第41回原産年次大会(2008.4 東京)
第41回原産年次大会 会長所信表明
平成20年4月15日
今井 敬・日本原子力産業協会会長
第41回原産年次大会には、海外諸国からのゲストの皆様、原子力産業界の皆様、そして市民の皆様、ご多用中のところ、多数ご参加いただき、誠に有り難うございます。厚く御礼申し上げます。
昨年7月16日、世界最大の柏崎刈羽原子力発電所が、未曾有の地震に見舞われました。
柏崎市、刈羽村の皆様をはじめ、被災された皆様には、心から、お見舞い申し上げる次第であります。
中越沖地震は、想定外の極めて巨大な地震でありましたが、「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」という、原子力安全にとって最も重要な機能は、満足に働くことができました。
このことは、日本の原子力発電の安全技術が、最大級の地震にも、十分耐えうるということを、立証したと考えております。
すでに、電力会社は、平成18年の、原子力発電所の、耐震設計審査指針の改定を受けて、耐震安全性の再評価を進めてまいりました。
この3月末までに、柏崎刈羽原子力発電所を除く、全ての原子力発電所の報告書が、国に提出されました。
各電力会社は、国の評価を得て、必要な対策を講じ、地震に強い原子力発電所として、地元の方々の安心が得られるものにしていただきたいと思います。
このたびの中越沖地震は、原子力発電所にとって、極めて貴重な経験であり、この教訓は、柏崎刈羽原子力発電所の対策に役立てるのみならず、より災害に強い発電所造りにおいて、広く世界に発信して、共有されるべきものであります。
新たな経験や知見を、迅速に取り入れて、最新技術の反映や規制の改善のために、絶え間なく努力していくことが、このたびの最も重要な教訓であると考えます。
さて、地球温暖化対策が、世界各国にとって、最も重要な課題の一つになってきております。
ご存知の通り、この4月より、京都議定書の第一約束期間に入りました。
日本は、基準年となります1990年の、温暖化ガス排出量の6%削減に向けて走り出しましたが、その道は極めて厳しい状況にあります。
国のデータによりますと、我が国の温暖化ガス排出量は、2005年度実績で、基準年に対し、7.7%増加しています。
つまり、目標を達成するには、2005年度実績から13.7%削減しなくてはなりません。
部門別に見ますと、産業部門は、基準年度比6.1%削減しているのに対し、運輸部門は18.1%増、家庭部門は36.4%増、業務部門は45.4%増となっています。
このため、目標を達成するためには、既存の対策に加え、産業界による自主行動計画の推進・強化、運輸・家庭・業務部門の取り組み強化などの、追加対策を実施する必要があります。
しかし、削減努力だけでは不足であり、残りは、京都メカニズムを活用した、排出量購入などで賄わなければなりません。
国は、当初から、1億トンのCO2購入を予定しており、産業界は、現在の見通しでは、既に実施した分も含め、2.2億トンの排出量購入が必要と試算していますので、合計すると3.2億トンになります。 これに要する費用は、CO2トン当たり3,000円として計算すると、約1兆円となります。
しかし、産業界の数字には、柏崎刈羽原子力発電所の停止分が、含まれておりませんし、運輸・家庭・業務部門での対策が、上手くいかなかった場合、国は更なる追加購入を、余儀なくされることとなります。
重要なことは、国民1人ひとりが、CO2の削減を自分の問題として捉えて、各自が身近にできる「省エネ」から生活スタイルを変えることであり、また、産業界が技術改善によって、CO2排出を削減することであります。
幸い、日本の省エネ技術、高効率化技術、さらに原子力製造技術は、世界最高水準のレベルにあります。
このような日本の技術を、エネルギーの大幅な増加が見込まれるアジア地域をはじめ、世界に広め、地球温暖化対策は、日本がリードするとの意気込みで、取組むことが重要であります。
原子力の利用は、地球温暖化対策のCO2削減に最も有効であり、日本だけでなく、世界に浸透させなければならないものであります。
