EU持続可能投資タクソノミー: 欧州委員会による原子力に関する補完委任法令案の承認

2022年2月4日

2022年2月2日、欧州委員会(EC)は、原子力と天然ガス関係の活動を含めたEUタクソノミー規則の補完委任法令(Complementary Delegated Act:CDA)の最終案を承認しました。これにより原子力発電は「持続的な」活動としてEUタクソノミーに適合すると認められることになります。

産業界は原子力発電がEUの持続可能目標に合致することが示されたことを歓迎する一方、天然ガスとともに移行段階の技術として扱われていることには批判の声も上がっています。

1.CDA採択の経緯

EU持続可能投資タクソノミーは、2050年迄のカーボンニュートラル達成に向けた民間資金誘導のため、環境的に持続可能な経済活動を分類する枠組みです。2020年6月、EUは持続可能な活動への投資基準となるタクソノミー規則(EUタクソノミー)を法制化し、2021年6月、気候変動緩和と適応の分野で持続可能であるとみなされるための技術的なスクリーニング基準を規定する委任法令(Delegated Act:DA)が採択されました。

EUタクソノミーの検討においては、原子力発電は低炭素技術であり気候変動の緩和に貢献していると認識されてはいるものの、放射性廃棄物などの問題のために「Do No Significant Harm:重大な危害を及ぼさない(DNSH)」の観点から更なる調査が必要であるとし、この最初のDAには原子力発電は含まれていませんでした。

欧州委員会(EC)は、原子力のDNSHに関する更なる評価のためのプロセスを立ち上げ、まずEU共同研究センター(JRC)が調査・分析を行いました。JRCは2021年3月に報告書を公表し、「原子力は住民の健康や環境に多大な悪影響をもたらさない」と評価しました。この報告書は2つの科学的専門家組織により再評価され、2021年7月、DNSHの側面からJRCの結論をほぼ裏付ける報告書を出しました。

2021年12月31日、ECはCDAのドラフトを、「持続可能投資に関する加盟国の専門家グループ(MSEG)」およびECの諮問機関である「持続可能投資プラットフォーム(プラットフォーム)」に提示し、1月21日まで両機関の見解を求めました。

プラットフォームは、1月21日付で見解を公表し、同案に示された技術スクリーニング基準(TSC)はタクソノミー規則に整合的でなく、また、2022年1月1日に施行されたDAの基準とも基本的な側面で相違があるとして、否定的な見方を示しました。原子力発電については、タクソノミー規則が規定する環境目的に「著しく有害な影響を及ぼさない(DNSH)」原則が保証されているとは言えないと結論付け、気候変動の緩和への実質的な貢献が認められるとしても、循環型経済への移行や、汚染の予防と管理といったタクソノミー規則の他の目的に照らした場合、同原則を満たしているとは言えないと評価しました。

しかしながら、ECは、2月2日付で公表されたCDAの最終案で、プラットフォームとMSEGの数か国の批判には留意するものの、根拠のない思い込みに基づいており、タクソノミー規則の目的(気候変動緩和目標に実質的に貢献し他の環境目標に害を及ぼさない技術はDAに含まれる)に反しているとして、プラットフォームとMSEGの数か国の批判を却下しました。その上で、タクソノミーは、天然ガスや原子力分野のような持続可能なエネルギーシステムへの移行を可能にする経済活動も、厳格な条件の下で一定の期間含めると結論付けました。

CDA最終案はEU加盟国すべての使用言語に翻訳され次第、ECで正式に採択される予定です。その後、欧州議会と欧州理事会が4か月(6か月まで延長可能)にわたって精査し、精査期間中に異議を唱えなければ、CDAは2023年1月1日付で発効し適用が開始されます。

2.CDA最終案の原子力に関する主な記載内容

  • 継続的に信頼できる方法で十分な規模のエネルギー需要を満たす技術的および経済的に実現可能な代替手段がないため、原子力関連の経済活動は、タクソノミー規則 (EU) 2020/852の第10条2項の下に位置づけられる。(第10条2項は気候中立経済への移行を支え気候変動緩和に貢献する経済活動を規定)
  • 新規原子力発電所の建設と安全運転(水素製造を含む発電および熱生産)については、「利用可能な最良の技術」を用い、2045年までに建設許可を受けた施設が対象。
  • 既存の原子力施設については、2040年までに運転延長の承認を受けた施設の改良が対象。
  • 極低・低・中レベル放射性廃棄物の操業可能な最終処分場があること。
  • 2050年までに高レベル放射性廃棄物の最終処分場を操業する詳細な計画があること。(既存施設の運転延長のための改良については、2025年以降に認可されたプロジェクトに適用)
  • 2025年から事故耐性燃料(ATF)を使用する。
  • ライフサイクル温室効果ガス排出量は100 g CO2 e/kWhの閾値未満。
  • 第4世代炉はまだ商業化されていないが、脱炭素化の目標と放射性廃棄物の最小化への貢献可能性を考慮し、TSCを定める必要がある。

3.CDA最終案に対する産業界の反応

世界の原子力産業界は原子力発電がEUの持続可能目標に合致することが示されたことを歓迎する一方、天然ガスとともに移行段階の技術として扱われていることに批判の声も上げています。

■FORATOM(欧州原子力産業協会)(2022年2月2日)

FORATOM welcomes adoption of complementary delegated act by Commissioners – FORATOM

  • 原子力が移行期間の技術として扱われていることを残念に思う。
  • 極低・低・中レベル放射性廃棄物の操業可能な最終処分場を持たなくてはいけない、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の操業計画を持たなくてはいけない、2025年に事故耐性燃料(ATF)を使用しなくてはいけない、という厳しい条件は非常に達成困難である。
  • 既存炉は寿命延長のみが対象となっており、通常の運転保守は含まれていない。

FORATOMがCDA原案に対して出した詳細な懸念点および改善案(2022年1月10日)の概要はこちら。

■WNA(世界原子力協会)(2022年2月2日)

Press – World Nuclear Association (world-nuclear.org)

  • CDAは科学的に正当でない不合理な技術スクリーニング基準を設置している。
  • 原子力はタクソノミーに含まれたが、既存炉は2040年、新設炉は2045年という期限が設定されており、移行段階の技術として扱われている。
  • 全ての既存炉および新設炉に対し、2025年までの事故耐性燃料の使用および操業可能な廃棄物処分施設という恣意的な要件を定めている。
  • 使用済燃料や放射性廃棄物の長期管理などを含む既存のEUの規制は、原子力施設の安全で環境的に持続可能な運転を保証するのに十分過ぎるほどである。
■NEI(米原子力エネルギー協会)(2022年2月1日)

EU Taxonomy Makes Room for Nuclear While Imposing Hurdles for Investments (nei.org)

  • タクソノミー案は、風力、原子力、太陽光、水力といった全てのカーボンフリーの電源が、経済の脱炭素化に共に貢献できる公平な機会を作っていない。
  • 既存の原子力発電と新規原子力プロジェクトの開発に不必要な障壁を取り除くため、同案は大幅な変更が必要である。

【参考】

お問い合わせ先:企画部 TEL:03-6256-9316(直通)