EU加盟国の原子力をめぐる動向 ― 欧州原子力共同体(Euratom)供給局
2023年 年次報告より
欧州原子力共同体(ユーラトム)供給局は2024年8月13日、欧州域内における燃料供給に関する2023年の年次報告書を公表しました(8/26付原子力産業新聞にて既報)。
ロシアによるウクライナ侵攻は、世界中でエネルギー価格の変動やエネルギー供給不安を引き起こし、特にEUのエネルギーシステムに重大な影響をもたらしました。こうしたなか、EUでは現在、ロシアの化石燃料への依存を低減し、2027年までにロシアからのエネルギー輸入を段階的に廃止するという目標を掲げ、取り組みが進められています。
原子力分野では、欧州委員会(EC)と欧州原子力共同体(Euratom)供給局(ESA)が、欧州で運転するロシア設計のVVER型原子炉への燃料供給の多様化を進めています。その結果、これまでにVVERを運転している加盟国(ブルガリア、チェコ、フィンランド、ハンガリー、スロバキア)の5つの事業者のうち、4社が2023年末までにロシア以外の供給先と代替燃料の供給に関する契約を締結しました。一方で、特定の医療用RIや研究炉用燃料については、依然としてロシアへの依存が続いている状況にあります。
原子力発電所の運転状況については、2023年、EU域内(27か国)における13の加盟国で103基が運転し、原子力発電電力量は5,876億kWh、総発電電力量に占める原子力の割合は約23%となりました。このうち、フランス、スロバキア、ハンガリー、ブルガリアの原子力シェアは40%を超えています。
2023年の主な動きとして、スロバキアのモホフチェ3号機(VVER-440)が、1月31日に送電を開始。そのほか、2005年に着工し、完成まで約18年間の時間を要した欧州初のEPR(欧州加圧水型炉)であるフィンランドのオルキルオト3号機(172.0万kW)が、5月1日に営業運転を開始しました。一方、ドイツは4月15日、残る3基を閉鎖し、2011年3月時点で所有していた商業炉全17基を全廃しました。その結果、2023年末現在、EU域内で運転する原子炉は、12か国・計100基となっています。
ここでは、ESAの2023年 年次報告で紹介されている、加盟国の動きを紹介します。
欧州連合(EU)(報告書から主な動きを一部抜粋)
2023年、欧州グリーンディール(産業競争力を強化しつつ、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目標としたEUの気候変動政策)は実施4年目を迎え、REPowerEU戦略(ロシアの化石燃料への依存を急速に減らし、グリーン転換を加速する計画)がそれを補完するなど、欧州は、世界的なエネルギー危機に対して団結し、断固たる対応ができることを引き続き証明した。
原子力は、2023年に発効、採択、または協議中であったいくつかの法的文書の範囲に含まれている。これらの法的手段は、欧州グリーンディールの目的を達成することをめざしており、電力市場設計(EMD)の改革、ネットゼロ産業法(NZIA)の提案、EUタクソノミーに関する補完委任法などが含まれている。
欧州委員会(EC)は2023年3月、EMDと卸売エネルギー市場の健全性と透明性に関する規制(REMIT)の両方の改正案を含むパッケージを採択した。このパッケージは、①非化石燃料発電の長期契約を奨励し、②クリーンで柔軟性のあるソリューション(ディマンド・レスポンス[DR]や貯蔵など)がエネルギー市場でより強力な役割を果たせるようにする措置を導入する。目的は、①電力価格を不安定な化石燃料価格に依存しないようにし、②消費者保護を高め、③潜在的な価格高騰からエンドユーザーを保護し、④再生可能エネルギーとクリーンエネルギーの導入を加速する――ことである。EMDは、再生可能エネルギー源の高い普及率の達成に焦点を当てているが、原子力の役割も認識している。EMDの改訂で規定された手段(差金決済契約[CfD]と電力購入契約[PPA])は、原子力と再生可能エネルギーの両方の新規プロジェクトに等しく利用できるように設計されている。場合によっては、CfDは、既存の発電施設の大幅な改修、出力増強、運転期間延長といった新規投資にも利用される。CfDとPPAは、投資家に新たな投資を追求するために必要な保証を与えることで、原子力プロジェクトに利益をもたらすはずである。
