ポーランドのエネルギー事情と原子力をめぐる動向

ポーランドは、エネルギー供給の87%(2021年)を化石燃料が占め、なかでも石炭が最大のシェアを占めています。また、ポーランドの天然ガス輸入に占めるロシア産の割合は、LNG基地への投資や他のEU諸国とのパイプライン接続により、2010年の90%から2020年には55%までに低下しましたが、ロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギーセキュリティーの確保と脱炭素化目標の達成のために、より安全でクリーンなエネルギーシステムへの移行を加速し続ける必要性が浮彫りになっています。

ロシアからの化石燃料の輸入依存から脱却し、エネルギーの安定供給とEUの温室効果ガス排出規制の目標を達成するため、原子力発電はポーランドのエネルギー戦略において重要な位置を占めています。2033年までに同国初の原子力発電所で初号機を運転し、2043年までに合計6基、出力600万~900万kWを導入する計画で、原子力発電で総発電量の23%を目指しています。当初の原子力発電所の建設計画は1970年代に遡りますが、1986年のチョルノービリ事故を契機に建設計画への反対運動が高まり、一時は頓挫しました。2000年代に入り、エネルギー安全保障の確保と石炭火力発電による環境負荷の低減のため、新たに安全性の高い原子力発電の導入にむけた準備が進められました。2020年頃からは、ポーランドの新しい原子力発電市場への参画を目指し、海外の政府機関やベンダー・開発企業による動きが活発化する中、ポーランド政府は2022年11月、初の大型原子力発電所の3基に米国ウェスチングハウス社のAP1000の採用と建設を決定しました。大型原子力発電所と並行して、エネルギー集約型の産業が中心のポーランドでは小型モジュール原子炉(SMR)の導入を目指した動きも活発です。原子力発電の導入による温室効果ガスの排出量削減とエネルギー安定供給への貢献、国内産業の発展や人材開発、雇用促進などの新しい機会の創出が期待されています。

エネルギー・電力事情とエネルギー政策

ポーランドは、再生可能エネルギーを拡大してきているが、石炭が電力・熱供給の主要なエネルギー源であり、温室効果ガスの最大の排出源である。

順調な経済成長とともにエネルギー需要は増加する一方で、温室効果ガス排出と大気汚染の要因となる石炭火力発電への依存低減が喫緊の課題となっている。

ポーランド政府は、2040年までのポーランドのエネルギー政策(PEP2040)を2021年2月に承認した。PEP2040は、2019年11月に欧州委員会に提出した国家エネルギー・気候計画(NECP)2021-2030と整合し、ダイナミックに加速するEUの気候・エネルギー動向に追随、エネルギー転換を図ることをエネルギー政策の根幹としている。

再生可能エネルギーの利用拡大や原子力発電の導入により、石炭火力発電を減らし、電化(特に交通機関)、エネルギー効率の改善を通じて、エネルギー供給における温室効果ガス排出量の削減を目指している。長期的なエネルギー安全保障と自国のエネルギー資源の最適利用により経済成長を促進、社会的に受け入れられるエネルギー価格を確保し、エネルギー貧困を深刻化させないための公正な移行に重点を置いている。

ポーランドの基本情報

2021年、石炭への依存度は2010年と比較し、一次エネルギー供給量シェアは55%から42%に、発電電力量シェアは87%から72.3%に減少。CO2排出量も年々減少傾向にあり、CO2排出源に占める石炭のシェアは70%から58%(2020年)に減少している。産業別でみると、石炭のCO2排出量は発電・熱供給部門で最も高く、46%を占めている。

◆PEP2040にみるエネルギー政策
(PEP2040:ポーランドの2040年までのエネルギー政策。2021年2月閣議決定)

ポーランドのエネルギー戦略は、EUの気候・エネルギー政策である、2050年までの「気候中立」(クライメイト・ニュートラル、温室効果ガスの実質排出ゼロ)政策の強い影響下にある。

PEP2040は、2015年12月に国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で締結されたパリ協定の実施に寄与し、低排出エネルギーへの転換を公正かつ堅実な方法で達成する必要性を考慮したものである。

PEP2040で想定されている低炭素排出エネルギーへの転換は、経済全体にわたる広範な近代化とエネルギー安全保障を保証し、コストの公平な配分を確保し、最も脆弱な社会集団を保護するものでなくてはならない。

