【4】国際輸送に伴う原子力損害賠償

 今回は、国際輸送に伴う原子力損害賠償についてQ&A方式でお話します。

q1
(国際輸送事故の賠償請求先)
日本企業が日本からフランスへの使用済燃料輸送中に事故を起こしました。
損害賠償の請求先として誰が考えられますか?
a1

 損害賠償の請求先は輸送に関わる関係者の全て、すなわち、例えば荷主(使用済燃料の所有者)、輸送の受託者(輸送の管理責任者)、船会社(船の管理・運航者)等が広く対象となりえます。

 ただし、日本の領海内において事故が発生し、かつ原子力損害を生じた場合には、原賠制度に基づく責任集中により原子力事業者(荷主)の責任となります。

【A1.の解説】

 不法行為による損害賠償責任は、その結果に対して法的責任が認められる者全てが不法行為者となります。そのため、荷物に関する責任がある荷主はもちろん、荷主から輸送を引き受けることによって輸送に関する管理責任を負っている輸送受託者、輸送手段としての船の管理や航行に責任を負っている船会社など、事故の原因に応じて輸送に関し責任が認められる全ての関係者に損害賠償請求が及ぶ可能性があります。

 一般的にはこのようになりますが、日本の原賠法に基づいて損害賠償責任が処理される場合には、原賠制度に基づく責任集中により原子力事業者のみがその責任を追うことになります。しかしながら、国際輸送中の事故に関する裁判が、次のQ2で説明するように海外で行われるような場合、日本の原賠法が適用されないため、責任集中などの仕組みは働かない場合もあり得ます。

q2
(国際輸送中に関する損害賠償請求の態様)
Q1の事故の場合、原子力損害の賠償に関する裁判は、どこでどのように行われますか?
a2

【日本の領海内で起きた原子力事故の場合】

  • 日本において原子力損害が発生した場合、被害者は日本の裁判所で、原子力事業者に賠償を請求し、日本の法律(原賠法)に基づいて裁判が行われます。
  • 損害が日本以外の国にも及んだ場合、その被害者は損害を生じた国の裁判所で、輸送関係者に賠償を請求することが考えられます。その場合、裁判を行う国の法律に基づいて裁判が行われるのが原則です。
    • 【公海で起きた原子力事故の場合】

      • 公海で原子力事故が発生した場合で、その影響が公海上にとどまり、誰にも損害が発生しなければ、損害賠償責任は発生せず、賠償に関する裁判も行われません。
      • 公海上の事故であっても、どこかの国に損害が及んだ場合、あるいは公海上であっても周囲の船舶や乗組員等に損害が発生した場合には、損害を被った国(または被害者の国)の裁判所で、輸送関係者に賠償を請求し、その国の法律に基づいて裁判が行われるのが原則です。
      • 【輸送経路の沿岸国の領海内で起きた原子力事故の場合】

        • 第三国において原子力損害が発生した場合、被害者は損害を被った国の裁判所で、輸送関係者に賠償を請求することが考えられます。その場合、裁判を行う国の法律に基づいて裁判が行われるのが原則です。

        【フランスの領海内で起きた原子力事故の場合】

        • フランス国内で原子力事故が発生した場合、被害者はフランスの裁判所で、輸送関係者に賠償を請求し、フランスの国内法に基づいて裁判が行われるのが原則です。
        • 損害がフランス以外の国にも及んだ場合、その被害者は損害を被った国の裁判所で、輸送関係者に賠償を請求し、その国の法律に基づいて裁判が行われるのが原則です。

        【全ての場合に共通する事項】

        • 事故地、損害発生地に関わらず、原子力損害を被った被害者は被告の所在地である日本の裁判所で原子力事業者に賠償を請求し、日本の法律(原賠法)に基づいて裁判が行われる可能性もあります。

【A2.の解説】

 国籍の異なる当事者間の損害賠償に関する民事訴訟では、裁判管轄権が1つとは限りません。但し、不法行為があった国(不法行為地)に裁判管轄権が認められ、裁判が行われる国の法律が適用されることが通常です。但し、原子力事故の場合には、事故により広汎な地域に損害が発生することも考えられます。その場合の「不法行為地」は単に事故現場というだけでなく、その事故によって損害が発生した地域全体を指すことになる可能性もあります。

 そのため、複数の国で損害が発生すれば、複数の国で裁判が起こされる可能性があります。また、不法行為地ばかりでなく、被告の所在地国にも裁判管轄権が認められることから、日本で裁判を起される可能性もあります。これらの場合、複数の国で裁判が行われる可能性があり、その準拠法も異なるため、同じ事故の損害であっても、様々な(場合によっては不公平な)裁判の結果が出される可能性があります。
また、判決などにより裁判の結果が示されても、それによって直ちに賠償金の支払い等の救済が受けられるわけではありません。判決を実現するには執行が必要です。この執行を確保するためという見地からも、裁判をどこで提起することが有利かを判断する必要があります。

 以上は日本の「民事訴訟法」や「法の適用に関する通則法」の考え方をもとにした一般論です。実際に海外輸送中の核燃料等について広汎な損害を生じるような事故が発生した場合には、どのような国が関わるか、その国の法制度はどうなっているか等によって様々な選択があり得ることをまずは知っておいてください。

○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。

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