2023年3月、ECは「ネットゼロ産業法」の提案も採択した。この提案は、規制の枠組みを合理化し、投資を呼び込み、これらの技術を利用するための、より良い条件を整備することによって、クリーン技術の製造を拡大することを狙いとしている。小型モジュール炉(SMR)および原子燃料サイクルからの廃棄物を最小限に抑えつつ、エネルギーを生産する原子力の先進技術が、ECの提案に含まれている。
2023年1月1日、EUタクソノミー規則の補完委任法が発効した。厳しい条件の下、EUタクソノミー(環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資基準)でカバーされる経済活動のリストに、原子力エネルギー分野の特定の3つの経済活動(先進技術の開発・導入、 原子力発電所の新規建設[2045年までに建設許可を取得したもの]]、 既存設備の改修[2040年までに各国当局に承認されたもの]))が含まれている。これら3つの特定の原子力活動の基準は、EUの気候、環境目標に沿ったものである。これらの基準を満たすプロジェクトは、固形または液体の化石燃料(石炭を含む)から、ネットゼロ、気候中立な未来への転換を加速するのに役立つものである。
脱炭素化の流れの一環として、多くのEU加盟国がSMRなどの新しい原子力技術のオプションを検討している。過去2年間のEU SMR事前パートナーシップで行われた作業を基に、ECは、2023年も引き続き、欧州SMR産業アライアンスの設立を促進するための取り組みを継続し、2024年初頭の設立に道を開いた。この目的のため、ECは2023年10月、SMRステークホルダー・フォーラムを共催し、事前パートナーシップ作業の成果をレビュー、議論し、今後の方向性を定めた。SMR産業アライアンスの主な目標は、2030年代初頭までに欧州でSMRの開発、実証、展開を促進し、加速することである。
オーストリア
原子力発電設備の建設および運転は、オーストリア連邦憲法により禁止されている。
ベルギー
1月、チアンジュ2号機(PWR, 105.5万kW)が、ベルギーの脱原子力計画に沿って、永久閉鎖した。
ベルギー連邦政府は2022年、ドール4号機(PWR, 109.0万kW)とチアンジュ3号機(PWR, 108.9万kW)の2035年までの運転期間延長を視野に入れ、原子力事業者との交渉に入ることを決定し、10年間の運転期間延長に関する環境影響評価に着手した。
仏エンジ―社とベルギー連邦政府は2023年12月、これら2基の10年間の運転期間延長に係る条件を定めた協定に調印した。この協定は、ドール4号機とチアンジュ3号機の早ければ2025年11月の再稼働を保証し、廃棄物と使用済燃料の管理に関する規則が変更される可能性を排除するために、両者間でリスク配分を均衡させることを目的としている。
IAEAは6月、IRRS(総合規制評価サービス)ミッションを実施し、政府と規制当局が原子力および放射線安全の継続的改善に取り組んでいると結論した。同ミッションはまた、同国の原子力をめぐる状況の変化を考慮し、エネルギー規制当局に対する十分な財源と熟練したスタッフを特定し、確保する必要性を勧告した。
IAEAは12月、使用済燃料および放射性廃棄物の責任ある安全な管理のための欧州原子力共同体における枠組みを整備する2011年7月19日の理事会指令2011/70/Euratomに基づく義務に沿って、6月のIRRSミッションの結果をふまえ、ベルギーでARTEMIS(放射性廃棄物、 使用済燃料管理、廃止措置、除染に関する総合的レビューサービス)ミッションを実施した。IAEAは、ベルギーが放射性廃棄物および使用済燃料の安全管理に取り組んでいることを確認する一方、放射性廃棄物および使用済燃料の最終処分に関する国内政策および取り決めを改善するよう指摘した。
ブルガリア
ブルガリアは2019年以降、燃料供給の多様化プログラムに取り組んできた。コズロドイ原子力発電所と米ウェスチングハウス・エレクトリック(WE)社スウェーデンは2022年、コズロドイ5号機(VVER-1000)向けに、2024~2033年に新たな燃料供給に関する契約を締結した。2023年、コズロドイ原子力発電所は、WE社が製造する新型燃料RWFAの使用許可を求める申請書をブルガリア原子力規制庁に対して提出した。
さらに、欧州のエネルギー安全保障戦略に基づき燃料供給を多様化するというEURATOMの政策決定を受け、2023年3月24日、仏フラマトム社とコズロドイ6号機(VVER-1000)向けの燃料および関連サービスの供給に関する10年間の契約が締結された。最初の納入は、2025年11月を予定している。