2019年12月、欧州委員会は、気候変動対策である“欧州グリーン・ディール”(European Green Deal)を発表。産業競争力を強化しながら、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標としている。

2020年12月、欧州理事会は2030年までに温室効果ガスの排出レベルを1990年の水準から55%削減(Fit for 55)という拘束力のある目標を承認、それまで拘束力のあった40%削減目標が引き上げられた。

EU加盟国ごとに産業構造が異なり、エネルギー部門の脱炭素化が重要となる中、ポーランドのエネルギー供給、CO2排出源に石炭が占める割合は高く、「2050年まで」という目標達成には難題が多い。困難なエネルギーミックスを出発点とするため多大な投資と適切な時間を必要とする過渡的な努力が必要となる。実際、PEP2040ではEUの2030年までに温室効果ガスを1990年比で少なくとも55%削減するという目標を満たしておらず、ポーランドはEU加盟国の中で唯一、2050年までに気候中立(温室効果ガスの排出を実質ゼロ)を達成することを約束していない。

ポーランド政府は、2021年から2040年までにエネルギー移行に要する資金は、エネルギー部門で約8,676億ズロチ(約29兆4,980億円、1ズロチ 約34円)、非エネルギー部門(産業、一般家庭、サービス、運輸、農業)で約7,453億ズロチ(約25兆3,400億円)と見込んでいる。エネルギー部門では、電力部門(発電と送配電)への投資で約6割、発電設備向けでは約8割が再生可能エネルギーと原子力発電への投資となる。

ポーランドは、欧州委員会が設立した欧州グリーン・ディールの資金提供メカニズムとなる「欧州グリーン・ディール投資計画(持続可能な欧州投資計画)」の一部である「公正な移行メカニズム」基金から資金提供を受け、化石燃料の採掘や発電の関連産業に依存する地域への経済的な影響を緩和する。2030年までのエネルギー・気候変動対策には、様々な仕組みのもと、EUと国の基金から約2,600億ズロチ(約8兆8,400億円)、うち、公正な移行メカニズム基金から、約156億ズロチ(約5,300億円)が割り当てられ、再生可能エネルギーへの転換のサポートや、その影響を受ける業種の雇用転換の支援、エネルギー効率向上等の支援を実施する。

国家のエネルギー政策の目的

低炭素排出のエネルギー転換の3つの柱 (Three Pillars)

1.公正な移行(Just transition)の実現
経済的に石炭鉱業に依存する国内地域に対して、EUの「公正移行基金」から約600億ズロチ(2兆400億円、1ズロチ 約34円)の資金で、再生可能エネルギーや原子力エネルギー、エレクトロモビリティ、電力ネットワーク、デジタル化、建物の熱近代化など、将来性の高い産業への移行と、30万人の新規雇用を支援。エネルギー価格の上昇を防止。

2.ゼロエミッションのエネルギー(Zero-emission energy system)への移行
原子力発電や洋上風力エネルギーの実施、分散型発電等の拡張によってエネルギー部門の脱炭素化へ。ガス燃料などをベースにしたエネルギー技術の過渡的利用によるエネルギー安全保障を確保。

3.大気汚染の改善(Good air quality)
地域暖房部門、運輸部門における低炭素電源の利用促進、電化の推進により、大気汚染を改善。


なお、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、4つ目の柱として、「エネルギーの主権」が追加された(2022年3月閣議決定)。ロシアからの化石燃料からの国内経済の迅速な独立を目指し、再生可能エネルギーのさらなる開発、原子力発電の一貫した実施、エネルギー効率の改善を含む、国内リソースに基づく技術の多様化と生産能力の増強のほか、原油と天然ガスの供給元のさらなる多角化を目指すとしている。

3つの柱下での8つの方針と施策・指標

ロシアのウクライナ侵攻後のエネルギーセキュリティのより一層の強化のため、2023年4月、気候環境省はPEP2040と国家エネルギー・気候計画(NECP)2021-2030の更新にあたり、電力部門の新たなシナリオ案を発表。エネルギーセキュリティと経済安定性の観点から輸入依存の天然ガスのシェアを低減し、石炭の有効活用を含む自国のリソースを最大限活用、再生可能エネルギーと原子力(SMRを含む)が大きな役割を担うとしている。原子力発電所の運転開始前の2020年代は、石炭が再生可能エネルギーをバックアップする。
2023年6月、新たなシナリオ案へのパブリックコメントを募集。

