今回は、原子力災害への対策についてQ&A方式でお話します。
- (原子力災害対策特別措置法)
万が一原子力災害が発生した場合の法制度はどのようになっていますか?
- 原子力災害への対策は、従来、災害対策基本法の枠組みの中で行われてきました。この枠組での原子力防災は、原子力発電所等を対象としたものでした。しかし、平成11年9月に発生したJCO臨界事故が原子力発電所ではなく、核燃料の加工施設での事故であったこと等から、防災対策の面で主に以下の課題が顕在化しました。
① 災害時の国による迅速な初動体制を確保すること
② 原子力の専門的知識を有する国の役割を強化すること
③ 国、関係自治体、原子力事業者等の連携を強化すること
④ 原子力事業者の防災対策上の責務を明確化することこれらの課題に取り組んだ結果、「原子力災害対策特別措置法(原災法)」が平成11年12月に制定、12年6月に施行され、現在は国・自治体・原子力事業者等の関係者が一体となり、原子力災害対策の強化が図られています。
【A1.の解説】
原子力災害の特殊性を踏まえ、JCO臨界事故により顕在化した課題を法的に解決するために、災害対策基本法と原子炉等規正法の特別法として「原子力災害対策特別措置法(原災法)」が制定されました。原子力災害については、まず十分な安全規制により災害の発生を防止することが基本となりますが、平常時から防災計画の策定・緊急時対応体制の構築・防災訓練の実施等を行うこと、および災害発生時に際しては初期対応・緊急事態応急対策の実施・事後対策の実施等が重要となります。原災法では、これらの諸対策を盛込むことにより災害発生時の対応を迅速に講じられるようにしており、主な事項は以下の通りです。
① 災害時の国による迅速な初動体制の確保
原災法では、原子力事業者による通報(10条1項)や政府による原子力緊急事態宣言を出す基準を明確化(15条)するとともに、宣言が出された場合には政府の原子力災害対策本部及び現地対策本部を設置することなどを定めており(16条)、緊急時における初期動作の判断要素を極力少なくすることで迅速な対応が図れるようになっています。
② 原子力の専門的知識を有する国の役割の強化
緊急時に国が実効的に対応するため、関係行政機関、地方公共団体、原子力事業者等に対して指示を行う(20条3項)という強力な権限や、自衛隊派遣の要請権限を政府の原子力災害対策本部長に対して与える(20条4項)ことで対応体制の強化が図られています。
また、現地対策本部長が現地における実質的な責任者として関係機関の調整や指示を行うことで、原子力事業者、原子力の専門家、派遣された自衛隊、警察、消防、医療チーム等が連携を取りつつ、総力を挙げて緊急事態応急対策を実施することになります。
さらに、原子力災害対策本部長に対する原子力安全委員会の助言を明確に位置付けたり(20条6項)、原子力安全委員会に緊急事態応急対策調査委員を設けることにより一層の体制強化が図られています。
③ 国、関係自治体、原子力事業者等の連携の強化
国と地方公共団体との連携強化を図るため、原子力事業所のある地域に日頃から国の原子力防災専門官を駐在させて事業者への指導や地方公共団体と連携した活動を行う(30条)ほか、緊急事態応急対策を実施する拠点施設(オフサイトセンター)をあらかじめ指定し(12条)、緊急時には、緊急事態応急対策に関する国、地方公共団体、事業者との間の情報交換や相互協力を行う原子力災害合同対策協議会を組織する(23条)などして円滑な協力体制を構築することになっています。また、平常時には国、地方公共団体、原子力事業者等関係者が実践的な防災訓練を実施することになっています。
④ 原子力事業者の防災対策上の責務の明確化
原災法により、原子力事業者に対して原子力災害の発生や拡大を防止するための原子力事業者防災業務計画の作成を義務付ける(7条)とともに、当該業務を行うために必要な要員や資機材の準備、放射線測定設備の設置(11条1項)およびその数値の記録・公表等(11条7項)を義務付けており、原子力事業者の防災対策が適切に確保されるようになっています。
- (原賠制度の運用)
原子力災害が発生したとき、原賠制度はどのように運用されますか?
- 前掲の原子力災害対策そのものとは異なりますが、JCO臨界事故の際の被害者への損害賠償対応の経験をもとに、原子力災害発生時の損害賠償請求等にすみやかに必要な対応がなされるよう、このたびの法改正(平成21年4月の「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」、「原子力損害賠償補償契約に関する法律(補償契約法)」及び関係法令)の他に、文部科学省によって原子力事業者を始め国・地方公共団体・原子力保険プール等の関係者に関わる原子力損害賠償の手続きや損害の拡大防止のための要点が記された「原子力損害賠償制度の運用マニュアル」が平成21年12月に作成されています。
これにより、原子力事業者をはじめ関係者が、原子力損害賠償への対応につき具体的な想定を持って、適切かつ迅速に行われることと期待されます。
【A2.の解説】
原子力損害賠償制度については、原賠法、補償契約法等により、原子力事業者の損害賠償責任や、損害賠償措置、国の援助、原子力損害賠償紛争審査会の活動などが規定されています。
原子力損害の賠償が行われた唯一の事例であるJCO臨界事故の経験を通して、損害賠償は当事者である原子力事業者と被害者との間で解決を図るのが基本であるものの、スムーズな解決には国や地方公共団体による支援が不可欠であること、特に、初動の時点で住民にどのような対応を行うかを明確な仕組みにより示していくことが重要であるという教訓が得られました。
また、万が一原子力災害が発生した場合には、原子力損害に関して短期間に発生する多数かつ多様な賠償請求に迅速に対応しなければならないため、原子力事業者や他の関係者との間で原子力損害賠償制度の的確な運用について共通理解を形成して備える必要があります。
こうしたことから原賠関係法令を補うものとして「原子力損害賠償制度の運用マニュアル」が作成され、原子力災害発生時における、原子力損害の発生から損害賠償の合意までのプロセスや平常時における関係者間の連携方策、原子力事業者に求められる対応、関係者間で共通理解を形成しておくべき事項などが示されています。
その主な事項は次の通りです。
①「賠償手続きの全体像」では、原賠制度のあらまし、賠償手続きのプロセス、賠償請求の対象など
②「損害発生から損害賠償の合意まで」として、原子力損害の発生、支援手続きの開始、原子力損害の拡大防止策、全体の損害状況の迅速な把握、原子力事業者による被害届(賠償請求)の受付と関係者の支援、原子力損害賠償紛争審査会による損害指針の策定、損害賠償の合意、紛争審査会による仲介、訴訟など
③「保険金(補償金)の支払」では、損害賠償と保険金支払い、請求手続きなど
④「国による原子力事業者の支援」では、国による援助、事業者の対応、援助の在り方など
⑤「平常時における関係者間の連携」では、災害対策基本法や原子力災害対策特別措置法に基づく組織的・計画的な協働体制の活用、賠償に関わる連絡体制の構築、関係者の情報共有、国・地方公共団体の対応など
なお、本マニュアルは制度の基本的な考え方を踏まえつつ運用面で必要となる具体的な対応の標準例が示されたものであり、実際に原子力災害が発生した際には、このマニュアルに一律に服することなく、関係者間において様々な状況を踏まえて最善の対応をすることが重要とされています。
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