ブルガリア国民議会は1月、AP1000技術を使用したコズロドイ7号機の建設に係る政府間協定を締結するために、閣僚理事会が米国政府と交渉することを認める決定を採択した。
政府は2023年10月の決定で、コズロドイ8号機の建設を原則承認した。この決定により、エネルギー大臣は、AP1000技術を使用した同7号機の建設に向けて、さらなる交渉に取り組むことも義務付けられた。
クロアチア
2023年、クロアチアは、クルスコ原子力発電所(PWR, 72.7万kW)から発生する低・中レベル放射性廃棄物の処分に関する準備を継続している。また同国は、クルスコ・サイトでの2基目の建設に関心を表明しており、SMR技術の開発を支援している。
IAEAのレビューチームは6月、クロアチアでARTEMISミッションを実施した。ARTEMISチームは、クロアチアは放射性廃棄物管理の課題に取り組んでいると結論したほか、放射性廃棄物の安全かつ確実な集中保管の取り決めの策定など、クロアチアがさらに努力すべき具体的な分野を特定した。
チェコ
新しい国家エネルギー・気候計画が起草され、2023年にECに提出された。計画によると、原子力発電は、再生可能エネルギーとともに、チェコの将来のエネルギー・ミックスの基本的な柱の一つである。これは、承認プロセスの最終段階にある新しい国家エネルギー政策でも確認された。政府は、ドコバニ5、6号機、テメリン3、4号機の合計4基の大型炉の建設を検討中である。チェコはまた、複数のSMRを建設する予定である。チェコ産業貿易省は2023年、小型および中型原子炉の計画を承認した。
チェコは2022年、ドコバニ・サイトに最大120万kWの新規建設に向けて、設計・調達・建設(EPC)の請負業者を選定するための入札を開始した。2022年11月、最初の入札には、フランス電力(EDF)、韓国水力原子力(KHNP)、米WE社が参加。技術的、商業的な議論などに基づき、入札者は2023年11月に改めて入札し、これには、ドコバニ5号機の建設に対する拘束力のある入札と、ドコバニおよびテメリンの両サイトでの4基すべての建設に対する拘束力のない意向入札が含まれていた。
2023年、チェコ最大の電力会社の一つであるチェコ電力(CEZ)は、取締役会が承認したSMRプログラムを実施した。これにより、CEZは、事前に選定された7社のSMRベンダーそれぞれに対して追加訪問を行い、2022年以降の技術開発の進捗状況をレビューし、各ベンダーの活動に関する最新情報を入手した。2023年、CEZは、テメリン原子力発電所と、現在は原子力サイトではないデトマロヴィツェとトゥシミツェでの調査も継続し、3サイトすべてのSMR立地に関する適性評価を行った。調査は、環境および人的側面の両方から考慮された。ベンダーの選定と立地活動は、2024年も継続される。
Euratom供給局(ESA)の多様化政策に沿って、ドコバニ原子力発電所への燃料集合体の供給に関する米WE社との長期契約が2023年3月に締結された。最初の納入は2024年、燃料装荷は2026年を予定。
IAEAのIRRSミッションは5月、チェコが原子力および放射線安全に関する強力な規制枠組みを維持し、強化する取り組みを確認した。IRRS チームは、いくつかの改善すべき分野を特定、具体的には主に、国家戦略エネルギー計画で計画されている新しい施設や活動の安全性に対する適切な規制監督を保証するための規則の必要性などである。IRRS ミッションは、10 月の IAEA・ARTEMISレビュー・ミッションによってサポートされ、同ミッションは、チェコが放射性廃棄物および使用済燃料の安全かつ責任ある管理の強固な基盤を確立していると評価した。ARTEMIS チームはまた、深地層処分場の計画と、同国の原子力発電プログラムの潜在的な拡大/延長に対する準備の確保の両方に関して、いくつかの勧告と提案を行った。
エストニア
エストニアは、気候中立の電力を生産するための解決策としてSMRを検討しており、2021年に原子力エネルギーに関するワーキング・グループを立ち上げた。
エストニアは2023年10月、IAEAの統合原子力基盤レビュー(INIR)フェーズ1ミッションを主催、その結果、エストニアには3つの勧告と3つの提案がなされ、さらに3つの優れた実践例が特定された。
