インタビューシリーズ 特集「第5次エネルギー基本計画:原子力はどう取り組んでいくか」 第4回
第4回:山﨑広美 原子力安全推進協会 理事長
さらなる高みをめざし活動を強化、長期戦略の策定にも着手
ガバナンス強化など、自主規制活動の質を高める取り組みも
原子力産業界の自主規制組織として設立され、6年余の活動を経た原子力安全推進協会(JANSI)の山﨑理事長に活動の現状と今後の取り組みなどについてお話を伺った。エネルギー基本計画においても原子力発電の安全性の向上が重要課題と指摘されるなかで、JANSIは組織のガバナンス強化をはかると同時に、事業者と安全性向上にむけた将来のビジョンを共有して長期的な戦略の策定にも取りかかっている。現状に満足することなくエクセレンスを追求する同協会の取り組みは着実な進展を見せている。
-先にまとめられた第5次エネルギー基本計画でも原子力発電の安全性の向上が重要課題とされた。発足より6年を経て、改めて自主規制組織として設立された貴協会の産業界における役割をどうお考えであるか伺いたい。
福島第一原子力発電所の事故が起きた翌年にJANSIは発足した。二度とこういう事故を起こしてはならないとの反省に立って、そのためには米国のINPO(原子力発電運転協会)のように産業界の自主的な安全性向上をしっかりけん引していく強い組織が必要なのだということが改めて認識され、前身のJANTI(日本原子力技術協会)を改組、設立に至ったものである。
今回のエネルギー基本計画では原子力が将来的にわたって一定の役割を果たすこととされた。その大前提はやはり原子力発電所が安全に運転を維持することで、その部分をしっかり支えるのがJANSIの仕事だと考えている。
JANSIのミッションはエクセレンスの追求で、現状に満足せず常に高みを目指すという理念であるが、JANSIが事業者を指導するということではなく、事業者間で安全性を高め合うコミュニケーションを図るのが自主規制であると考える。JANSIは事業者たちの輪の中にいながら、事業者たちが主体として行う自主規制が有効に機能するために働く組織。事業者のコミュニティの外から厳しいことを言うのではなく事業者と仲間意識をもち、運命共同体で活動していくという認識である。
JANSIの役割だが、ひとつには事業者が行う発電所の運転管理や安全性向上対策などが世界のエクセレンスと比べて足りない部分があるかどうか評価するためピアレビュー等の活動を通じ評価、監視することがある。また産業界共通で取り組むべき課題を見出し調整し、解決に向かう触媒の役割がある。さらに安全性向上にむけた諸活動を促進すること、世界のエクセレンスの水準を具体的に各事業者に示す役割を担っている。
また、こうした役割をきちんと果たすために必要な権威が付与され、裏付けになる技術力を備えている必要があるため、ガバナンスの強化など必要な取り組みを進めているところだ。
-自主的安全性向上についての産業界のけん引役としてJANSIではガバナンス構造の強化を含めた様々な取り組みを図っておられるが、その現状についてお伺いしたい。
ガバナンスの強化については、今年6月の社員総会で会長を置いたことがあげられる。INPOで30数年ずっと一線で活躍されたウェブスター氏に会長に就任していただいた。INPOの創立初期から、活動の定着をみるまで活動をリードされた経験豊かな先達である。
また理事には原子力施設を有する事業者の社長全員に就任していただいた。これまでの活動のなかでJANSIが現場に対して厳しいことを言うには、権威がしっかりと付与されるべきと考えたもので、トップリーダーにしっかりとコミットしていただいた。その姿勢が現場の末端にまで見えていることが重要で、INPOの例を参考にした。INPOのいくつかの成功要因のなかでも、CEOがしっかり活動にコミットしたことが一番のポイントであったと聞く。こうした点を社長会でよくご説明し、理解していただいたうえで、大きな決断をしてもらったと認識している。
一方、外からみると理事会の構成がすべて事業者の社長になると意思決定が事業者の思いのままになるのではないかというご心配があると思う。しかし我々はこれまでの活動を通じ、組織のトップリーダーである社長がしっかりとコミットすることがJANSIの活動に一致して当事者意識をもつことになり、結果として独立性も担保される一番の方法だと認識するに至った。
いうなれば個別の施設に対しては独立性をもち、一方で産業界の一員として一緒になって活動していくということである。産業界全体で安全性向上にむけての活動等に要望があれば、JANSIは当然要望に応じて活動する。
-原子力事業者との協働については長期戦略を策定されていると聞く。円滑に原子力発電所を再稼働し、安全な運転実績を積み重ねていくためにも、重要課題の共有は有益と思うが、どのような取り組みか伺いたい。
JANSIが発足してから個別の活動はそこそこ成熟してきたと思う。活動はそれぞれ今後も充実させていくが、将来的に日本の原子力発電所の運転管理をどのような姿に持っていくべきか、そこの絵姿について事業者とJANSIとの間で共通認識をもつ必要があると考えた。事業者と協働した10年戦略の検討では、将来のめざすべき姿を決めたうえで、そこにむけてJANSIの現在の活動をどう組み合わせていくかを事業者とともに議論している。
JANSIでは、ピアレビュー活動はじめ、各種セミナーの開催、人材育成のリーダーシップ研修、運転経験情報の分析評価など各種の事業を行っているが、施設の運営の将来のあり方を検討しJANSIがそのためにどうあるべきかというコンセプト作りの最中だ。
コンセプトはそれほど難しいものではない。将来的に運転管理が成熟して自主的に自分で問題を見出し、解決して日々安全性向上に努める活動が達成できていることが将来のめざすべき姿である。そのために具体的に何が必要かを検討している。
例えば発電所の運転管理に必要な是正処置プログラム(CAP Corrective Action Program )、RM(リスクマネージメント)、構成管理(Configuration Management)など個別の基盤的プログラムの水準達成をはじめ、発電所要員の技術水準の確保とそれを維持するための教育システム、また緊急時の事故対応の整備があげられる。このような諸要因を検討して将来にむけての重要成功要因とは何かを明らかにして、それを達成するために事業者が取り組むべき課題とJANSIが行うべき支援活動の中身を具体化している段階にあり、JANSIとしての10年先にむけたアクションプランの立案に至る検討を現在進めているところである。
「JANSI活動報告」より抜粋
-原子力規制委員会はリスク情報を活用した規制に移行する方針だが、規制当局との関係をどう構築していくかについてはどのようにお考えかお伺いしたい。
原子力規制委員会が進めている新検査制度の動向についてはJANSIとしても注意深くウォッチしている。しかし基本的にJANSIは規制当局が行う事業者に対する検査に直接関わることはない。
ただし、新たな検査制度は、事業者が自主的に問題を見つけて解決することができて発電所の運転管理がきちんと機能していることが大前提で実施される。従って、新検査制度が始まる前に、発電所の基盤的なプログラムであるCAPやRMなど主要なプログラムを一定のレベルまで引き上げるための支援活動をしっかりと行うのがJANSIの役割であると考えている。
規制当局との関係については、いわゆる国の規制と民間の自主規制が互いにそれぞれの役割を果たすべきで、適切な関係が必要と考える。従って国の規制のお手伝いをすることや、逆に産業界の声を代弁して国の規制と対峙することはしない。自主規制組織として独立性をもって活動の価値と信頼性を担保する姿勢は設立当初より一貫している。ただ、規制当局とは適切にコミュニケーションをとり、産業界にとって非効率な活動をしないように規制当局との適切な関係を保ちたいと考えている。
以 上