インタビューシリーズ 特集「第5次エネルギー基本計画:原子力はどう取り組んでいくか」 第5回

2018年11月2日

第5回:門上 英 原子力エネルギー協議会 理事長

 

自主的な安全性向上にむけ効果的な安全対策を現場に導入へ
国内外に視野を広げ、オープンマインドで人にも技術にも誠実に対応

 

 今年7月発足した原子力エネルギー協議会(ATENA)は原子力産業界の自律的かつ継続的な安全性向上の取り組みを定着させていくことを目的に、原子力産業界全体の知見・リソースを効果的に活用し、規制当局等とも対話を行いつつ、効果的な安全対策の原子力事業者の現場への導入を促すための活動を開始した。そこで、門上英理事長に今後の活動について伺った。門上理事長は、原子力事業者とメーカーが共同し、まさに当事者の立場で知見や経験を動員して効果的な対策を現場に導入していく考えを強調した。

 

-第5次エネルギー基本計画で原子力発電は引き続き重要なベースロード電源に位置付けられ、安全性向上と国民の信頼回復が特に重要とされているなかで、それらを牽引する立場として貴協議会が発足し、理事長を引き受けられたが、今後の活動についてお伺いしたい。
 S(安全)+3E(安定供給、環境、経済性)という観点からも、原子力発電は不可欠であると考えているが、福島第一原子力発電所の事故の反省に立って、安全性の向上や社会の信頼回復をはからねばならないという思いが以前からあった。そのような思いもあって、今年7月に本協議会の理事長をお引き受けすることとした。

 事故の以前には、当時の規制を守ること、基準を満たすことが一義的な目的になっていた面があった。メーカーも含めて原子力産業界の知見やリソースを活用して自主的に一層高い安全をめざしていく取り組みは当時もあったものの、総合的にコーディネートし活用していたとは言いがたい状況であった。
 事故の後、原子力規制委員会が発足し、産業界にも原子力安全推進協会(JANSI)や電力中央研究所に原子力リスク研究センター(NRRC)が設立されるなど、安全性向上への取り組みは強化され、遅々としてはいるが9基の原子力発電所が再稼働している現状にある。
 しかし、社会の状況は必ずしも信頼回復に至っているわけではない。
 事故の反省と原子力発電の現状を踏まえ、産業界の総合的な知見やノウハウ、リソースといったものを従来以上に効果的にまとめて活用することで自主的かつ継続的に、また透明性を保った活動により安全性を高めていくのが本協議会に期待される使命だと考えている。
 本協議会には事業者、メーカーから経験深い技術者が加わり、それぞれの知恵と経験を活かしてよりよい活動をめざすこととしている。今後は産業界の共通課題等をまとめて規制当局との対話を行い、必要な提案などを行っていきたいと考えている。

 

-貴協議会では、理事長をはじめ、メーカー等を含めた布陣で臨まれることになった。この新たな枠組みでの取り組みについて、どのような期待と今後の展望を持たれているか。
 安全を実際に担保し実行する一義的な責任は発電所を有する事業者にある。それは大前提だが、本協議会は立ち位置としては当事者として、1人称の組織であるということが大きなポイントだといえる。
 我々は規制当局とも対話をしながら、責任をもって現場での安全性向上策を立案し、その結果をフォローするまで行う。その意味で、まさに当事者であり、当事者の立場で今後取り組んでいく。
 私もメーカー出身だが、メーカーはこれまで事業者のもとで指示を受けて作業するという面が多かった。しかしながら、本協議会は共通課題のテーマを決める過程から共同で取り組んでいる。事業者もメーカーも純技術的に課題を検討し、突き詰めていくというのが本協議会の特長だと考える。
 純技術的な部分でおおまかに言うと、メーカーは設計技術や建設ノウハウ、点検の面などを役割分担し、経験や知見を有している。事業者は各メーカーのもつ技術やノウハウを調整し適用することでプラントの運用管理に深い経験と知見を有している。
 安全を担保するにあたり、双方の役割に応じてそれぞれの機能が見落としなく可視化された状態で安全性向上にむけた対策が検討されることが重要だ。さらに具体的にそれが現場に落とし込まれることが大切で、こうした観点から自主的な安全性の向上に事業者とともにメーカーが参画する本協議会の活動の意義があると考える。