IAEAが勧告するさらなるアクションの主要分野には、エストニアの包括報告書の完成が含まれている。この報告書は、政府と議会が同国での原子力導入について決定を下すための基礎となるものである。提案にはまた、立法および規制の枠組みなど、同国の原子力発電プログラムの準備と調整を開始することが含まれている。
原子力エネルギーに関するワーキング・グループは12月、エストニアにおける原子力導入の可能性に関する最終的な包括報告書を政府に提出した。
エストニアの原子力発電導入に関する決定は、2024年を予定。
フィンランド
フィンランドでは4月、議会選挙が行われ、新政権が発足した。同政府のプログラムには、原子力発電が重要な要素として盛り込まれ、より多くの原子力が必要であることが示されている。同プログラムはまた、新たな原子力プロジェクトやSMRなどの新技術の利用を可能にするため、同国の原子力法および規制の改正が急務であることも認識している。
オルキルオト3号機(EPR, 172.0万kW)は4月16日、試運転を終え、送電を開始した。運転認可期間は2038年まで。3号機の新規運開により、原子力発電は、フィンランドの総発電電力量の40%以上を供給する。
ロビーサ1,2号機(VVER-440×2基)は2月、運転認可を更新し、2050年末まで運転期間が延長された。
ロビーサ1,2号機の燃料供給の多様化をめざして、事業者は現在、新しい米WE社製燃料を試験中。2023年12月には、夏以降、原子炉1基で試験用燃料集合体1体が装荷され、試験は順調に進んでいると報告された。
フランス
マクロン大統領は2月と7月、閣僚級会合「原子力政策審議会(CPN)」を招集した。これらの会議は、短・長期的なフランスの原子力の諸問題を全体的に把握し、原子力政策の方向性を定める機会となった:
- 長期にわたって、脱炭素な、かつ競争力のある発電を視野に入れ、フランスの原子力安全当局による管理の下、適用される安全要件がすべて満たされる限り、既存の原子力発電所が60年以降も運転できるよう、準備調査が開始されている。
- 政府内に新規原子力に関する省庁連絡会議(Interministerial Delegation for the New Nuclear[DINN])が設置された。同会議は、EPR2・6基の建設計画の期限と目標が確実に守られるよう、すべての関係者を調整することを目的としている。
- ビュジェイ・サイトは、パンリー、グラブリーヌに続く、第3のEPR2・2基の建設サイトとして選定された。トリカスタン・サイトでは、将来の原子炉建設を視野に、技術調査と分析が引き続き行われている。
- SMR開発および革新炉(AMR)開発も極めて重要であり、大規模な投資計画「フランス2030」の課題の一つである。
- 原子力・代替エネルギー庁(CEA)の役割を強化し、そのリソースを大幅に増やし、これらプロジェクト開発に対する支援とバックアップを提供できるようにする。CEAはまた、原子力研究の舵取りと計画策定において政府を支援する。
- ジュール・ホロヴィッツ研究炉(JHR)の建設について、2032~2034年までの稼働をめざすための投資が承認された。
- 原子燃料サイクルについて、特に使用済燃料の処理と価値化の見通しに関して、徹底した作業を開始する。
- 原子力関連の業務に関する大規模な研修計画を開始する。
6月、既存原子力サイト近くでの新規建設の加速を目的とした法律が公布された。この法律は、建設に必要な認可を一元化するなど、行政手続きに要する時間を短縮し、簡素化を可能にするものである。
9月、仏エネルギー移行大臣は、OECD/原子力機関(NEA)とともに「新しい原子力へのロードマップ」会議の議長を務めた。その目的は、参加者が新規建設プロジェクトにおいて原子力に関する共同協力を実施できるよう、政府と産業界関係者にフォーラムの場を提供することであった。
EDFは2023年3月、フランスで2030年のリファレンス・プラントの着工をめざす目標に沿って、NUWARD小型モジュール炉の開発加速に向け、子会社NUWARD社を設立し、基本設計段階に移行することを発表した。、
EDFは2023年7月、財務実績の大幅な改善、純金融債務の安定化、原子力発電所の稼働率改善の段階的な回復を発表し、2024年の原子力発電電力量を3,150億~3,450億kWh、2025年は3,350億~3,650億kWhをめざすとした。