ポーランドの原子力導入をめぐる動き

ポーランドの原子力発電導入をめぐる動きは1970年代に遡る。1980年代には、ポーランドのジャルノビエツ地区とワルタ地区で原子力発電所の建設作業が始まったが、1986年にはチェルノブイリ事故が発生、建設への反対運動の高まりや政情と経済の混乱から1990年に建設は中止となった。一方、政府は2000年以後に原子力発電導入の余地を政策に残しながら、2005年策定の2025年までのエネルギー政策の中で、エネルギー源の多角化と温室効果ガス削減のために原子力発電を導入することを承認している。2009年1月の原子力発電開発に関する閣議決定を契機に、新たに原子力発電の導入の準備が進められていく。2020年頃からは、ポーランドの新しい原子力発電市場への参画を目指し、海外の政府機関やベンダー・開発企業による動きが活発化していく。

現在の原子力発電導入の戦略の基盤となる重要文書は、

  • 原子力発電プログラム(PNPP)2020(2020年10月閣議決定)
  • 2040年までのエネルギー政策(PEP2040)(2021年2月閣議決定)

である。①原子力発電プログラム(PNPP)2020は、2014年1月に閣議決定されたPNPPの改訂版となる。概略は以下のとおり。

  • プログラムの実施対象:2020年~2043年
  • 600~900万kWの新設。2033年に第1原子力発電所の初号機の運転を開始。その後2~3年毎に5基を運転開始、2043年までに第2原子力発電所(3基)を含む全6基を運転。2045年頃の総発電量に占める原子力のシェアは約20%を予測
  • 実績のある技術のPWRの大型炉を採用。沸騰水型原子炉(BWR)と小型モジュール炉(SMR)を選択肢から除外。長期的には地域暖房や産業(プロセス熱)にSMRを使用する可能性もあるが、他国での運転経験から信頼性と効率性を確認
  • 技術提供者とリンクした共同投資家の選定
  • 国庫(State Treasury)によるPGE EJ1の全株式取得、共同投資家選定後は51%を所有
  • 有力な建設候補地(第1発電所)の2地点を選定
     - ルビアトボ-コパリノ地区
     - ジャルノビエツ地区

原子力発電プログラム タイムライン

なお、2022年11月、ポーランド政府は、初の大型原子力発電所(第1発電所)の3基に米国ウェスチングハウス社のAP1000の採用を決定した。ルビアトボ-コパリノ地区(Lubiatowo-Kopalino)に建設される。

原子力発電導入の意義

原子力発電の実施は、国家エネルギー政策目標の3つの要素に完全に合致している。原子力発電所は、信頼性かつ安定性のあるエネルギーであり、大気汚染物質の排出をゼロにする。同時に、電源構成を多様化し、ウラン燃料は世界の多くの国から調達可能で、燃料価格の予測がし易い。また、高い投資コストは、長期の低い運転コストで補われる。原子力発電の利用は、ポーランドにおいて以下の点で、多くの利点をもたらす:

  • 気候変動およびエネルギー政策のコミットメントの実施
  • 発電部門からのダストおよび温室効果ガス排出の削減
  • 一次エネルギー供給源の多様化
  • 老朽化した発電設備(特に石炭火力発電所)に代替
  • 信頼できる安定したエネルギー供給と、消費者のための低電力料金
  • 地域発展のための経済的後押し
  • 科学研究基盤の強化、国内産業の発展(再工業化)、部品や製品のサプライチェーン全体における新たな専門化と技術構築
  • 持続可能で高賃金の新規雇用の創出と維持(2040年までに約2.5~3.8万人の新規雇用を予測)

原子力発電所の立地候補地

ポーランド北方のポモージェ県にあるルビアトボ-コパリノ地区(Lubiatowo-Kopalino)と ジャルノビエツ地区(Żarnowiec)の2か所が初号機(第1発電所)の立地候補地。なお、2021年12月、ルビアトボ-コパリノ地区が初の原子力発電所サイトに選定された。この他、ポーランド中央にある候補地ポントヌフ(Pątnów)とベウハトゥフ(Belchatów)が候補地であり、石炭火力発電所が所在。ベウハトゥフには、欧州最大の石炭(褐炭)火力発電所がある(2020年、ポーランドの発電電力量の約20%を占める)。