日本の場合には、まず、原子力発電の設備利用率向上に、本格的に取組む必要があります。
日本の設備利用率は、世界の中で、極めて低い状況にあります。
2006年度の日本の設備利用率は、70%であり、2007年度は、中越沖地震の影響で、61%とさらに低下しました。
仮に、これが米国並みの90% になりますと、2006年と比べても、発電電力量が約1.3倍となり、およそ900億kWh相当の、電力量の増加が見込めます。
この電力量を、現在の火力発電に置き換えて、電力供給したとしますと、6,400万トンのCO2が削減されますので、稼働率の向上は、日本全体のCO2排出量の、およそ5%の削減効果になります。
また、その発電費用を、今のバレル当たり 90$を超えた石油価格で換算しますと、年間 1兆円規模で節約できることになります。
現在、日本には、建設中・計画中の原子力発電所が、13基ありますが、それらが順調に建設されますと、およそ1,700万kWの発電能力となります。
それらが、90%の設備利用率で運転され、現在の火力発電に置き換えられますと、9,800万トンのCO2削減効果に繋がり、2005年度の、発電によるCO2排出量3億7,500万トンに対して、約25%と大幅なCO2削減効果になります。
CO2を排出しない発電方法である原子力発電は、すでに、わが国で30年以上にわたり、実用大規模発電としての実績を残しており、原子力発電の活用を抜きにして、わが国の地球温暖化対策を考えることはできません。
原子力発電が、その期待に応えるためには、現在計画中のものを確実に建設し、さらに「原子力政策大綱」でうたっております、「原子力発電を、2030年以降も30~40%程度以上の供給割合にすること」を、実現させなければならないのです。
さて、G8北海道洞爺湖サミットが、この7月7日に予定されております。
ここでの最大のテーマは、気候変動問題であり、福田首相は、本年1月のダボス会議の特別講演において、わが国が提案した「クールアース50」を推進するための、「クールアース推進構想」を提示しました。
その中では、「2050年のCO2排出量を、現在より半減するためには、革新的技術の開発によるブレークスルーが不可欠である」とし、「わが国としては、環境・エネルギー分野の、研究開発投資を重視する」と述べております。
この50%のCO2削減は、極めて厳しい道のりであり、あらゆる努力をしてはじめて、目標が達成されると考えます。
革新的技術の一例ですが、将来の脱炭素社会において、水素が究極のエネルギー源と言われています。
現在、原子力による、水素製造技術が開発されており、ここでも原子力は、地球温暖化防止に役立つ可能性があります。
わが国の原子燃料サイクルにつきましては、長年取組んでいた、プルサーマル計画が、現在、地元の理解を得つつ、着実に推進しております。
再処理工場の操業開始も、目前にあり、その完結に向けて、明るい兆しがでてきております。
一方、高レベル放射性廃棄物処分については、国が前面に出ることで、対応するようになりましたので、NUMO(ニューモ)と電力は、さらに緊密な連携を図り、国のサポートのもと、候補地を早く確保できるように、頑張って頂きたいと思います。
21世紀は、地球規模での、持続可能な発展を図る世紀であります。
国内の問題だけでなく、グローバルな視点で物事を考えることが重要です。
地球温暖化の問題は、その中でも最も大きな課題であり、その対策に最も有効な、原子力の利用を世界に広め、それを活用して、地球環境保全に取組む必要があります。
それに貢献できる立場にあります、原子力関係者は、今、活躍すべき、大事な時であります。
その責任は重大であることを肝に銘じていただきたいと思います。
一昨年10月に、私は「原子力産業安全憲章」を制定しました。
原子力関係の事業に携わる者すべてが、常に心しなければならない、理念を示しました。
