高温ガス炉実証炉の基本設計に向けて

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

経済産業省が実施する委託事業「高温ガス炉実証炉開発事業」において、基本設計を実施するとともに、将来的には製造・建設を担う事業者(中核企業)の選定が行われ、7月25日に三菱重工業株式会社が中核企業として選定された。高速炉の中核企業選定(7月12日)に続くGX実行会議で示された次世代革新炉のロードマップに沿った着実な進展として歓迎したい。

経済産業省の「革新炉ワーキンググループ」が2022年11月に取りまとめた「カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた革新炉開発の技術ロードマップ(骨子案)」において、高温ガス炉は、炉心溶融が基本的に発生せず、鉄鋼や化学等の産業部門へのカーボンフリーの熱・水素供給、電力系統全体の柔軟な運用、耐高温材料製造に貢献し得る技術と評価された。

今後の開発に当たっては、我が国産業界全体の実力涵養の観点を意識しつつ、国際協力を通じて我が国が持つ高温ガス炉関連技術を世界に展開しデファクトスタンダードを目指すなど、技術が国益に結び付くよう戦略的に進めることも重要である。「高温ガス炉実証炉開発事業」によって高温ガス炉の実用化に向けた技術開発が一層進展することを期待したい。

以上

<参考>

高温ガス炉実証炉開発事業を担う中核企業の選定に係る公募結果について(2023年7月25日 経済産業省 資源エネルギー庁 原子力政策課)
https://www.enecho.meti.go.jp/appli/public_offer_result/2023/0725_02.html

「GX実現に向けた基本方針 参考資料」(2023年2月10日 閣議決定)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/pdf/kihon_sankou.pdf

「カーボンニュートラルやエネルギー安全保障の実現に向けた革新炉開発の技術ロードマップ(骨子案)」(2022年11月8日 第33回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 参考資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/033_s02_00.pdf


高温ガス炉は下記のような安全特性を持つ。

  • 制御棒挿入に失敗してもドップラー効果により核分裂が停止。
  • 交流電源を喪失しても、自然対流・輻射で圧力容器外部から自然に崩壊熱を除去。
  • セラミック被覆燃料粒子内に核分裂生成物を閉じ込めることが出来る。
  • 冷却材に不活性なヘリウムを使用しており、水素爆発や水蒸気爆発が発生しない。
  • 燃料の被覆に耐熱性に優れたセラミックを使用しており、燃料が溶融しない。
  • 黒鉛(減速材)により事故時の温度変化が緩慢で、事故後(短時間)の対応の必要がない。

高温ガス炉は高温のヘリウムを供給できるため以下のようなことが可能。

  • 化学プロセスへの高温熱供給(ISプロセスによる水からの水素製造など)
  • 水素製造装置の接続によって生産された水素を用いたカーボンフリー製鉄や燃料電池自動車へのカーボンフリー水素の供給
  • 高温のヘリウムによる高効率のガスタービン発電
  • 上記で利用した後の廃熱を水蒸気供給、海水淡水化、暖房等の熱源に利用するなど、熱を段階的に利用できる。

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