原子力発電所の建設は、発電所とその周辺で雇用者数の増加、地方税の追加収入、通信およびインフラの開発など、周辺地域の経済的魅力と地域の生活条件の改善をもたらす。沿岸などの冷却水へのアクセス面だけでなく、国内各地にある送電網との接続条件や閉鎖予定の大型の発電所のサイトが好立地となる。パブリックアクセプタンスのレベルも考慮する必要がある。

  • 沿岸の場所 – ルビアトボ-コパリノ(Lubiatowo-Kopalino)とジャルノビエツ(Żarnowiec)。環境及び立地調査に関する作業は終了し、環境影響評価(EIA)報告書が2022年3月に環境保護総局(GDOŚ)に提出された。大きな電力需要があるが、利用可能な大規模な発電源は欠如。冷却水(海水)へのアクセスが確保され、及び大型貨物の海上輸送の可能性がある。
  • 大規模な従来型発電所が現在設置されている場所 – ベウハトゥフ(Bełchatów)やポントヌフ(コニン)(Pątnów(Konin))。ポーランドの中心部に位置し、既存の送電、輸送、その他のインフラが整備されている。稼働中の石炭発電所の廃止措置後にこれらの地域に発電所を建設することで、雇用を維持することができる。

◆大型原子力発電所の建設をめぐる動き

主に行政関係の動き(1970年代~)

海外の政府機関・企業の動き(2020年代~)

小型モジュール原子炉(SMR)の建設をめぐる動き

原子力発電プログラム(PNPP)2020と2040年までのエネルギー政策(PEP2040)において、長期的には小型モジュール原子炉(SMR)を設置、地域暖房やプロセス熱利用を想定し、海外での運転経験を踏まえ、信頼性と効率性を確認して後の導入可能性について言及している。エネルギー集約型の産業が中心のポーランドでは、大型炉とは別に、電力・熱エネルギーの需要を満たし、小型で設置面積や時間を要さず、建設コストの安価な脱炭素電源のSMR導入の要望が強く、各企業による海外のSMR開発企業との交渉や協力が活発に行われている。PEP2040の電力部門の新シナリオ案では、ポーランドの産業界関係者が20か所以上の候補地を検討し、2035年までに25基以上、2040年までに80基以上の原子炉が建設される可能性があると言及している。

ポーランド各企業による海外のSMR開発企業との動き

◆高温ガス炉をめぐる動き

石炭依存のエネルギー構造からの転換のため、大型軽水炉の建設計画とは別に、高温ガス炉を導入する計画がある。石炭火力プラントからのリプレース用として、電力だけでなく、化学産業などの産業用の熱供給源としても利用する。

ポーランドの国立原子力研究センター(NCBJ)が中心となり、日本原子力研究開発機構(JAEA)の支援を受けながら、高温ガス研究炉(HTGR-POLA)の開発を行い、概念設計を完成している。

原子力発電プログラム(PNPP)2020と2040年までのエネルギー政策(PEP2040)では、高温ガス炉について大型炉の代替にはならないものの、NCBJで研究プロジェクトが進捗中であり、2040年以降、主に産業用のプロセス熱源として利用可能性があるとしている。

