コラムSalonから メディアへの訂正要求は多角度から試してみよう

2019年2月28日

食生活ジャーナリストの会代表 小島 正美 氏

 おかしな記事やニュースを見たとき、だれに、どうやって訂正を求めればよいのか。また、どんな方法で抗議をしたらよいのか。日本のメディア(新聞やテレビなど)には残念ながら、欧米のメディアと異なり、反論を載せてくれるコーナーや番組が存在しない。では、どうすればよいか。狙ったメディア内で、できるだけ多くの人(記者も含め)に周知してもらう作戦がよい。その具体的なやり方を紹介しよう。

 

■七つのルート
 新聞社やテレビ局などに訂正を求める場合、限られたルートしかないようなイメージがあるが、実は案外と多い。思いつくだけでも、以下の七つの方法がある。
①記事を書いた記者本人に抗議し、訂正を求める。
②記者の直属の上司(多くは部長か課長クラスのデスク)に訂正を求める。
③広報を担当する社長室に訂正を求める。
④社長あてに抗議文を出して訂正を求める。
⑤読者センターにメールか手紙で間違いを指摘し、回答を求める。
⑥新聞社内で紙面を審査する担当窓口にメールか手紙を出す。
⑦新聞社に設置されている外部の第三者委員会にメールか手紙を出す。
 意外に多いと思った人が多いのではなかろうか。
 ひと口に抗議や訂正といっても、実は、記事の間違いの程度いかんで対応は異なる。ちょっと表現(言葉)がおかしいとか、記者への説明と記事の内容が少々食い違うといった軽いミス(許容できる間違い)の場合には、記者本人に伝えて、「今回は目をつぶるけれど、次回はちゃんとこちらの言い分を書いてくださいね」とか「もう一度、記事を書いてくださいよ。ただ、今度は正しく書いてくださいね」とか言って、恩を売っておくのもよいだろう。
 私の経験から言って、記者は「もう一度、記事を書くから、今回は大目に見てほしい。次回の記事では正しく書くから」という受け入れ策を好む傾向がある。訂正記事を出すよりも、そのほうが記者個人の汚点にならないからだ。正直な話、私も記者生活40年間の中で、何度かこの手を使ったことがある。
 しかし、今回の話は、そういう恩を売っておくという程度で済むような間違いではないケースだ。
 
 
■間違いは全社的な話題にもっていく
 具体的な例を挙げたほうが分かりやすいので、前回で取り上げた毎日新聞の一面トップ記事の「もんじゅ設計廃炉想定せず ナトリウム搬出困難」(2017年11月29日付)を例に説明したい。
 前回は事実関係に絞って訂正を求めたほうがよいと書いたが、今回は、だれに、どのような方法で訂正を求めるのがよいかという問題だ。
 この記事をめぐっては、日本原子力研究開発機構の担当者は、記事を書いた記者の部署の直属上司(部長クラス)と面談して、訂正を申し入れたようだが、結局は、「取材源の秘密」を理由に「記事に間違いはない」と言われ、訂正やおわびを勝ち取ることはできなかった。
 一般的に言って、外部から訂正要求がくるということは、その記事は間違いだという可能性は高い。どんな人でも、記事が間違ってもいないのに、訂正を求めるようなことはしないからだ。そういう意味で、外部から「この記事は間違いです」と指摘されたメディア担当者(このケースでは部長クラスの上司)は、まずはなんとか自社組織の中で大きな火種にならいよう、ことを丸く収めようと内心で思うはずだ。
 訂正を求めるときは、その担当者の意識の弱さを突くことを考えたい。
 つまり、訂正を求める場合は、その間違いを全社的な問題(話題)にもっていくのがよい。一部署との交渉だけでは、その部署だけで問題が終わってしまう可能性があるからだ。
 外部からの通報で間違い記事に気づいた部長クラスの上司がまず気にするのは「社内にいる他の部長クラスのみんなが知ったら、まずいなあ。立場が弱くなるなあ」という自身への風当たりだ。つまり、その間違い記事が全社的な話題になってしまうことを恐れるのだ。
 
 
■間違いの指摘は社長室か読者センターへ
 ということは、訂正を求める場合は、第一段階として、記事を担当した記者や部署ではなく、広報担当の社長室か読者センターに通報するのがベストである。
 間違い記事に関する回答書を求められた読者センターは、すぐに関係する部署のほか、社長室にも連絡をする。そして、「これこれの間違いが外部から指摘され、訂正を求められている。訂正するかどうかの判断はそちらに任せるが、とりあえずは関係部署の上司と記者の釈明書を書いて、こちらに送ってほしい」と回答書の提出を指示するだろう。こうなると、間違い記事は一部署から一挙に広範囲に知れ渡る。おそらく部長クラスが集まる部長会議の議題にもなるだろう。
 私の経験からいって、間違い記事を指摘された部署は当然ながら、訂正の掲載に抵抗するだろうが、他の部署は意外に冷静な目で判断する傾向がある。間違ったときは潔く訂正を出したほうが読者の信頼を獲得でき、社会的な信頼度も上がると考える新聞人が最近は増えてきているので、その間違い記事とは関係のない部署の記者たち(部長クラスの記者たち)からは、意外にも訂正を出すことに賛成する意見が出てきやすい。
 
 
■開かれた新聞委員会も活用したい
 もうひとつの方法は、新聞社内に設けられた第三者委員会にメールか手紙で間違いを指摘し、そこで議論してもらうことだ。第三者委員会はどの新聞社にもあるわけではないが、毎日新聞社の場合は、著名なジャーナリストの池上彰さんら複数の外部識者で構成された「開かれた新聞委員会」がある。紙面に寄せられた抗議や訂正要求などを議論し、その審議内容を紙面に定期的に載せている。その中で「これこれの訂正要求が来ているが、これは訂正に値する間違いだ」といった内容の論評記事が出たりする。これはいわゆる訂正記事ではないものの、識者の意見として「あの記事は裏とりが不十分だった」との記事が載るため、事実上、訂正記事に近いものになる。
 この論評付きの意見は、簡単な訂正掲載よりも、記者が間違った背景も分かり、読者には親切である。残念なのは、こういう外部の意見を審議する第三者委員会をもっている新聞社がまだ半分にも満たないことだ。その意味で毎日新聞の開かれた新聞委員会は専門家からも高い評価を得ていて、おそらく新聞社の中ではもっとも先進的な例ではないかと思う。
 そういう意味では、この「もんじゅ設計廃炉想定せず」の記事は、第三者委員会に通報してもよかったケースだと言える。ちなみに第三者委員会の会議には部長クラスの上司はみな出席する。
 これまで述べてきたように、訂正要求にもいろいろな方法があることが分かるだろう。ただどんな場合でも、少なくとも相手の組織図を知っておくことは最低必要条件である。
 そしてもうひとつ、確実に実行したいことは、自社のホームページに「○○社の記事は○○の部分が間違いです。この記事は誤報です」といったメッセージを必ず載せることを忘れてはいけない。訂正を求めるという面倒な行為をしなくても、ただホームページに載せるだけでも、だれかがそれに気づいて、その間違い記事を拡散してくれる効果も狙えるからだ。何もしないのが最悪の行為である。
 次回は、間違いを指摘しても、メディアから無視された場合の対処法を考えてみたい。
 
 
〈筆者ご紹介〉
小島正美氏
略歴 1951年愛知県生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局などを経て、1986年から東京本社・生活報道で食や健康問題を担当。2018年6月末で退社。現在は「食生活ジャーナリストの会」代表を務める。今年1月末、最新の著書「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)を上梓した。メールアドレスはkojima-1225@outlook.jp

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