 

-効果的な安全対策を立案し、原子力事業者の現場への導入を促す活動を掲げられており、産業界の期待も大きいと思うが、どのような活動をお考えか伺いたい。
 安全はある意味で、理念的なところがある。安全性の向上を行うには現場に具体的に落とし込みをする必要があり、それがあって初めて安全性が少しずつ向上、担保されていくものだと考える。規制当局と対話して理念的に合意したとしても、それが現場に落とし込まれなければ実質的な安全の向上にはつながらない。
 本協議会では内部で現在、取り組むべき課題の抽出をしているところだが、その対策を立案するにあたってもソフトやハード、あるいはマインドの面で現場に適用する具体策に落とし込んでいく必要がある。また、その過程のなかで規制当局とも対話しながら、よりよいものにしていくことが重要だと考える。
 そうした意味で、現場の視点は非常に大切だと思う。
 また安全性の向上を合理的に進めることは大事だが、それは、コストを安くするということではない。限られた人材や設備などのリソースを有効に活用する意味で合理性は重要な視点だが、安全が大前提であることはいうまでもない。

 

-規制当局との対話に関しては、どのように進められるお考えか。
 規制当局との対話にあたって、本協議会は事業者もメーカーも豊富な経験を有する技術者を擁しており、技術的な議論が十分にできる態勢とする考えだ。仮に今後、不足があれば必要な分野の技術者を補強することも考えている。
 現状は、原子力産業界のなかでどういう課題があるかを検討して当面の課題を絞り込んだ段階にある。規制当局との対話の入口に立った段階なので、今後の進め方を含めて活動を具体化していく。

 

-特に規制当局との対話に関しては、国内外の最新の知見等の集約、分析が必要とのことだが、それらに向けた国内外関係機関との連携などについては、今後どのように展開をされていくお考えか。
 国内外の知見やリソースを有効に活用することを考えている。JANSIやNRRCなどの情報や研究成果を活用させていただく。また、井の中の蛙では良い成果を得ることはできないことから、海外の関係機関とも情報交換など定期的な交流を持ちたいと考えている。
 なかでも、米国の原子力エネルギー協会(NEI)との連携は重要だと考えている。今年8月にNEIを訪問してコーズニック理事長らに本協議会の活動を紹介し、今後の協力について対話を始めたところだ。NEIの経験やノウハウを参考にさせていただきたいと思っている。今後本協議会の活動に関与していただくこともあると思う。また仏電力会社(EDF)とも連絡をしており、近く訪問する予定だ。

 

-今後、活動が進展するとともに、組織の拡充が必要になったり、技術レポートなど成果のとりまとめもなされると思うが、どのようにお考えか。
 設立して間もないこともあり、組織としては19名と少数精鋭で活動を始めた段階にある。今後は原子力発電の安全性を継続的に高める活動を地に足をつけた形でやっていきたい。まずはアウトプットをしっかりと出すことが重要と考えており、必要に応じて組織の拡充や人員も増やす方向になるだろう。
 アウトプットについては、検討内容を技術レポートとして公表する場合もあるし、中身によってガイドラインとするなど、やり方はいろいろあると思う。また必要な場合は規制当局にも提案を行っていきたいと考えている。

 最後に、これは活動全般について言えることだが、オープンマインドで、誠実に対応していきたいと考えている。人にも技術に対しても誠実にやっていくことが大切だと思う。誠実に技術評価を行い、とことん突き詰め、その中で不明な点があればきちんと表明したうえで対応を考える。そういう誠実な態度でやっていくことで、社会の信頼回復に努めていきたいと考えている。

以 上

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