高温ガス炉の開発経緯

◆原子力発電プログラムに係る主要組織

  1. 気候環境省(Ministry of Climate and Environment) 原子力局(Nuclear Energy Department)
    エネルギー担当大臣が原子力開発の実施戦略を概説し、調整することを支援。省全体の基本的な責任には、2040年までのポーランドのエネルギー政策の実施の設定と調整が含まれる。原子力局は、原子力発電プログラム(PNPP)を策定、原子力計画実施機関(NEPIO)として機能。原子力発電プログラムへのポーランド産業界の参加を支援。
  2. Polskie Elektrownie Jądrowe(PEJ)
    ポーランド国庫が所有する企業であり、政府の戦略的エネルギーインフラ全権(Plenipotentiary for Strategic Energy Infrastructure)によって監督。PEJは投資プロセスを準備し、ポーランドで最初の原子力発電所の建設プロジェクトへの投資家として機能。又、他の原子炉の建設も担当。建設、運転の許認可申請・取得。PNPPの実施においてポーランド政府の行政を支援し、原子力エネルギーの開発に対する国民の支持を構築。
  3. PAA(Państwowa Agencja Atomistyki=National Atomic Energy Agency:NAEA、国家原子力機関)
    産業、医学、科学研究における電離放射線の使用を監督する原子力規制当局として機能する中央の自律行政機関。PAA長官(NAEA長官)は、規制機能を遂行し、原子力発電所の安全・確実な運転を監督、管理。検査、安全性評価、許認可発給(建設、運転、廃止措置)、罰金や処罰を実施。
  4. ZUOP(Zaklad Unieszkodliwiania Odpadów Promieniotwórczych=Radioactive Waste Management Plant、放射性廃棄物管理プラント)
    原子力発電所や研究炉によって生成された放射性廃棄物を処理する放射性廃棄物管理の国家機関。原子力発電所からの使用済燃料を含む放射性廃棄物管理の費用のかなりの部分を原子力発電所の運転者(投資家)が負担。ロジャン(Różan)で国立放射性廃棄物処分場を操業。
  5. GDOŚ(Generalna Dyrekcja Ochrony Środowiska=General Directorate for Environmental Protection、環境保護総局)
    環境保護と投資プロセスの管理を担当。環境影響評価(EIA)報告書の審査、越境協議を実施。
  6. 政府戦略的エネルギーインフラ全権(Government Plenipotentiary for Strategic Energy Infrastructure)
    エネルギーインフラ部門の事業体に対して国庫の権限を行使。
  7. UDT(Urząd Dozoru Technicznego=Office of Technical Inspection、技術検査局)
    ポーランドの技術機器の安全な運転を目的とした活動を行うために指定された機関。UDT活動の主な範囲は、技術検査に関する法律の規定で定義されている技術検査。
  8. 国有資産省(Ministry of State Assets)
    エネルギー政策の実行に関与する国有企業を監督。

◆プロジェクトの資金調達

投資の現段階(即ち、準備・概念段階)では、特定の資金源はまだ定義されていない。しかし、PEJ社は、財務戦略を策定し、実施している。これまで準備作業は資本注入で賄われてきたが、プロジェクトの最終的な財務構造はエクイティ(equity、株式)とデット(debt、負債)の組み合わせになると予想されている。技術サプライヤー、建設請負業者、一部の行政機関、又は原子力発電所の運転者の関与の可能性を含め、外部投資家の直接資本関与の可能性もある。

一般的に、資金調達構造は、投資家が提供するエクイティと、米国輸出入銀行(EXIM Bank)のような輸出信用機関、多国間銀行、商業銀行などの事業体によって提供される負債融資に基づくと想定されている。エクイティファイナンスとデットファイナンスの具体的な比率はまだ決まっていない。

PEJ社とその所有者は、エクイティファイナンス、ローン保証、収益支援など、欧州連合(EU)市場で使用されている様々な形態の政府支援を検討している。これらの様々な形態の財政支援は、プロジェクトに関連する信用リスクを軽減し、民間資金の参加を促進することを目的としている。

但し、最終的な資金調達構造は、両方のタイプの資金調達の利用可能性、条件、及び政府によって提供され、欧州委員会(EC)によって承認された可能な支援メカニズムに基づいて決定される。