採掘について、オラノ社は5月にニジェール政府とグローバル・パートナーシップ協定に調印し、ニジェールでのウラン採掘を長期的な活動と位置付けた。7月のニジェール政変後、ソメール・ウラン鉱山の操業は継続したが、製錬プラントは9月、メンテナンスに入った。オラノ社は10月、モンゴルのZuuvch-Ovoo鉱山の開発と操業に関する議定書に調印した。カザフスタンのKatco社(カザトムプロムとオラノ社のJV)の南Tortkuduk鉱山サイトの産業開発は、予測どおりに進んでいる。最初の処理区域は、2024年に接続される予定である。
転換については、生産量は10,000トンU以上に達した(2022年の生産量は8,900トンU)。
濃縮については、オラノ社の取締役会は10月、ジョルジュ・ベスⅡ工場の濃縮能力を30%以上拡張するプロジェクトを承認した。操業開始は2028年で、2030年には年間10,000,000SWUを生産予定。
オラノ社は、米国エネルギー省(DOE)の情報提供依頼書(RFI, Request For Information)を通じて、先進炉開発を支援する効率的なHALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)燃料サプライチェーンを構築するためのノウハウと経験を提案した。
オラノ社は9月、LEU+/HALEU燃料輸送のための30B-Xシリンダーの開発に着手した。
オラノ社は5月、使用済MOX燃料の再処理について、日本の電力会社と技術協力協定を締結した。
ドイツ
ドイツでは4月、エムスラント(PWR, 140.6万kW)、イザール2号機(PWR, 148.5万kW)、ネッカー2 号機(PWR, 140.0万kW)の3基が、改正原子力法により、永久閉鎖した。これにより、同国で原子力発電による発電は終了し、研究炉のみが運転中となった。原子力応用や技術分野の研究機関や産業施設は、事業を継続している。
10月、IAEAのIRRSフォローアップ・ミッションが実施され、2019年に発出された25の勧告のうち、2つを除くすべての提案が実施されていることを確認した。ドイツは、継続的な改善のために、残されたトピックスに取り組む努力を続けるよう奨励された。これで、EUで10年毎に義務付けられているピアレビュー・プロセスの第2サイクルが終了した。
ギリシャ
5月、ギリシャ唯一の研究炉GRR-1(2004年に運転を停止し、現在は運転停止期間の延長が認可されている)に残っていた13の未使用の低濃縮ウラン(LEU)燃料要素が、カナダのマクマスター大学の研究炉で使用するため、カナダに輸出された。
さらに、アテネ国立工科大学機械工学部原子力工学科は、使用されていない(解体された)集合体にあった未使用の天然ウランの輸出に必要な手続きを完了した。
IAEAは9月、ギリシャにARTEMISレビュー・ミッションを派遣、放射性廃棄物管理の安全性を確保し、向上させるための優れた基礎が確立されていると結論した。一方で、レビュー・ミッションは、ステークホルダー・インボルブメントの向上、放射性廃棄物の安全な管理のための十分な技能労働者の確保など、さらなる取り組みが必要な分野も指摘した。
ハンガリー
パクシュ原子力発電所の事業者は2023年、パクシュ1~4号機(VVER-440×4基)の現在の50年の運転期間から20年間延長し、70年とする意向をEUに対して通知した。
4月、ECの承認を受けて、ハンガリーとロシアは、パクシュⅡプロジェクト(VVER-1200×2基)のEPC契約の補正書に署名した。大規模な敷地造成工事は年間を通じて継続され、150万㎥の土壌が掘削され、遮水壁の建設が完了し、地盤固め工事が開始された。
燃料の多様化と燃料の供給保証について、ハンガリーのエネルギー省は、仏フラマトム社と「原子力分野における戦略的関係」の構築に関する覚書を締結しており、将来的にパクシュ原子力発電所で仏製燃料の使用が可能になる可能性がある。
イタリア
環境・エネルギー安全保障省(MASE)は2023年9月、政府の政策およびエネルギーと気候に関する国家計画の見直し提案で示された戦略に沿って、持続可能な原子力エネルギーのための国家プラットフォームを立ち上げた。プラットフォームの目的は、現在開発中の新しい持続可能な原子力技術を使用して、イタリアで原子力エネルギーを再導入する可能性を見出すことである。このプラットフォームは、持続可能性と脱炭素化への原子力発電の貢献に焦点を当て、先進的な原子力分野に関連するイニシアチブ、経験、懸念、見通し、期待について議論するための総合的かつ国家的な収束点として機能する。
