諸外国の原賠制度の特徴についてQ&A方式でお話します。
- (損害賠償措置の義務付け)
諸外国においても我が国と同様に、原子力事業者は損害賠償措置を義務付けられているのでしょうか?
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- 賠償措置は、ほぼ全ての国で原子力事業者に義務付けられており、多くの国では賠償措置額が責任限度額と同額とされています。
- 賠償措置の方法は、多くの国で保険等による財務的保証による制度が採用されています。我が国のように、保険だけでなく、これを補完するために政府との補償契約が義務付けられている制度を採用する国は決して多くありません。
- この他、高額の措置を行うために保険による措置と事業者同士が資金を出し合う形で資金調達を行う仕組みの措置が組み合わされている国もあります。
【A1.の解説】
我が国では原子力事業者に1200億円(但し核燃料の加工・運搬・貯蔵等の場合には少額賠償措置が認められている)の賠償措置が義務付けられており、賠償措置は原子力損害賠償責任保険及び原子力損害賠償補償契約もしくは供託により行うことになっています。
諸外国においても、ほぼ全ての国で賠償措置が義務付けられており、その金額はほとんどの国において原子力事業者の責任限度額と同額とされています。これにより、事故の際には賠償措置による資金を賠償に充てることで確実に責任を果たすことができるようになっています。
例外的に韓国においては、責任限度額3億SDR(約369億円)に対して賠償措置額が500億ウォン(約37億円)となっていますが、その差を埋めるための国による援助が規定されています。また、ベトナムでは、原子力損害に関わる賠償措置額は現在のところ規定されていません。
一方、賠償措置の方法は国によって違いがあります。ほぼ全ての国において保険その他の財務的保証により措置を行うことが規定されており、実際にもほとんどの国において保険による措置が行われていますが、それに加えて、保険等が機能しない場合に備えて政府と補償契約を結ぶ措置や、高額の措置を行うために保険による措置と事業者同士が資金を出し合う形で資金調達を行う仕組みの措置が組み合わされている国もあります。
- 保険に加えて、保険の免責事項を補完するために、政府との契約が賠償措置として義務付けられている国(例)
日本、韓国 - 第一段階に保険、これに加えて第二段階に事業者同士が資金を出し合う賠償措置を義務付けている国(例)
米国、ドイツ
米国では第一次損害賠償措置として保険により3億7500万ドル、第二次損害賠償措置として事業者間相互扶助制度により約122億1948万ドル、合計約125億9448万ドル(約1兆68億円)の賠償措置が義務付けられています。ドイツでは第一層損害賠償措置として保険により2億5000万ユーロ、第二層損害賠償措置として自家保険により22億5000万ユーロ、合計25億ユーロの賠償措置が義務付けられています。
- (損害賠償措置が機能しない場合の措置)
損害賠償措置が何らかの事由により機能しなかったために、賠償資金が賠償措置額に不足する場合、原子力事業者はどのように被害者への賠償資金を確保するのですか?
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- 多くの国では、損害賠償措置は保険やその他の保証と規定されており、我が国のように賠償措置として保険契約を補完するために政府と補償契約を結ぶ仕組みにはなっていません。
- 保険やその他の保証による措置だけでは、実際に起きた原子力事故の態様によっては、保険約款上の免責事項などに該当し、保険金等が支払われない場合も生じます。
- そのため、多くの国では賠償措置による資金が原子力事業者の賠償に不足する場合に備えて、国がバックアップする仕組みを規定しています。
- 責任限度額までの賠償措置が義務付けられていない国や、責任限度額が無い(無限責任)国においては、賠償措置額を超える賠償についても、国による援助が規定されています。
【A2.の解説】
我が国の損害賠償措置は、民間の原子力損害賠償責任保険が原則となっています。そのため、保険で填補されない地震・津波・噴火、10年後の賠償請求、正常運転による場合の原子力損害に対処するため、原子力事業者は政府と原子力損害賠償補償契約を行うことになっています。同様の仕組みは韓国などで採用されているものの、ほとんどの国では賠償措置は保険契約のみで行われており、賠償措置として保険を補完するために政府と補償契約を結ぶ仕組みにはなっていません。
このように、民間の保険やその他の保証による賠償措置の場合、契約上の免責事項に該当する場合や、何らかの事情(例えば引き受けた者の資金不足など)により保険金等の支払いが為されない場合には保険金が支払われず、賠償措置が機能しないことが考えられます。賠償措置が機能しなければ原子力事業者の経営に深刻な影響が及ぶばかりか、被害者が充分に賠償を受けられなくなってしまうことになります。
そのため、多くの国では賠償措置による資金が原子力事業者の賠償に不足する場合に国がバックアップする仕組みを規定しています。
保険やその他の保証による措置が機能しない場合の規定は、おおよそ以下のように分類されます。
- 保険及びこれを補完する政府との補償契約が賠償措置に組み込まれている国(例)
日本、韓国 - 国が不足分を賠償措置額まで負担する国(例)
フランス、ドイツ、スイス(事業者から負担金を徴収する)、マレーシア - 国が事業者に何らかの援助を行うことを規定している国・地域(例)
援助方法を規定:台湾(賠償措置額まで貸付)、米国(当局が資金を確保、事業者が返済する)何らかの対応を規定:
中国、イギリス、ポーランド - 規定に明示されていない国(例)
インド、ロシア、ベトナム、インドネシア
なお、多くの国では原子力事業者の責任限度額と賠償措置額は同額ですが、責任限度額までの賠償措置が義務付けられていない国や、原子力事業者が無限に責任を負う国においては、賠償措置額を超える賠償についても、国によるバックアップが規定されています。
- 責任限度額までの賠償措置が義務付けられていない国
- 責任限度額が無い国(例)
日本・・・損害額が賠償措置額を超え必要と認められる場合に国が必要な援助を行う。
韓国・・・国が必要な援助を行う
ドイツ、スイス・・・賠償措置額を超え、事業者の資金が賠償に足りない場合は国が資金の配分方法を決定する。
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