◆ポーランドの原子力関連の主要な研究開発機関

ポーランドの原子力に関連する研究機関のうち、以下の 1. ~4. は、気候環境大臣によって監督されている。

  1. 国立原子力研究センター(National Centre for Nuclear Research: NCBJ、シフィエルク)
    POLATOM原子力研究所(POLATOM Institute for Atomic Energy:IEA)とソルタン原子核研究所(Soltan Institute for Nuclear Studies:IPJ、1955年に設立された原子核研究所 Institute of Nuclear Researchが起源)が合併して2011年に設立。シフィエルク研究センター(Świerk Research Centre)に所在。30MWtの研究炉「MARIA」を備えており、原子炉物理学と原子力工学、原子力安全、放射線防護、産業、科学、環境保護における原子力技術の応用、固体物理学、及びコンピューティング技術を扱う。また、グローバルな放射性同位元素サプライチェーンの一部として、放射性同位元素の製造及び照射サービスも実施。
     *研究炉「MARIA」:3万kWt、1974年12月臨界、名称はマリー・キュリー夫人に由来。現在、ポーランドで稼働する唯一の原子炉。
      プール型研究炉で、広範囲の研究と医療用・産業用RI製造など多種多様な照射実験を実施。
  2. 原子力化学技術研究所(Institute of Nuclear Chemistry and Technology:ICHTJ、ワルシャワ)
    放射線化学・技術、材料・プロセス工学における原子力の応用、原子力技術に基づく機器の設計・製造、放射線分析技術、環境研究、放射性廃棄物を専門。基礎研究は、放射化学、同位体化学、分離プロセスの物理化学、細胞放射線生物学及び放射線化学が中心。
  3. 放射線防護中央研究所(Central Laboratory for Radiological Protection:CLOR、ワルシャワ)
    環境放射能の監視、個人線量測定、放射線源の使用の管理、生物に対する放射線の影響メカニズムに関する研究、環境中の放射性核種の挙動、線量測定法の開発、線量測定装置の較正・制御・標準化、放射線防護官の訓練の分野で作業を実施。
  4. プラズマ物理・レーザーマイクロ核融合研究所(Plasma Physics and Laser Microfusion Institute:IFPiLM、ワルシャワ)
    基本的なプラズマ物理学の研究と、磁気閉じ込め核融合、慣性閉じ込め核融合、パルス高出力技術の分野での実装を行っている。殆どの研究及び技術関連プロジェクトは、ユーラトムコミュニティの核融合プログラム、ハイパワーエネルギー研究(HiPER)プロジェクト、及びその他のヨーロッパのプロジェクトの枠組みの中で国際協力として実施。
  5. ポーランド科学アカデミー(Polish Academy of Sciences:PAN)のヘンリク・ニエウォドニツァンスキー核物理学研究所(Henryk Niewodniczanski Institute of Nuclear Physics:IFJ、クラクフ)
    理論的・実験的研究の専門分野:高エネルギー・素粒子物理学、原子核の構造と核反応メカニズムの物理学、凝縮物質の構造・相互作用・特性の研究、及び地球物理学・放射化学・医学・生物学・環境物理学・材料工学における原子力の応用。

リストアップされた研究機関は、原子力規制機関及び又は原子力施設の運転者のためのTSO(技術支援機関)である。この他にも、原子力(電力を含む)、物理学、化学、核医学を扱う研究所や科学研究センターがある。

◆廃棄物管理を含む燃料サイクル

1945年から1972年の間に、ウラン精錬所と小規模ウラン精鉱生産施設と共にいくつかのウラン鉱山が操業していたものの、ウラン資源としては僅かな量である。1kgのウランを生産するためのコストは、現在のその市場価格より数倍高いため、ポーランド政府はウラン資源を探査しないことを決定している。

国家放射性廃棄物管理・使用済燃料計画(National Radioactive Waste Management and Spent Nuclear Fuel Plan)が、2020年11月に承認された。国家計画は、ポーランドで生成される全てのカテゴリーの放射性廃棄物の安全・確実な管理を規定しており、廃棄物の生成から安全な処分、閉鎖された処分場のモニタリングまでの全期間をカバーしている。主な目標を以下のように設定している。

  • ロザン(Różan)の国立放射性廃棄物処分場(National Radioactive Waste Repository: NRWR、ワルシャワから80km、3.045 ha)の最終閉鎖、長期モニタリングの準備
  • 新国立放射性廃棄物処分場(New National Radioactive Waste Repository)の立地場所の選定、建設、及び操業
  • ポーランド地下研究所(Polish Underground Research Laboratory: PURL)の実施を含む、深部放射性廃棄物処分場(Deep Radioactive Waste Repository:DRWR)の建設の準備
  • 最初のポーランド原子力発電所の廃止措置が始まる前の深部放射性廃棄物処分場の操業

放射性廃棄物を生成する施設の所有者は、その中間貯蔵と処理の責任がある。現在、放射性廃棄物処理と貯蔵を許可された唯一のポーランドの企業は、放射性廃棄物管理プラント(Radioactive Waste Management Plant:RWMP)公益事業社であり、廃棄物が生成者から移送された時点から放射性廃棄物の取扱いを担当する。

RWMPはシフィエルク(Świerk)にあり、そこで放射性廃棄物が処理及び保管されている。処理後(ポーランドの法律に沿って調整を含む)、固体廃棄物及び固化廃棄物は、ロザン(Różan)の国立放射性廃棄物処分場(NRWR)に処分されるか、シフィエルクの施設で貯蔵される。

NRWRは、1961年から操業。IAEA分類による地表面型貯蔵所であり、短寿命の低中レベル放射性廃棄物を保管し、長寿命廃棄物を中間貯蔵するように設計されている。廃棄物はコンクリート施設に貯蔵され、一部は土で覆われる。NRWRは2033年に予定される新たな国立放射性廃棄物処分場の操業開始後、閉鎖される。