廃止措置については、国営の原子力廃止措置・放射性廃棄物管理企業のSoginが、U-Th使用済燃料管理用の輸送および貯蔵用金属キャスク2基の製造を完了したと発表した。2基のキャスクはTN24ER型で、1960年代後半からイタリアで保管されている米ELKリバー原子炉のU-Th使用済燃料を乾式貯蔵するために使用される予定。
10月に行われたIAEAのARTEMISレビュー・ミッションでは、イタリアは、放射性廃棄物の安全な管理の課題に取り組むとともに、使用済燃料と放射性廃棄物の国家処分施設計画を迅速に承認する必要性など、追加的な取り組みが必要な分野の特定に尽力していると評価した。
リトアニア
2023年初頭、イグナリナ原子力発電所(RBMK-1500×2基)は、米WE社スペイン率いるコンソーシアムと仏EDF率いるコンソーシアムと原子炉解体技術の設計サービスに係る2つの契約を締結した。イグナリナ原子力発電所の両機から核分裂性物質が除去され、使用済燃料は現在、乾式貯蔵施設に保管されている。
リトアニア国家原子力安全監査局は4月、同発電所のビチューメン(アスファルト)廃棄物貯蔵施設を地上処分施設に転換するプロジェクトに関するサイト安全性評価報告書を最終承認した。このプロジェクトに関する環境影響評価報告書は、現在準備中である。
11月には、イグナリナ原子力発電所埋立処分施設で短寿命の極低レベル廃棄物の2回目の廃棄物処分キャンペーンが完了し、サイトでの「ホット試験」が完了した。
2023年には、深地層処分場(DGR)サイトとしての可能性についてさらに調査するため、77の「最も適した」場所が選定された。
IAEA・ARTEMISミッションは7月、リトアニアのDGRプロジェクトのレビューを実施。レビューでは、8つの勧告と6つの提案が提示され、1つの良好事例が強調された。
オランダ
政府は、それぞれ100万kW以上の原子炉2基の建設に向けて必要な措置を講じており、現在、建設サイトの選定と入札手続きの開始を進めている。現在、技術サプライヤー3社が、技術的な実現可能性調査と市場調査を実施している。ボルセラ原子力発電所(PWR, 51.2万kW)の運転期間延長に向けた作業が進められている。
オランダ原子力安全・放射線防護庁(ANVS)は2月、原子力法の下、PALLAS研究炉の建設許可を発給した。これは、ペテンにある老朽化した高中性子束炉(High Flux Reactor: HFR)に代わる新しい医療用RIの製造炉である。後に、原子炉の建設ピットと基礎の建設に向けた準備作業が開始された。PALLAS炉は、政府が全額出資している。
2023年には、オランダの製造業に特に焦点を当て、同国におけるSMR開発を加速させるために、6,500万ユーロの追加資金が割り当てられた。このプログラムの目的は、オランダのエネルギー・ミックスにおけるSMRの必要性と潜在的有用性を、需要分析に基づいて探ることにより、同国におけるSMR設置可能性を予測することである。
ユレンコ社は12月、アルメロにあるウラン濃縮工場の濃縮能力を15%増強すると発表した。
2023年、2つのIAEAチーム(6月のIRRSと11月のARTEMIS)がオランダで調査を実施した。ミッションは、原子力安全および廃棄物管理の双方に関する同国の法的・政府的枠組みと規制インフラを包括的に評価した。IRRSチームは、同国が原子力および放射線の安全性の継続的な改善への取り組みを示したと結論し、将来の施設および活動を規制するために十分な規制とリソースを確保するよう勧告した。ARTEMISチームもまた、政府および規制当局が、安全性、イノベーション、公開性に対して取り組んでいることを確認した。
ポーランド
2023年、ポーランドでは、同国初の原子力発電所建設プロジェクトについて進展があった。具体的には、①原子力発電所建設の原則決定、②原子力発電所の環境条件に関する決定、③ポメラニア県ホチェボ自治体内のルビアトボ–コパリノ地区での立地決定、④PEJ社と米WE社―米ベクテル社のコンソーシアムとのエンジニアリング・サービス契約の締結、である。
ワルシャワ郊外にあるMARIA研究炉の改造工事プログラムは、2023年の開始、2027年の完了予定。研究炉を強化し、少なくとも2050年まで安全に運転できるようにすることが目的。
IAEAのIRRSミッションが9月に実施され、ポーランドの原子力・放射線安全に関する政府、法律、規制枠組みについてレビューした。同ミッションは、同国の原子力規制システムは適切であり、原子力プログラム導入開始に向けた準備が整っていると結論。また、ミッションは、3つの良好事例を特定するとともに、規制機関の独立性と十分なリソースの確保という大きな課題も指摘した。
