今回は、東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の判定等に関する第二次指針と、指針追補の「精神的損害の損害額の算定方法」についてQ&A方式でお話します。
- (福島原発事故による原子力損害の範囲―第二次指針)
原子力損害賠償紛争審査会により5月31日に決定された東京電力(株)福島第一、第二原子力発電所事故の原子力損害の範囲の判定等に関する第二次指針はどのような内容ですか?
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- 第一次指針の対象外だった損害項目や範囲、一部の損害項目の具体的な損害算定方法の考え方を示す、第二次指針が原子力損害賠償紛争審査会(紛争審査会)により5月31日に決定、公表されました。
- 第二次指針では、①避難等の指示に係る損害として、「一時立入費用」、「帰宅費用」、「精神的損害」、「避難費用の損害額算定方法」、「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害の損害額算定方法」、②出荷制限等に係る損害として、「出荷制限指示等の対象品目の作付断念に係る損害」、「出荷制限指示等の解除後の損害」、③作付け制限指示等に係る損害、及び④風評損害が対象とされています。
- 第一次、第二次指針の対象でないものも今後検討されることとなっており、7月頃に原子力損害の全体像に係る中間指針の策定が予定されています。
【A1.の解説】
原子力損害の範囲の判定等を行う紛争審査会により、第一次指針の対象とされなかった損害項目や範囲、一部の損害項目に関する具体的な損害算定方法の考え方を明らかにした、第二次指針が公表されました。
第二次指針の概要は以下の通りです。本文は文末のリンクからご覧ください。
①政府による避難等の指示に係る損害
[損害項目]
(1)一時立入費用
- 「一時立入り」に伴う交通費、家財道具移動費用、除染費用等を賠償の対象とする。
(2)帰宅費用
- 住居に戻るために負担した交通費、家財道具の移動費用を賠償の対象とする。
(3)精神的損害(避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害)
- 避難等を余儀なくされた者が、正常な日常生活が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛を損害と認める。
[損害額算定方法]
(1)避難費用の損害額算定方法
- 「交通費」、「家財道具移動費用」、「宿泊費等」の実費を損害額とする。領収書がない場合は客観的な統計データによる推計も認められる。
- 「生活費の増加費用」は精神的損害の額に加算するのが合理的。
(2)避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害の損害額算定方法
- 「生活費の増加費用」と合算した一定額とするのが合理的。
- 宿泊場所等により差を設けることが考えられるが引き続き検討する。
(注:第二次指針公表の後、6月20日の第二次指針追補にて算定方法が示された。Q2参照)
②政府等による出荷制限指示等に係る損害
(1)出荷制限指示等の対象品目の作付断念に係る損害
- 減収分及び追加費用を賠償の対象とする。
- 勤務していた労働者の給与等の減収分が賠償の対象。
(2)出荷制限指示等の解除後の損害
- 解除後の減収分及び追加費用も賠償の対象とする。
③政府等による作付制限指示等に係る損害
[対象区域及び品目]
- 政府による作付け制限指示、放牧及び牧草等の給与制限指導、又は地方公共団体による作付けその他営農に係る自粛要請等(生産者団体による合理的理由に基づく措置を含む)があった区域及び対象品目に係る損害を対象とする。
[損害項目]
(1)営業損害
- 減収分及び追加費用を賠償の対象とする。
(2)就労不能等に伴う損害
- 勤務していた労働者の給与等の減収分を賠償の対象とする。
④いわゆる風評損害
(1)一般的基準
- この指針で「風評被害」とは、報道等により広く知らされた事実によって商品又はサービスに関する放射性物質による汚染の危険性を懸念し、消費者又は取引先が当該商品又はサービスの買い控え、取引停止等を行ったために生じた被害を意味するものとする。
- 放射性物質による汚染の危険性を懸念し、敬遠したくなる心理が平均的・一般的な人を基準として合理性を有していると認められる場合、「風評被害」についても相当因果関係があれば賠償の対象とする。
- 損害業種毎の特徴等を踏まえ、類型化して相当因果関係を判断する。
- 損害項目は①営業損害②就労不能等に伴う損害③検査費用(物)とする。
(2)農林漁業の「風評被害」
- 次に掲げる産品に係るものは相当因果関係が認められる。
① 農林産物に係る出荷制限指示等が出た区域(県又は市町村単位。以下同じ。)の農林産物(食用に限る)
② 畜産物に係る出荷制限指示等が出た区域の畜産物(食用に限る)
③ 水産物に係る出荷制限指示等が出た区域の水産物(食用に限る) - 上記について農林漁業者が事前に自ら出荷操業又は作付けを断念したことによる被害も相当因果関係が認められる。
(3)観光業の「風評被害」
- 事故発生県を拠点とする観光業の、事故後の解約・予約控え等による減収は相当因果関係が認められる。
- 但し、減収は東日本大震災自体による減収の影響度合いの検討も必要。
第一次指針、第二次指針の対象でないものも、賠償すべき損害から除外されるものではなく、今後検討が行われることとなっており、7月頃に原子力損害の全体像に係る中間指針の策定が予定されています。
- (精神的損害の損害額)
6月20日の第二次指針追補による「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害の損害額の算定方法」はどのようになりますか?