新たな国立放射性廃棄物処分場の立地選定プロセスは進行中である。

深部放射性廃棄物処分場(DRWR)については、ポーランド地下研究所(PURL)をDRWRと連携させるか、PURLの作業に関係なくDRWRの立地に特化した研究を行うか、現在検討中である。

◆ポーランドにおける原子力人材育成

PNPPにみる大規模な原子力発電計画を実現するには、原子力発電の建設と運転、規制機関のタスクを満たす人材の育成が急務である。ポーランドの政治システムが変化し(1989~1990年)、1990年に政府がジャルノビエツにおける原子力発電所建設の取り止めたため、この建設プロジェクトのために準備していた技術者や専門家は、国内でのキャリアの可能性を失い、海外の大学や研究所等に流出した。

原子力発電計画を遅滞なく進めるためには予め、建設と運転の各段階で必要となる人材の数と構造の計画を立てる必要がある。国の潜在的な能力の評価と、原子力プロジェクト実施の様々な段階におけるニーズ分析と現状のギャップに基づき、人材育成プログラムへの取り組みが進められている。

ポーランドにおける原子力人材育成の考え方 (気候環境省)

ポーランドにおける原子力部門の技能と能力の開発における主な任務は、原子力発電所の建設と運転のための有資格者を準備し、原子力規制機関の任務を果たすことである。独自の安全文化を積極的に共創できる、高度な教育と十分な訓練を受けたスタッフを提供することは、原子力発電所の建設と運転の準備において最も重要なタスクの一つである。原子力部門の労働者の高い能力と効率性を確保する必要性を考慮すると、スタッフの適切な計画、訓練、管理が不可欠である。

原子力人材育成については、原子力法ならびにPNPP「原子力関連機関・企業に対する人材の教育・訓練」と「原子力人材育成のための開発計画」に言及がある。原子力発電の詳細な人材育成計画は、2023年末までに策定される予定である。このプログラムの作業は現在、IAEAの専門家の積極的な支援を受けて進行中である。

ニーズを特定し、PNPPの実施を目的とした人的資源の準備のための最適なメカニズムを作るには、以下のタスクを実行する必要がある。

  • 国の人材ポテンシャルの評価。
  • 原子力プロジェクト実施の様々な段階で必要な従業員の数と専門的資格、原子力発電部門の人材育成における技術提供者の役割、訓練システム、及び国際協力の観点からのニーズの特定。
  • 人員配置のニーズと現在の雇用・教育との比較、及びこの分野で検出されたギャップを埋めるための行動の特定。原子力プロジェクトを実施する機関の役割は、大学が原子力に関連する新しい研究分野を開拓し、既存の研究分野の開発に向けて協調的な措置をとることを奨励すべきである。将来、原子力発電所の人材に加わることができる学生の採用を計画できるようにするために、適切なプログラムを開発し、ニーズの定量的な推定を行う必要がある。
  • 原子力のための人的資本を構築するための協力メカニズムの確立。特に、新しい原子力専門職を提供するための法律の改正に対処し、ポーランドの研究施設が高等教育コース、大学院研究、原子力の専門訓練の提供を準備する際に支援する。

タスクとその実施のタイムスケジュールを説明する文書は、プロジェクトの実施と発電所の運転に関与する組織の人員配置のニーズを説明する原子力発電の人材育成計画になる。原子力計画を実施する各公的機関も、IAEAの勧告に沿って独自の人材育成計画を策定すべきである。

ポーランド国内の技術学校や大学が、原子力発電に直接関連するプログラムや専攻(学部、大学院、博士課程)を開設。原子力分野の科学・研究基盤も整備され、ポーランドの多くの研究機関が核化学や核物理学の分野の研究に従事している。シフィエルクにある国立原子力研究センターの研究用原子炉「MARIA」がポーランドの科学者養成に重要な役割を果たしている。PNPPでは、大学の協調融資(co-financing)が2024年から開始され、大学院生及び専門家の研究にむけて新たな分野を支援、開発、開設することとしている。

原子力教育・トレーニングが可能な教育・科学インフラ

・ワルシャワ:ワルシャワ工科大学、ワルシャワ大学、国立原子力研究センター、原子力化学技術研究所、
       プラズマ物理学・レーザーマイクロ核融合研究所、放射線防護中央研究所 

