今回は、新規の原子力発電導入が進められているベトナムの原子力開発事情と原賠制度についてQ&A方式でお話します。
- (ベトナムの原子力開発事情)
ベトナムの原子力開発はどのような状況ですか? また、ベトナムの原子力開発を取り巻く国際情勢はどのようになっていますか?
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- ベトナムでは、近年、経済成長に伴う電力需要の増加から電力不足に陥っており、これを解消するために原子力発電の導入計画が進められています。
- ベトナムの導入計画はニン・トアン省の2つのサイトに100万kWの原子炉をそれぞれ2基ずつ、合計4基400万kWを建設し、最初の1基を2020年に運転開始するというものです。
- ベトナムはロシア、中国、インド、韓国、アルゼンチンの5カ国と原子力平和利用協力協定を締結していますが、日本とは現在締結に向けて交渉中です。
【A1.の解説】
ベトナムでは過去10年間に年平均の成長率5~8%で経済成長しており、それに伴って電力需要が毎年平均14%ずつ増加しています。因みに、2007年のベトナムの全発電電力量は671億kWhと前年比113.9%の増加を示し、2008年夏には200~250万kW相当の設備容量が不足して全国的に停電が発生するに至っており、近年、ラオスや中国から電力を輸入している状況にあります。ベトナム政府の長期的エネルギー計画によると、2020年迄には電力需要が1次エネルギー供給可能量を上回ってしまうと予測されており、電力不足を解消するために原子力発電の導入が適切であるとの結論から、具体的な原子力発電導入計画が進められています。
ベトナムは1957年にIAEAに加盟(当時は南ベトナムとして加盟)し、1963年には初の研究炉を運転しています。その後、原子力発電所導入に向けた予備的な調査が1996年から実施され、プレフィージビリティスタディの結果である「投資報告書」が2009年11月に国会で承認されました。
その原子力導入計画の内容は、
- ニン・トアン省のフォック・ディンとビン・ハイの2ヶ所に各100万kWの原子炉を2基ずつ、合計4基400万kWの原子力発電所を建設することとし、最初の1基を2014年に着工し、2020年に運転開始する。
- 先進的で安全性が保証され、実績及び経済性のある軽水炉とする。
- 建設予算は約200兆ドンとする。
- 実現に向けて、法規制・技術基準の速やかな制定、環境影響評価の実施、人材育成計画の実施、サイトにおけるインフラの整備、などを行う。
さらに、今年の6月には、2030年までに14基、1500万kWの原子力発電所を建設・稼動させるという計画も公表されています。その概要は次の通りです。
- 第一段階(~2015年):初号機建設に必要なタスクの実施(法制度整備の完了、投資計画、サイトの承認、主契約者の選定、プロジェクト管理要員・技術者の訓練、国内原子力産業の体制・政策の整備など)。
- 第二段階(2016~2020年):初号機の建設完了・運転開始、2号機は2021年運開、後続サイトの選定。
- 第三段階(2021~2030年):原子力を主電源とする自主技術を向上させ、原子力発電の契約総額の3~4割を確保し、~2025年800万kW,~2030年8サイトに14基・1500万kW(総発電量の10%)の建設・稼動。
現在、発電所の建設に向けて日本、フランス、ロシアなどが激しい受注合戦を繰り広げていますが、第1サイトのフォック・ディンについてはロシアが建設に協力することになったと新聞各紙で報じられています。
なお、ベトナムはロシア、中国、インド、韓国、アルゼンチンの5カ国と原子力平和利用協力協定を締結しています。日本との関係では、経済産業省他関係各機関との間で協力文書(MOC)は締結していますが、原子力平和利用協力協定については交渉中で、まだ締結に至っていません。
- (ベトナムの原賠制度)
ベトナムの原賠制度はどのようになっていますか?
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- ベトナムの原子力法は2008年に国会で可決、2009年から発効しており、原賠制度については原子力法の中に規定されています。
- ベトナムの原賠制度に該当する条文には、原子力損害賠償に関わる基本的原則(責任集中、無過失責任、賠償責任額、賠償措置など)がほぼ網羅されています。
- ベトナムは現在、原子力損害賠償に関わる諸条約(パリ/改正パリ条約、ウィーン/改正ウィーン条約、補完基金条約(CSC))には加盟していません。
【A2.の解説】
ベトナムの原子力発電推進に関わる法制の根幹である原子力法(Law on Atomic Energy:Law No.:18/2008/QH12)は2008年6月3日に国会で可決され、2009年1月1日に発効しました。
- ベトナムの原賠制度は、11章93条からなる原子力法の第10章「放射線及び原子力損害に対する応急対策と損害賠償」の第2部「損害に対する賠償(87条~91条)」に定められています。
- 条文の内容は、原子力損害に関わる賠償責任の範囲、損害賠償の決定方法、原子力事業者の賠償責任限度額(1.5億SDR(約194億円*))、賠償請求権の除斥期間、賠償措置、賠償責任限度額を超える損害等に対する支援基金などが規定されています。
- 賠償責任を負う者が存在しない場合や賠償責任限度額である1.5億SDR(核燃料輸送の場合は1000万SDR)を超える損害については、支援基金を当てることとし、
① 支援基金は、原子力施設の関係者による義務的負担、ベトナム企業・個人の支援、外国の企業・個人および国際的企業の支援、その他法律に基づく源泉による
② 首相がこの支援基金の設立を定める
とされていますが、情報が十分ではなく具体的な内容はわかっていません。したがって、この支援基金については今後関連法令等の情報収集に努め、具体的な制度設計を把握していく必要があります。
なお、原子力損害賠償に関わる諸条約(パリ/改正パリ条約、ウィーン/改正ウィーン条約、補完基金条約(CSC))には加盟しておりません。
また、その他原子力関係国際条約への加盟については、
- 「原子力事故早期通報条約」、「原子力事故または放射線緊急事態における援助条約」、「核不拡散条約(NPT)」、「包括的核実験禁止条約(CTBT)」、「IAEA保障措置協定」、「IAEA追加議定書」に加盟
- 「原子力安全条約」、「使用済燃料安全管理・放射性廃棄物安全管理合同条約」、「核物質防護条約」には非加盟という状況にあります。
*平成22年8月20日現在のレートによる。
○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2012年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を冊子にまとめました。
最新版の冊子「あなたに知ってもらいたい原賠制度2012年版(A4版324頁、2012年12月発行)」をご希望の方は、有料[当協会会員1,000円、非会員2,000円(消費税・送料込み)]にて頒布しておりますので、(1)必要部数、(2)送付先、(3)請求書宛名、(4)ご連絡先をEメールでgenbai@jaif.or.jpへ、もしくはFAXで03-6812-7110へお送りください。
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