国際放射線照射協会(IIA)ポール・ウィン会長インタビュー ーIAEAニュースからー

2022年9月14日

現在、ウクライナのザポリージャ原子力発電所における原子力安全とセキュリティ確保に向けた支援活動に注目が集まるIAEA(国際原子力機関)ですが、IAEAの活動は発電分野に限ったことではありません。いや、むしろ、開発途上国を含む世界の多くの国々にとって、生活や医療水準の向上のための原子力技術である放射線利用の方がメジャーかもしれません。

IAEAは去る8月22~26日、オーストリア・ウィーンのIAEA本部で「第2回放射線科学技術応用国際会議(Second International Conference on Applications of Radiation Science and Technology (ICARST))」を開催し、世界90か国・約800名が参加して、産業や医学、農業など多様な分野における多くの放射線利用について議論しました。

放射線は、目に見えないながらも、100年以上にわたり、各種産業や食品の安全性等において重要な役割を果たしてきました。例えば、医療機器の滅菌、生鮮食品の消毒、工業用ポリマー(合成樹脂)の強化、品種改良、がん治療等々、今や放射線照射技術は現代社会にとって必要不可欠なものとなっています。

IAEAは、様々な分野における放射線利用の普及のために、必要な知識や専門性、技術、訓練の提供を通じて、各国を支援。アイデアを具体的な成果に変え、持続可能な未来に貢献するために、産官学間のパートナーシップを推進しています。

そこで、最近のIAEAニュースから、上記国際会議開催と併せて行われた国際放射線照射協会(IIA)のポール・ウィン会長のインタビューをご紹介します。IIAは、世界中の企業、研究機関、大学、政府機関で構成される非営利団体で、世界の放射線照射利用を支援しています。


(IAEAニュース)2022.08.25
より良い世界のための産業放射線照射
インタビュー 国際放射線照射協会(IIA)会長・事務局長 ポール・ウィン

Industrial Irradiation for a Better World | IAEA

「照射市場の需要が高まるにつれ、これまでのガンマ線照射から将来的には加速器による照射に需要が移行する可能性が高い」国際放射線照射協会(IIA)会長・事務局長のポール・ウィン氏

Q:工業分野において、加速器(電子や陽子などの粒子を光の速度近くまで加速して高いエネルギーの状態を作り出す装置)による放射線照射が大きな影響を与えた用途は何ですか?そしてまた、加速器による放射線照射は今後どうなっていくと思いますか?

A:加速器は、ポリマーの特性を改善するために約60年間、産業規模で使用されてきました。主な用途の1つは、高温に対する耐性を高めるためのケーブル絶縁体の処理であり、火災安全と機器の耐久性に貢献しています。電子ビームによって誘発される化学修飾(化学反応によって分子に他の分子を結合させたり変化させたりして、その性質を変えること)に基づく他の多くの用途、例えば床材用の木材プラスチック複合材の作製や自動車産業で使用される発泡体(多孔質体の一つ。多孔質体とは細かい孔が多数空いている材料で、代表的なものとしてスポンジなどがある)の製造などがあります。これらの用途の多くは独自のもので、製造現場で利用されています。高出力の加速器の導入により、処理可能な製品の範囲が広がり、加速器技術は、放射性同位元素のコバルト-60から放出されるガンマ線照射に対抗できるようになりました。処理できる製品の範囲の拡大には、医療機器や包装の滅菌、医薬品および化粧品成分、および食品の微生物制御が含まれます。今日までガンマ線照射は、これらの用途で主流であり続けています。

Q:これまでの放射線源を用いた照射から、加速器による照射利用がこれからの主流となるでしょうか?

