東京電力ホールディングス株式会社による福島第一原子力発電所ALPS処理水の海洋放出開始について

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

8月24日、東京電力ホールディングス株式会社は福島第一原子力発電所ALPS処理水の海洋放出を開始した。福島第一原子力発電所の敷地内でALPS処理水を貯蔵しているタンクは増え続け、タンクの数はすでに1,000基を超えている。今後の廃炉作業を着実に進め、福島の復興を実現するためには、ALPS処理水の処分は決して先送りできない課題である。今般のALPS処理水の海洋放出は、福島第一原子力発電所の廃炉の大きな一歩となるものであり、関係の皆さま方のご理解とご尽力に敬意を表したい。

ALPS処理水は、トリチウム(*1)以外の放射性物質の告示濃度比総和(*2)が1未満となるまで浄化したものである。福島第一原子力発電所では、こうしたALPS処理水をトリチウム濃度が1,500ベクレル/リットル未満となるよう、海水で100倍以上に希釈して海洋へ放出する。この濃度は、排出にかかる国の規制基準値である60,000ベクレル/リットルの40分の1未満と十分に低い濃度であるため、環境や健康への影響は考えられない。また、年間の放出量は、事故前の運用管理値と同じ、22兆ベクレル未満を遵守することとしている。

国連の機関であり、原子力について高い専門性を持つ国際原子力機関(IAEA)も、海洋放出は科学的根拠に基づくものであり、国際慣行に沿うものと評価している。2023年7月に公表された「ALPS処理水の安全性レビューに関する包括報告書」の中では、

1)包括的評価に基づき、ALPS処理水の海洋放出に対する取組及び、東京電力、原子力規制委員会及び日本政府による関連の活動は、関連する国際安全基準に合致している、

2)包括的評価に基づき、現在東京電力により計画されているALPS処理水の放出は、人及び環境に対し、無視できるほどの放射線影響となる、

と結論付けられている。

また、IAEAは、国際社会に追加的な透明性及び安心を提供することを目的とし、放出前、放出中及び放出後もALPS処理水の放出に関し日本に関与することにコミットし、追加的レビュー及びモニタリングを継続予定としている。グロッシーIAEA事務局長は「ALPS処理水の放出中は、IAEAは福島にとどまる」とも述べている。

なお、一般に原子力発電所では、発電にともないトリチウムが必ず生成されるため、トリチウムの海洋放出は通常の運用の中で行われている。例えば、カナダのピッカリング原子力発電所では福島第一原子力発電所の21倍、中国の陽江原子力発電所では5倍、韓国の古里原子力発電所では2倍のトリチウムを、実際に海洋へ放出している。もちろん、いずれの原子力発電所においても、当該国の安全基準を満足することを確認した上で実施されている。(*3)

東京電力ホールディングス株式会社には、安全かつ適切な放出設備の運用とモニタリングを行い、風評の防止に向けた透明性のある丁寧な情報発信をお願いしたい。また、日本政府には、ALPS処理水の処分に関する基本方針(*4)の着実な実行に向け、関係閣僚等会議で示された内容に沿って、安全確保・風評対策に係る各取組(*5)を進めていただきたい。加えて、報道関係の皆様には、国内ならびに近隣諸国に不安や誤解があることを踏まえ、引き続き科学的根拠に基づいた報道をお願いしたい。

当協会も国際連携やホームページによる情報発信を通じて、国内外への正確な情報発信と理解の促進に努めて参る所存である。

*1トリチウムは「水素」の仲間であり、 自然界でも生成されている。雨水や水道水、大気中にも含まれており、放射線を発するが、とても微弱で紙1枚で防げる程度である。

*2告示濃度比総和:施設から放出される水や空気に対し定められている放射性物質ごとの濃度の限度を告知濃度限度という。複数の放射性物質を放出する場合は、核種毎に告示濃度限度が異なることから、それぞれの告示濃度に対する比率を計算し、その合計値を「告示濃度比総和」と呼んでいる。

*3外国の各発電所のトリチウム放出量の出典:資源エネルギー庁作成ALPS処理水資料集https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/pdf/alps_02.pdf

*4東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所における多核種除去設備等処理水の処分に関する基本方針
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/alps_policy.pdf

*5 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議(第6回)ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議(第6回) 配布資料
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hairo_osensui/alps_shorisui/dai6/index.html

(了)

<参考>

〇経済産業省 廃炉・汚染水・処理水対策ポータルサイト(ALPS処理水の処分)https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/alps.html

〇原子力規制委員会(東京電力ホールディングス(株)に特定原子力施設に係る使用前検査終了証を交付)https://www.nra.go.jp/disclosure/law_new/INRF/160001261.html

〇外務省 原子力安全(ALPS処理水の取扱い)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/inec/alps.html

〇東京電力 処理水ポータルサイト
https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/

〇原産協会(教えて!トリカイ先生。今さら聞けないトリチウムのコト)
https://www.jaif.or.jp/journal/study/torikai/top.html

印刷ページはこちら

お問い合わせ先:企画部 TEL:03-6256-9316(直通)