米国の原子力産業の現状――米国原子力エネルギー協会(NEI)
原子力エネルギー大会での基調講演の概要紹介

M. コースニック理事長 ©NEI

米国の原子力産業界が、再び活況を取り戻すべく動き始めています。気候目標やエネルギー・セキュリティなどを背景に、政府による政策支援や産業界からの原子力に対する要請が高まるなか、 米国原子力エネルギー協会(NEI)は5月15日、会員企業やその他の原子力関係者らを招いて「原子力エネルギー大会(Nuclear Energy Assembly)」を開催し、M. コースニック理事長は、米国の原子力産業の現状に関する講演を行いました。今年の大会には、バイデン政権を代表してデービット・ターク(David M. Turk)米エネルギー省(DOE)副長官や下院エネルギー・商業委員会委員長のキャシー・マクモリス・ロジャーズ(Cathy McMorris Rodgers)下院議員、先進原子力開発の最前線にあるテネシー州のビル・リー知事などが参加、海外からは、英のグラント・シャップス(Grant Shapps)エネルギー安全保障・ネットゼロ省大臣、トマーシュ・エーラー(Tomáš Ehler)チェコ産業貿易省副大臣らも参加しました。

コースニック理事長は、現在の連邦政府による原子力への支援は前例のないものであり、その広がりは連邦政府にとどまらず、州政府にまで及んでいる現状について具体例を挙げて紹介しました。また経済全体の脱炭素化には原子力が有効とする見方が電力会社だけでなく、化学や鉄鋼、金融業界にまでその支援が広がっていることに言及。同理事長は、現在の原子力に対する需要(Demand)について、「原子力の黎明期以来、最大の盛り上がりを見せている」としながらも、この需要に応えるためには、コスト、サプライチェーンの強化、人材開発、規制改革などの課題に果敢に対処していく必要があると述べています。

同理事長の講演概要は以下のとおり。


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昨年、米国は歴史的な気候とエネルギーの法律を制定した。これらの法律は、既存の原子力発電(カーボンフリー発電のほぼ半分を供給)を維持し、将来の展開を加速するものだ。ワシントンで見られる支援は前例のないものである。これまで化石燃料に依存してきた州は、原子力がエネルギー需要を満たし、経済を活性化できることを認識しつつある。そのため、今年は200件以上の原子力関連法案が検討されている。

バージニア州では、新しいエネルギー資金調達計画が原子力の労働力を強化し、将来のプロジェクトのための競争力のあるサイト選択を促進する。またノースダコタやサウスダコタのような原子力のない州は、先進原子力を研究する法案を可決した。アラスカ州では、国防総省(DOD)が、国家安全保障のミッションのレジリエンスと信頼性のニーズを満たすために、マイクロ原子炉を配備することを計画中である。テネシー州では、テネシー川流域開発公社(TVA)がGE日立のSMR設計であるBWRX-300を追求するための2億ドルのプログラムを発表した。ペンシルベニアとイリノイ両州の大学は、自身の電力使用を脱炭素化するためマイクロ原子炉技術を模索している。

ジョージア州では、ボーグル3号機が初めて電力を生産し、先月送電開始した。建設のピーク時には9,000人以上の労働者が現場にいて、2基ともオンラインになると800人以上の常用雇用を創出する。新しい2基がオンラインになると、ボーグル発電所の4基の原子炉は、ジョージア州の100万の家庭や企業に電力を供給するのに十分なカーボンフリー電力を生産することになる。

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政策シグナル、需要、マイルストーンのすべてを考えると、資本が原子力に集まっているのは当然のことである。ペリカン・エナジー・パートナーズ(Pelican Energy Partners)は、化石燃料ポートフォリオから転換し、原子力産業に特化した新しいファンド戦略を発表した。モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)は、2023年にフォローすべきESGトレンドとして原子力を挙げた。ブラックロック(Blackrock)は、原子力をテーマにした投資証券を検討している。我々は、全体として民間投資家が昨年、先進的な原子力企業に50億ドル以上をつぎ込んだと推定している。

