今回は、新規原子力導入国の基本的な課題と原賠制度構築の要点についてQ&A方式でお話します。
- (新規導入国の基本的な課題)
新たに原子力施設を導入しようとする国にとって、あらかじめ整備しておくべき基本事項とは、どのようなことですか?
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- 新規原子力導入国は、原子力安全(Safety)、核セキュリティ(Security)、核不拡散(Safeguards/ non-proliferation)の3Sを確保し、自立的な規制と長期的な政策の下で平和利用を進めることが大切です。
- また、原子力発電を安全、安定的、効率的に運転していくため、あるいは原子力事故による損害の補償などに関する法制度の体系的な整備・制定が必須です。
- 更に、原子力発電のインフラ構築には、人材の確保・教育育成、資金調達、国内関連産業の育成などが不可欠といえます。
【A1.の解説】
原子力平和利用の前提としていずれの国にも、事故を起こさないようにする原子力安全(Nuclear Safety)、核拡散を防ぐIAEAの保障措置(Safeguards)、および核テロを防ぐために核不拡散条約(NPT)の締結と防護対策(Security and Physical Protection)の確保が求められており、これらはSafety, Security, Safeguards の頭文字をとって「3S」と称されています。
IAEAの原子力発電導入に関わるガイドブック・マイルストーンドキュメントでは、3Sを含めた導入プログラムの必要なインフラとして、以下の19項目を挙げています。
(1) 国の原子力政策:国は原子力計画を明確に示し、この方針につき国内外の理解を得るとともに、国の強力かつ長期的なサポートが重要です。
(2) 原子力安全:原子力の安全は、原子力の計画・実施に関わる国・規制機関・運転者・メーカー等全ての関係者に求められるものであり、安全の確保は原子力を導入するに当たっての根幹です。
(3) 運営管理:運営管理の役割と責任は、国の原子力計画の検討から運転までの各段階で変わりますが、各段階の完遂には要求事項をしっかりと保証できるように盛り込むような高度な運営管理が不可欠です。
(4) 資金・財政:原子力計画のあらゆる段階で多額の資金が必要であり、安定的かつ継続的な財政援助や資金確保が求められます。
(5) 法的枠組み:法的枠組みは原子力計画に関わる各種団体の義務と責任を定めるものですが、特別な分野を取扱う原子力法では一般法との調整や国際条約との連携が必要です。
(6) 保障措置:「核兵器の不拡散に関する条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons (NPT)」に基づく核兵器等製造への転用防止義務を検証するためのIAEAの仕組みです。
(7) 規制枠組み:原子力計画の長期的な発展には独立した有能な規制組織の存在が極めて重要であり、明確な権限と適切な人材及び予算を持つ組織を設置することが必須です。
(8) 放射線防護:あらゆる状況下において、作業従事者、公衆、環境の保護の確保は必須であり、各国は医療、産業、研究分野での放射線防護を規定しています。
(9) 送電網:国のエネルギー政策の一つに原子力を採用する場合には、国の電力送電網の規模と形状を考慮することが重要事項となります。
(10)人材育成:原子力の建設、認可、運転、保守や法令に対応するための知識や技術は科学的、技術的な経験・訓練を集積したものであり、これらに関わる人材の育成が必須です。
(11)ステークホルダーとの関係:原子力の安定的な政策環境は大概のステークホルダーとの合理的な判断を必要としており、原子力におけるステークホルダーには、オピニオンリーダーである国や自治体の首長、産業界の首脳、メディアやNGOなどが挙げられますが、関係する市民の全てに適切な情報が提供され、対話集会に参加する機会を与えられることが大切です。
(12)立地場所と関連施設:立地場所の選定と評価は原子力計画を決定するための重要事項の一つであり、建設費用と理解促進(PA)により大きな影響を受けます。原子力発電施設のみならず使用済燃料中間貯蔵施設、廃棄物処理施設なども同様に周到な検討が必要です。
(13)環境保護:環境保護は原子力計画を熟慮する際に十分に留意すべきことであり、通常運転時における放射性物質の放出には特に考慮が必要です。
(14)緊急時計画:原子力施設は安全性には細心の注意を払って設計、運転が行われ、安全システム設計は施設からの放射性物質の放出を最小限にするようにされていますが、可能性はゼロではなく、異常事象は起こり得ることから施設自体のみならずサイト周辺地域に対する緊急時計画が不可欠です。
(15)安全防護対策:安全防護対策は内外の敵対者による公衆及び環境を危険に晒すような悪意ある行為を防ぐものです。
(16)燃料サイクル:核燃料サイクル戦略は原子力計画の初期段階から必要であり、どのような原子力技術を導入するかに掛かってくる重要な問題です。
(17)放射性廃棄物:放射性廃棄物の取扱い及び廃棄は原子力利用と密接に関係した基本的事項であり、放射性廃棄物は将来世代に過度の負担を押付けるのを避けるような方法で処理される必要があります。
(18)産業基盤:原子力の建設や運転は多数の製品、機器、業務が要求されるので、これらを支える活動には国内及び当該地域における産業勃興、経済成長が必要とされます。
(19)調達:原子力に関わる資材と業務の調達については、特別な品質や環境上の資格条件を要求する複雑なものとなっており、国や施設所有者、運転者の要求に応じて調達されます。
- (新規導入国の原賠制度創設に関わる要点)
新規原子力導入国が原子力損害賠償制度を創設するとき、どのようなことに留意すべきとされていますか?
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- 原子力損害賠償に関する制度は原子力を導入するために必須の制度であり、制度の基本的な仕組みはほぼ世界共通とされています。
- 最近の新規導入国では、原賠制度の制定にあたって国内の原賠法と国際条約(パリ条約、ウィーン条約、CSC条約)を連携させて検討する方向にあります。
【A2.の解説】
原賠制度は、IAEAの原子力導入のインフラ項目「法的枠組み」である原子力法の一環として必須のものに位置づけられています。この制度の骨子は、賠償責任の厳格化、原子力施設運営者(事業者)への責任集中、責任の免責、損害賠償措置、責任額の制限、公平な補償などから成ります。
原子力損害の特徴として、ソ連・チェルノブイリ事故(1986年)に見られるように国境を越えた広範囲な損害の発生があります。そのため、多くの新規導入国は、国際的な原子力損害の責任に関する条約の批准を認識しつつ、原子力損害賠償に関わる国内法の整備・制定を検討する方向にあります。とりわけ、損害賠償措置額が充分に用意できない多くの発展途上国については、加盟国から補完基金が提供されるCSC条約はメリットが大きいものと思われているようです。
この制度の損害賠償措置における責任額は各国により様々ですが、この数百億円からの責任額を直接保証している国は少なく、多くの原子力既存国では保険制度が利用されています。この損害賠償措置の方法や保険制度の仕組みについては、次号に予定しています
○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。
最新版の冊子「あなたに知ってもらいたい原賠制度2012年版(A4版324頁、2012年12月発行)」をご希望の方は、有料[当協会会員1,000円、非会員2,000円(消費税・送料込み)]にて頒布しておりますので、(1)必要部数、(2)送付先、(3)請求書宛名、(4)ご連絡先をEメールでgenbai@jaif.or.jpへ、もしくはFAXで03-6812-7110へお送りください。
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