A:このための原動力、それは主に医療機器の滅菌に関するものです。医療機器の需要が高まっており、それに伴い医療機器の滅菌の需要が急速に高まっているからです。照射は、滅菌を必要とする機器の世界全体の半分弱で採用されており、このうちの80%以上をガンマ線滅菌が占めています。様々な状況、その一部は一時的なものかもしれませんが、最近、コバルト-60の供給が需要増に追いつかなくなってきました。医療機器メーカーは通常、一つの方法にこだわることはなく、単に製品を適切に滅菌したいだけです。コバルト-60線源からのガンマ線滅菌には、シンプルさと信頼性という2つの大きな長所があります。加速器は、それを動かすには電力だけが必要であるという事実と、電離放射線(X線、ガンマ線などのエネルギーの高い電磁波と、ベータ線、アルファ線、中性子線などの粒子線を総称して放射線という。放射線は物質を透過するときに物質を電離させる作用があるので電離放射線とも呼ばれる)の放出を止める可能性という利点もあります。将来これらの技術のどれが支配的になるかは市場の力が決定しますが、現時点では、滅菌需要を満たすためにすべて必要であるので、すべて利用可能であり続けることが重要です。なお、処理能力の面では、電子加速器で処理できるものはすべてガンマ線で処理できますが、その逆は当てはまりません。しかし、いくつかの加速器は、電子ビームをガンマ線に似た特性を有するX線に変換する金属ターゲットを取り付けることができます。

Q:加速器による産業利用への需要は、特に開発途上国で増加しています。開発途上国で加速器技術が利用できるようにするためには、どのような課題を克服する必要がありますか?

A: 照射市場の需要が高まるにつれ、これまでのガンマ線照射から将来的には加速器による照射に需要が移行すると思います。加速器のサプライヤーの数はコバルト-60のサプライヤーの数を上回っていますが、高エネルギーで高出力の装置では数十社程度にとどまっており、X線能力を持つ加速器ではもっと少なくなっています。X線システムの開発は依然として限られていますが、低いベースから急速に成長しています。加速器は、多くの開発途上国でまだあまり採用されていません。必要な投資額の高さ、ガンマ線照射器と比較した装置の複雑さ、豊富で安定した電力供給が利用できないことが主な理由です。人的資源、財政的制約、そして安全要件を満たすことは、おそらくインフラや市場規模の問題よりも簡単に克服できる問題です。現時点では、加速器ベースの技術はすべての開発途上国に適しているようには見えません。

Q:IIAとIAEAは、国際会議や若手研究者のためのワークショップなど、異なるイニシアチブで協力しています。これは加速器技術の利用増加にどのような利益をもたらしますか?

A:協会の目的は、IAEAの目的のいくつかと一致しています。IIAは、放射線技術の安全で有益な利用を促進するうえで、技術的に公平な立場にあります。IAEAのカウンターパートは政府とその機関ですが、IIAは主に産業放射線照射市場を代表しています。IIAはIAEAとの協力関係を深め、さまざまな取組を行っています。

Q:加速器による産業照射の開発で、最も期待しているものは何ですか?それはゲームチェンジャーになるのでしょうか?

A:低エネルギー電子と低エネルギーX線のインライン照射(生産ライン内で照射を行うこと)は、非常に有望な新しいアプローチです。小型化された加速器やエミッタ(電子放出物質)ランプを使用して、このイノベーションは多くの分野の製造業者に照射を身近なものにする可能性があります。材料への低エネルギー線の透過は応用に限界がありますが、エミッタはコンパクトで製造ラインに組み込むことができるという利点があります。初期の用途には、製薬業界で充填する前のシリンジ(注射器)の滅菌、牛乳または清涼飲料用の無菌包装ラインでの高速での材料の滅菌などがあります。一例を挙げると、スイスのある会社が、大きなキャビネットほどの大きさの食品成分を除染する機械を開発しました。このようなシステムは、IAEAが提唱する不妊虫放飼法を用いた害虫駆除や放射線生物学の研究にも用いられています。特に小型の低エネルギーX線システムを使った応用分野への拡大にはさらなる努力が必要ですが、これがゲームチェンジャーになることは間違いありません。

以上

※日本語仮訳はIAEAの許可を得て当協会が作成していますが、当該日本語訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照していただくようお願いします。

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