この資本は、原子力技術が経済全体の脱炭素化にコミットしていることから、部分的にシフトしつつある。 例えば、データセンターは、インターネットの隠れた屋台骨である電力集約型のサーバーを動かすために原子力を検討している。X-エナジー(X-Energy)は、メキシコ湾岸に製造と材料科学施設に電力を供給するために、ダウ・ケミカルと提携している。米国で最も古く最大の鉄鋼メーカーであるニューコア(Nucor)は、先進原子力を建設するためのニュースケールの取組に数百万ドルを投資している。またコンステレーション(Constellation)のナインマイルポイント(原子力発電所)は、国内初の原子力水素製造施設となる。また、シェル(Shell)とニュースケールは、水素製造コンセプトを開発するために提携している。

投資の観点から、初号機(FOAK)のプロジェクトは恐ろしいものになる可能性があると認識している。しかし、1つや2つのプロジェクトだけについて話しているのではなく、原子力は長期的に見ると、最善策の1つである。昨年の例として、TVAは20以上のSMRを使用できると述べ、またデューク(Duke)の統合資源計画(IRP)も同様の数の必要性を示した。先月、パシフィコープ(PacifiCorp)は、ワイオミング州での最初の配備に続いて、さらに2基のナトリウム原子炉を反映するようIRPを更新した。そしてちょうど今月、ドミニオン(Dominion)はバージニア州でIRPを提出し、6〜18基のSMRの役割を示した。

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NEIは最近、加盟電力会社の最高原子力責任者(CNO)を対象に調査を実施した。彼らは、合計して1億kW以上の原子力発電をグリッドに追加することを期待しており、その大部分は2050年までにオンラインになる。その需要は、今後数年間で数百基の新しい原子炉を生み出し、米国の原子力出力を2倍にする。その炭素排出量の削減は、1億台の車が道路から消えることに相当する。

エネルギー省の最近の商業リフトオフへの道の報告書(Pathways to Commercial Liftoff Report)によると、米国の原子力容量は2050年までに3倍の約3億kWになる可能性があり、そのすべてが先進原子力技術によって推進される。

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カナダは最近、米国の原子力推進インセンティブと同様の税額控除を確立した。ポーランドは、AP1000の技術サプライヤーとしてウェスチングハウスを選択した。ポーランドではまた、KGHMがニュースケールの技術の展開に取り組んでおり、オーレン・シントス・グリーン・エナジー(Orlen Synthos Green Energy)はGE日立のSMR設計の展開に取り組んでいる。ケニアやガーナのようなアフリカの国々が加わり、新しい原子力を検討している。スウェーデン、フィンランド、英国など、既存の原子炉群を持っている国々では、世論に大きな変化が見られ、日本でも既存の原子炉を延長し、リプレースするよう方針を転換した。

私は、米国、英国、カナダ、日本、フランスが燃料サプライチェーンと原子力の強化のために協力することで合意したG7のイベントに出席したばかりである。世界の同盟国は、原子力をエネルギーシステムの中心にすることで、電力網を脱炭素化し、エネルギーの自立を強化できることを知っている。

この世界的な需要が続くかどうかは、疑問の余地はない。今の唯一の問題は、我々がそれを満たすのにどれくらいの時間がかかるかということだ。

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需要を新たな原子力配備に転換するためには、サプライチェーンの強化と先進原子炉群を建設、運転、維持できる労働力を開発する必要がある。サプライチェーンにはシグナルが必要である。彼らに自信を示す確実な方法は、原子力へのコミットメントを新しいプロジェクトの注文(オーダー)に変えることだ。そして、不可欠なのは、先発者に次ぐ、ファスト・フォロワー(fast followers)、即ち、次の10、50、100の注文である。私たちの調査では、多くの電力会社がファスト・フォロワーになることに関心を持っていることが分かった。早期サイト許可や建設許可申請書の提出を開始する必要がある。

