子力発電が安定的に稼働していた場合は、省エネルギーの効果に加えて、CO2排出量をより削減できた可能性がある。
図2 発電部門CO2排出量の実績値と試算値の差分
(注1)2011年度以降の原子力発電継続利用ケースは推計値。2016年度までの排出量実績値は国立環境研究所のデータに基づく。2017年度の値については、実績および原子力発電利用ケースの双方について推計値となっている。
(注2)福島第一原子力発電所ならびに福島第二原子力発電所を除く。福島第一事故以降に廃止措置が決定された原子炉、新潟中越沖地震後に運転を停止していた柏崎刈羽原子力発電所2、3、4号機は運転を再開すると仮定する。なお、福島第一事故以前から廃止措置が決定されていた敦賀発電所1号機については、2015年度当初に運転停止とした。運転想定基数(合計)は、設備利用率は70%とする。
(出所)IEA, World Energy Balances、電力調査統計を基に日本エネルギー経済研究所試算
図3 各国の年間CO2排出量(2015年)
(注)点線は約121百万トンCO2
(出所)IEEJ, EDMCデータバンク
(パリ協定を守るには)
このように、原子力発電が運転を継続することは、発電部門CO2排出量の削減に効果があることが分かる。2016年11月に発効したパリ協定に日本は参加しており、2030年度に2013年度比26%削減という温室効果ガス削減目標[1]を掲げた。この目標は、2030年度エネルギーミックスの達成が前提となっており、原子力発電の一定規模での運転が必須となる。次回は、パリ協定と日本のCO2削減目標との関係 について解説する。
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下郡 けい(略歴)
東京大学公共政策大学院 国際公共政策コース修了、2012年より(一財)日本エネルギー経済研究所 研究員。欧米などの原子力を中心としたエネルギー政策の分析に従事。
[1] エネルギー起源CO2排出量については、2013年度比25%削減が目安として掲げられている。
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