・クラクフ:ヤギェウォ大学、AGH科学技術大学、クラクフ技術大学、
      ポーランド科学アカデミーヘンリク・ニエウォドニツァンスキー核物理学研究所

最近の原子力人材育成をめぐる動き

2023年1月

ポーランドの石油化学企業PKNオーレン・グループとOSGE社、国内でのSMRの建設に向け、国内6つの工科大学および教育科学省と技術スタッフの教育・訓練プログラム設置に向けた基本合意書に調印。グダンスク工科大では、「グダンスク原子力技術センター」の設立準備も進められている。グダンスク工科大は、「BWRX-300」を1基備えた原子力発電所では、約100名分の労働力が必要と試算。

*6大学:グダンスク工科大、AGH科学技術大、ポズナン工科大、シレジア工科大、ワルシャワ工科大、およびヴロツワフ科学技術大

2023年8月

PEJ社、原子力部門における人材育成や研究等で、ワルシャワ工科大学(WUT)と協力協定を締結。PEJ社とWUTが共同でカリキュラムや奨学金プログラム、有給の実務研修制度などを開発。

◆ポーランドの原子力産業サプライチェーン

国内産業・企業へのサポートのプログラム(2021年12月 気候環境省承認)

  • 高コストの品質保証認証の取得を支援
  • 情報提供と人材トレーニング活動
  • 海外市場への参入促進と支援
  • 国内への原子力技術移転の促進、等

ポーランド国内79企業が過去10年間に原子力業務の経験あり(原子力発電所、燃料サイクル施設、原子力研究所、CERN、ITER、露ドゥブナ研究所、研究炉「MARIA」等)。

この他、250企業が原子力産業に携わる十分な能力あり(製造プロセス上の大部分の製品とサービス提供、T/Gコンポーネント、土建工事、配管製造と組立て、電子部品等。原子力蒸気供給系(NSSS)の製造・組立ても一部可能ではあるが、追加投資が必要)。

初号機建設費用の少なくとも40%に国内企業が関わる見込み。原子力発電プログラムの最終段階で70%が可能と予想。

出所:気候環境省 発表資料 於NE・RS 2022 “New Nuclear Build in Czechia – Test of the European Capability to Decarbonize the Electricity Generatino”, June 14, 2022, Prague, Czech

◆原子力のパブリックアクセプタンス

ポーランドにおいて原子力エネルギーへの理解を促進し、市民、特に発電所が立地する地域の住民の間で投資プロジェクトに対する可能な限り幅広い社会的支持を得ることは非常に重要である。

近年、ポーランド国内での原子力発電の発展に対する大きな支持が世論調査の結果でも明らかになっている。2022年11月に気候環境省が実施した世論調査では、原子力発電への支持は86%の最高レベルに達している(世論調査は2012~2022年にわたり毎年実施)。

この世論調査によると、回答者の70%以上が居住地のすぐ近くに原子力発電所を建設することに同意し、90%がポーランドで最初の原子力発電所の建設計画を認識している。原子力発電に関する情報を入手している情報源は、インターネット(63%)、テレビ(42%)、友人との会話(31%)との結果であった。

PEJ社は、2011年以降、ポーランドの独立した世論調査センターに委託し、ポーランドで最初の原子力発電所が建設される地域で定期的に世論調査を実施しているが、2021年10月に実施された最新の調査結果によるとポモージェ県にあるサイトコミュニティ(Choczewo, Gniewino, Krokowa)に住む回答者の63%が、すぐ近くに原子力発電所を建設する計画に関する決定を支持、2022年の調査では支持は75%に達している。

また、PEJ社は2011年より、「Świadomie o Atomie」(「Knowingly about Atom」)と題した全国キャンペーンを開始し、住民とのコミュニケーション、教育、情報活動を実施している。

2023年5月、海外NGOの4団体(ClearPath(米), Third Way(米), Potential Energy Coalition(米), Replanet(欧))の共同調査による多国間の原子力世論調査「The World Wants New Nuclear」の結果が発表された。2022年11月から2023年1月にオンラインで実施したもので、フランス、ドイツ、日本、ポーランド、韓国、スウェーデン、英国、米国の8か国の一般市民からランダムに計13,500人を抽出し対象としている。

ポーランドでは、原子力エネルギーへの支持ならびに原子力エネルギーを活用した脱炭素や温暖化防止への関心が他の諸国よりも高いことが分かる。

(2023年10月)■

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