ポルトガル
ポルトガルに運転中の原子炉はないが、医療、産業、研究利用から放射性廃棄物が発生している。2016年に運転を停止した研究炉「RPI炉」の燃料はすべて、米国とポルトガルの二国間協定に基づき処分のため米国に移送されており、ポルトガルは核燃料も使用済燃料も保有していない。RPI炉は現在、廃止措置に向けた移行段階にある。
IAEAのARTEMISレビュー・ミッションは、ポルトガルは、放射性廃棄物の安全かつ効果的な管理の確保にコミットしていると結論した。また、同国の国家放射性廃棄物管理プログラムの策定の必要性を指摘し、同プログラムの実施に向けて十分なリソースを割くよう、勧告した。
ルーマニア
チェルナボーダ1号機(CANDU 6)の改修プロジェクトは現在、第2フェーズにある。このフェーズには、①プロジェクト実施のための財源の確保、②フェーズIで特定された活動の開始準備が含まれる。11月、ルーマニアの国営原子力発電会社であるニュークリアエレクトリカ(SNN)は、原子炉ツール、原子炉コンポーネント、エンジニアリング/技術サービスの供給について、加CANDUエナジー社およびカナダ商業公団(Canadian Commercial Corporation)と契約を締結した。
SNNは、原子力安全の観点から、プロジェクトの改善を組み込んだ構造の再評価について、CANDUエナジー社とエンジニアリング・サービス契約を締結した。これらのサービスは、チェルナボーダ3、4号機(CANDU 6)にも提供される。
ドイチェシュティ(Doicesti)のSMR プロジェクトは、FEED(概念設計、FSの後に行われる基本設計) 1 調査から FEED 2 調査への移行段階にある。FEED 調査のフェーズ 2 には、①詳細なサイト特性評価活動、②許可活動、③ライセンスおよび規制活動、④詳細なプロジェクトのスケジュールの作成、⑤プロジェクト実行の予算計画、⑥長納期製造材料の調達の準備――がある。
フェルディオアラのウラン製錬施設の生産プロセスを認可し、操業に向けた準備を整え、同施設を効果的に操業すべく、必要なすべての手順がふまれた(注:原文では、uranium enrichment facilityとなっているが、ウラン製錬施設と判断した)。フェルディオアラ・サイトは現在、SNNの子会社として運営されている。
SNNは6月、初のトリチウム除去施設の完成に向けて、韓KHNPとEPC契約を締結した。この施設は、チェルナボーダ原子力発電所の放射線安全を高め、同発電所で発生する放射性廃棄物の量をさらに削減する。
IAEAは11月、IRRSミッションを実施し、ルーマニアが原子力および放射線安全に対する規制枠組みの維持、強化に取り組んでいることを確認した。ルーマニア当局は、SMRの将来的な開発に向けた準備について賞賛された一方、放射線源施設および活動に関与する政府機関間の連携を改善するよう勧告された。
スロバキア
モホフチェ3号機は2023年、送電開始した。現在、モホフチェおよびボフニチェ原子力発電所では、5基が運転中(すべてVVER-440)である(注:原文では、モホフチェで5基が運転中となっている)。モホフチェ4号機(VVER-440)が現在完成段階にあり、2025年の起動を予定している。
ESAの多様化政策に沿って、スロバキア電力はVVER-440向けの燃料供給について、5月に仏フラマトム社と覚書を、8月には米WE社と契約を締結した。新規原子力発電所プロジェクト(最大120万kW)の準備の一環として、国営のバックエンド企業であるヤビス社とCEZの合弁企業であるJESS社が、ボフニチェにおける新規建設に係る立地許可申請を提出した。
ボフニチェ1号機(VVER-440)の廃止措置作業の一環として、重要な解体プロジェクト「原子炉冷却系大型機器の解体」が2023年も順調に進捗し、解体物の除染や施設の除染が行われた。合計3,492トンの処理済みの汚染物質を放出でき、これは処理済みの金属物質の98.9%に相当する。
2023年、スロバキアは、SMR導入の可能性を探る米国のイニシアチブであるプロジェクト・フェニックスに選ばれた。スロバキアは、SMR建設の候補地として5か所を選定した。
IAEAのARTEMISレビュー・ミッションが2月に実施され、同国が放射性廃棄物および使用済燃料の安全な管理に取り組んでいることを確認する一方、地層処分場の準備を進めるよう指摘した。