しかし、これらの申請が審査して承認されるまでに今日時間がかかりすぎる。脱炭素化と気候目標の達成に真剣に取り組むのであれば、原子力規制委員会(NRC)はその審査プロセスの近代化に真剣に取り組む必要がある。効率の欠如は、過剰なコスト、予測可能性の欠如につながり、展開を妨げ、需要を満たすために必要なコミットメントと民間投資の妨げになる。

NRCは現在、既存の原子炉の運転認可を更新するだけで、18か月から22か月を予想している。早期サイト許可(early site permit)を取得するには、NRCの審査に最大40,000時間かかる。NRCがニュースケールの設計認証を最終承認したことは歓迎するが、NRCのプロセスに6年間もかかった。

DOEは、2030年代初頭に年間1,300万kWのペースで先進的な原子力配備の立ち上げを開始する必要があると予測している。これは、NRCが今後数年間で大規模なサイト許可、建設許可、そして運転認可を審査し始めることを意味する。既に、13のSMRおよびマイクロ原子炉の開発者による15の設計があり、NRCに申請中、またはNRCと申請前のエンゲージメント(関与)に取り組んでいる。今こそ、規制当局の承認によって進行が過度に遅れないように、プロセスを最新化する時だ。

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原子力産業の最も重要な部分は人材である。DOEの最近の商業リフトオフ報告書は、米国で原子力の必要な拡大を建設し維持するには、約375,000人の労働力を育成する必要があると推定している。我々の業界は現在、約10万人を直接雇用している。2050年までには3倍以上の人材が必要になる計算だ。それらは、エンジニア、運転員、電気技師、溶接工、配管工である。我々は、この労働力の次世代を教育するために今から始める必要がある。今後、原子炉群を建設・維持する人々の経験と専門知識を拡大するための実習プログラム(apprenticeship program)が必要である。今後10年間で、原子力発電所の建設と運転は、全国で数百万とは言わないまでも数十万人の高給の雇用を支えることになろう。

原子力はまた、放棄された工業サイトを貴重な資産に変えることによってコミュニティを活性化することができる。ケイロス・パワー(Kairos Power)のKPサウスウェストキャンパスの本拠地であるニューメキシコ州アルバカーキでは、ケイロス・パワーが、先進的な原子力開発のために、かつての太陽光発電所の敷地を改造、試験と製造のインフラストラクチャを構築し、その過程で100人近くの新しい高給で高度なスキルを持つ雇用を創出した。 

NEIは来月、戦略的労働力開発計画(Strategic Workforce Development Plan)を発表する。これは、将来のクリーンエネルギー労働者のための長期計画である。

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初号機を建設するには勇気が必要である。最近の例として、オンタリオ州営電力(Ontario Power Generation)、テネシー川流域開発公社(TVA)、シントス・グリーン・エナジー(Synthos Green Energy)は、GE日立のSMR設計への共同投資を発表した。彼らのパートナーシップにより、設計の許認可を取得し、カナダ、米国、ポーランド、およびそれ以外にも展開することができる。

また、初号機と後続機設計のコストとタイムラインをより予測可能にすることで、リスクを管理することもできる。DOEのCommercial Liftoffレポートでは、政府や民間の保険会社が提供するコスト超過保険など、創造的な解決策が示されている。政府は、段階的な補助金を提供することができ、展開が進むごとにその額は減少する。政府はまた、国内最大の電力顧客であり、新規建設による発電の一部、または全部についてオフテイク契約を結ぶことにより、電力会社にその飛躍のために一種の安心感を与えることができる。

また、米国電力研究所(EPRI)とNEIが、広範な先進炉ロードマップ(Advanced Reactor Roadmap)の第一段階をまもなく発表することをお知らせできることを嬉しく思う。これは、新技術の導入を可能にするいくつかの重要な戦略と行動を追加するものである。

大規模な展開の課題は克服できる。しかし、それには創意工夫や行動が必要である。

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今、原子力の黎明期以来、最大の盛り上がりを見せている。どこを見ても、需要が急増しているが、リスク(Stakes)があることも分かっている。今、我々にできることは、ただ一つ。この需要に応えるために、我々は立ち上がるしかない。我々の未来のために、この瞬間が求める緊急性を持って前進しよう。■

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