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- 精神的損害は第二次指針において本事故に係る損害賠償の対象とされていましたが、その損害額の算定方法が6月20日の指針追補で示されました。
- 避難生活等を余儀なくされた人であれば、年齢や世帯の人数にかかわらず、避難等をした個々人が賠償の対象となります。
- 損害発生の始期は平成23年3月11日、損害額の算定期間は①事故発生から6ヶ月間(第1期)、②第1期終了から6ヶ月間(第2期)、③第2期終了後終期までの期間(第3期)、の3段階に分けて算定することが合理的とされています。終期は対象者が対象区域内の住居に戻ることが可能になった日とすることが合理的とされていますが今後検討されます。
- 損害額は、第1期は一人月額10万円、但し避難所で避難生活をした期間は一人月額12万円、屋内退避区域にて屋内退避をした人は一人10万円(一括)、第2期は一人月額5万円が目安とされており、第3期については今後検討されます。
【A2.の解説】
第二次指針において暫定的な考え方が示された「避難生活等を余儀なくされたことによる精神的損害」と「生活費の増加費用」の算定方法について、「対象者」「損害額算定の基本的考え方及び算定期間」「損害額の算定方法」「損害発生の始期及び終期」に関する考え方を明らかにした指針追補が6月20日に決定されました。第二次指針追補の概要は以下の通りです。本文は文末のリンクからご覧ください。
①対象者
- 対象区域のおける居住者等であって、避難、屋内退避等により正常な日常生活の維持継続が長期間にわたって著しく阻害された者を対象とする。
- 年齢や世帯の人数にかかわらず、避難等をした者個々人が対象となる。
②損害額算定の基本的考え方及び算定期間
- 差し当たり、算定期間を以下の3段階に分けることが合理的と認められた。
> 事故発生から6ヶ月間(第1期)。
> 第1期終了から6ヶ月間(第2期)。ただし警戒区域等が見直される等の場合には、必要に応じて見直す。
> 第2期終了後終期までの期間(第3期)。
③損害額の算定方法
- 第1期については一人月額10万円、但し避難所等において避難生活をした期間は一人月額12万円。屋内退避区域の指定が解除されるまでの間、屋内退避をしていた者は一人10万円を目安とする。
- 第2期については一人月額5万円を目安とする。
- 第3期については今後の状況を踏まえ、改めて検討するのが妥当である。
④損害発生の始期及び終期
- 損害発生の始期は避難等をした日にかかわらず平成23年3月11日とする。但し、緊急時避難準備区域内の対象者(子ども、妊婦、要介護者、入院患者等)が本指針が定められた日(6月20日)以降に避難した場合には、実際に避難した日を始期とする。
- 損害発生の終期は、基本的には対象者が対象区域内の自宅に戻ることが可能となった日とすることが合理的であるが、具体的な帰宅の時期等を現時点で見通すことは困難であるため、なお引き続き検討する。
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