スロベニア
政府は2023年、石炭火力発電を2033年までに段階的に廃止し、クロアチアと折半で所有する既存のクルスク原子力発電所の利用を継続する戦略を採択した。
1月には、クルスコ原子力発電所の運転期間を40年から60年に延長する環境許可が承認された。これにより、クルスコ原子力発電所の運転期間延長ならびに2043年までの運転期間が承認され、有効となった。
クルスコ原子力発電所(クルスコ2号機)の将来的な建設計画は、スロベニアの国家エネルギー・気候計画を策定中の2019年に着手した。最近になって、この計画は、新たなクルスコ2号機の一部として、1基または複数基を建設する(最大240万kWe)という計画プロセスの開始決定に向けて、収束しつつある。環境・気候・エネルギー省は11月、スロベニアにおける原子力の長期的利用のための包括的枠組みを提供する長期エネルギー供給案を提示した。この提案には、クルスコ2号機の建設計画も盛り込まれている。
スペイン
スペイン内閣は12月、第7次総合放射性廃棄物計画(GRWP)を承認した。計画には、
①放射性廃棄物管理戦略、②使用済燃料および放射性廃棄物の安全な管理を確保に向けて取り組むべき活動、③原子力施設の廃止措置に向けて取り組むべき活動、④これら活動に関連した経済・財務分析――などが盛り込まれている。
第7次GRWPは、理事会指令2011/70/Euratomに適合したもので、スペインにおける使用済燃料および放射性廃棄物の管理に関する将来の主なマイルストーンと、スペインが今後数年間に実施する必要のある活動を定めている。これは、①国家統合エネルギー・気候計画で計画されている電源構成の進展、および②2019年3月にエンレサ(放射性廃棄物管理公社)と原子力発電所の所有者との間で署名された、原子力発電所の秩序ある停止(2027-2035年)に関する議定書――の双方と一致するものである。
第7次GRWPの承認に向けたプロセスは2020年から始まり、多くの時間を要した。このプロセスの一環として、GRWPは初めて、パブリック・コンサルテーションなど、戦略的環境アセスメントや原子力安全委員会および自治体からの報告書の対象となった。
エンレサは7月、2012年12月に運転を停止したサンタ・マリアデガローニャ原子力発電所(BWR, 46.6万kW)の認可所有者となった。
ガローニャの廃止措置戦略は、2段階で構成されている。
フェーズ1: ①プールからの使用済燃料の取り出しおよびオンサイトの一次貯蔵施設での安全な貯蔵、 ②タービン建屋の改造、③初期の放射性特性調査と分類、④システムの除染、⑤周辺設備の解体
フェーズ2: 施設、システム、建屋の解体
スウェーデン
スウェーデン政府は2023年、2035年までに少なくとも2基の大型原子炉、2045年までに10基の大型原子炉に相当する原子力発電設備の導入を目標に、新たな原子力導入に必要な条件を盛り込んだロードマップを採択した。政府はまた、投資に好ましい条件を整備するため、①より効率的な許認可手続きの導入方法、②新たな資金調達とリスク分担モデル、③電力市場の未来図――の調査を実施した。今後、信用保証(Credit guarantees)も導入される。また、国内の原子炉数の制限や原子力発電所を既存サイトのみに制限する規制を撤廃する法律も改正された。
2023年、スウェーデンはまた、6基の原子炉を最大80年まで運転期間を延長する実行可能性調査を実施した。
スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)は2023年、フォルスマルクにある既存の低・中レベル放射性廃棄物処分場の処分容量を現在の約3倍に拡張するよう、スウェーデン放射線安全局(SSM)に申請した。
スウェーデンでは2023年、大型炉、SMR、第4世代炉など、新規原子力導入の検討に向けた、いくつかのイニシアチブや協力が始動した。
IAEA・ARTEMISミッションが4月に実施され、スウェーデンは、原子力発電所から出る放射性廃棄物および使用済燃料の安全な管理について、包括的かつロバストで、機能性の高いシステムを有していると結論した。ARTEMIS チームは、産業、研究、医療用途など、他の発生源からの放射性廃棄物に関するスウェーデンの政策と戦略を改善する方法についてアドバイスを行った。
(2024年9月)■
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