即ち、『何よりも、「安全」を基盤とし、公正、公明かつ誠実に活動すること、また、重要な使命を担うものとしての、誇りと責任感をもち、日々の実践を通じて、原子力に対する社会の不安感を払拭し、信頼感を醸成し、安心を得るために、真摯に取組むこと』を決して忘れることのないよう、関係者に訴えております。
原子力関係に携わる方々は、今述べましたことを、常に、念頭に置き、積極的に、取り組んで頂くことをお願いしたいと思います。
今回の年次大会は、「人類の持続的発展と原子力の果たすべき役割」を基調テーマに、3つのセッションを、2日間にわたって行います。
本大会が、原子力産業界にとって、実りあるものになることを、期待します。
最後になりましたが、ご参加くださいました国内、海外の発表者、議長の皆様に、感謝の意を表したいと存じます。
また、本協会の今後につきましても、十分その責が果たせますよう、今後ともご指導ご鞭撻頂きますよう、お願い申し上げます。
第41回原産年次大会開会における福田首相の所感
(原産年次大会事務局による聞き取りメモ)
平成20年4月15日
皆様、おはようございます。
第41回原産年次大会の席にお招きいただきまして、一言ご挨拶を申し上げたいと存じます。
この大会は、国内外から大変多くの方々のご参加を得て、毎年盛大に開催されているということでございまして、心からお喜びを申し上げます。
申し上げるまでもありませんが、安全の確保を大前提とした原子力の推進は、立地地域の皆様、また国民一人ひとりの理解なくしては実現不可能であります。
加えて、原子力関係者の長年のご努力にも大変大きなものがございます。関係者の皆様のこれまでの地道なご努力に対しまして、改めて敬意を表したいと存じます。
近年、エネルギー安全保障の確立と地球温暖化対策の観点から、世界的な原子力回帰の動きがあります。原子力ルネッサンスといわれるこうした動きは、わが国が一貫して原子力開発利用を進めてきたことが、決して間違いではなかったということの証左ではないかと存じております。
昨今、石油をはじめとする天然資源の有限性が叫ばれ、価格も高騰しております。資源エネルギーのほとんどを海外に依存しているわが国として、省エネルギーに取り組み、また新エネルギーの開発普及も推進しておりますが、基幹電源であります原子力発電も着実に推進していくことが極めて重要であります。また、将来的にも原子力発電の持続的な利用を可能にするためには、「もんじゅ」などの高速増殖炉の開発も、今後一層重要になると存じております。
発電過程で二酸化炭素を排出しない原子力発電は、地球温暖化対策の切り札です。地球温暖化問題は、世界が共通して直面している大きな課題であり、わが国の優れた原子力技術を活かして、アジアや世界における安全で平和的な原子力拡大に貢献することも、わが国の重要な役割であると思っております。特に、わが国は地震国でございます。特に安全については最大限の配慮をしております。この安全面に対する配慮は、これから他の国々に原子力を発展させていくとなりますと、まず第一に必要なことではないかと考えております。
7月には、G8洞爺湖サミットが開催されます。最大のテーマのひとつが、気候変動問題であります。私は、議長を務めることになりますが、温暖化対策における原子力の重要性にも配慮しながら、各国との議論にリーダーシップを発揮したいと思っております。
エネルギー安定供給確保のためにも、地球環境問題の解決のためにも、優れた技術力を活用して、エネルギーを確保していくという発想が必要であります。大変厳しい安全性や耐久性が求められる原子力発電は、まさに最先端の科学技術のかたまりです。原子力に関する技術開発の推進は、幅広い関連技術の進歩を促すことにもつながることになります。
産官学が連携して、原子力分野の技術力を強化し、安全を確保しながら国民の理解協力のもとに、原子力の利用を進めていくことが大変重要であります。
私としましても、皆様の取り組みをしっかりサポートし、今後とも原子力の安全かつ着実な推進に努めてまいりたいと存じます。
最後になりますが、本日ご列席の皆様のご健勝と原子力産業全体のますますの発展を祈念して、私のご挨拶とさせていただきます。