今回は、近隣諸国の原子力損害賠償制度についてQ&A方式でお話します。
- (近隣諸国の原賠制度)
日本周辺の原子力発電国の原賠制度はどうなっていますか?
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- 日本周辺で原子力発電を行っている韓国、中国、台湾は日本と同じような原賠制度を持っています。
- 日本の制度と違う点は主に以下の点です。
▽事業者の責任が有限であること
▽賠償措置の金額が違うこと(日本より相当に低額)
▽政府補償が有限であること(中国のみが有限)
▽免責事項が違うこと(韓国では異常に巨大な天災も有責)
【A1.の解説】
韓国、中国、台湾等の周辺国は日本の原賠法と同様に、無過失責任、事業者への責任集中、賠償措置の強制、国家補償等を備えた原賠制度を持っていますが、制度の内容を細かく見ていくと下記のような相違点があります。
・ 韓国
原賠制度は原子力損害の賠償法として定められています。賠償措置額は500億ウォン(約62.6億円)ですが、事業者の責任は3億SDR(約528億円)をもって有限責任となります。賠償措置額を超えて事業者が損害賠償を行えない場合には、国が事業者に必要な援助を行います。事業者が免責となるのは「国家間の武力衝突、敵対行為、内乱または反乱による場合」のみであり、異常に巨大な天災は免責事項となりません。
・ 中国
原賠制度は「国務院第三者核責任処理問題に関する回答(1986年および2007年)」の中に規定されていますが、法律として定められていません。現在賠償措置額は3億元(約46.5億円)であり、この額をもって事業者の責任限度額となります。損害額が賠償措置額を超過した場合は政府が援助することになっていますが、その限度額は8億元(約124億円)までに限られています。「武力衝突、敵対行為、内乱あるいは暴動、または重大な自然災害によって生じる場合」、運営者は免責となります。
・ 台湾
原賠制度は原子力損害賠償法として定められています。賠償措置額は42億台湾ドル(約134.8億円)であり、この額をもって事業者の責任限度額となります。損害額が賠償措置額を超過した場合は政府が貸付を行うことになっています。事業者の責任は「国際武力紛争、戦争行為、国内暴動、または重大な自然災害に直接起因する場合」は免責となります。
- (周辺国との間の越境損害)
日本で起こした原子力事故によって韓国に損害が及んだ場合、賠償はどのようになりますか?
- 韓国の民事法令は日本と同様と想定されるため、以下のようになると考えられます。
- 日本、韓国のどちらにおいて裁判をすることも認められます。
- 日本の法廷では日本の原賠法が、韓国の法廷では韓国の民法(韓国の原賠法でなく、一般の不法行為法)が適用されます。
- 判決については、韓国法廷における判決に対しても、日本の民事訴訟法および民事執行法が適用されて、損害賠償の弁済が執行されます。
- 賠償金の算定基準は裁判を行った国の基準が採用されます。
【A2.の解説】
国境を越えた損害賠償の裁判など、自国と他国の法律がぶつかりあう部分については、各国において渉外的な私法関係を決めるための法律があり、これを国際私法といいます。
国際裁判管轄権については、条約等で定めている場合を除けば国際的な取り決めがあるわけではなく、各国が法律により独自に決める問題です。我が国には国際裁判管轄権について直接の定めはないので、民事訴訟法などから類推すると、以下の場所で裁判を行うことができると考えられます。
- 被告の所在地国(日本)
根拠:民訴法第4条「訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。」 - 不法行為地 (日本および韓国)
根拠:民訴法第5条9項「不法行為があった地を管轄する裁判所に提起することができる。」 - 損害発生地(日本および韓国)
根拠:被害者保護の立場から結果発生地を不法行為地とする場合がある。
このとき適用される法律は、法の適用に関する通則法第17条「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による」から類推して、損害発生地の法律が適用されるのが一般的ですが、各国の原賠制度は自国内の原子力事業者を対象としているため外国の原子力事業者が加害者となるような越境損害には適用できず、他国で事故が発生した場合は一般の不法行為法、自国で事故が発生した場合は原賠法が適用されます。
また判決の執行は、民事訴訟法118条(外国裁判所の確定判決の効力)に則って執行されることになります。
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