COP史上初、認知された原子力の役割

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 新井 史朗

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第 28回締約国会議(COP28)が、11月30日から12月13日の期間で、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された。パリ協定で定めた各目標に対する進捗状況を5年ごとに包括的に評価する「グローバル・ストックテイク(GST)」が初めて実施され、温室効果ガスの排出削減のために、特に再生可能エネルギー、原子力、排出削減が困難な分野での炭素の回収・利用・貯蔵などの低減・除去技術、低炭素水素製造を含む、排出ゼロおよび低排出技術を加速させるとの文言がその成果文書に盛り込まれた。COPの公式文書において原子力の低炭素価値が認められ明記されたのはCOP史上初めてであり大変意義深い。

原子力については、成果文書以外にも、日本をはじめとする米英仏加など22か国(現在も増加中)がパリ協定で示された1.5℃目標の達成に向け、世界の原子力発電設備容量を2050年までに3倍に増加させるという野心的な目標を掲げた閣僚宣言を発表した。世界的に気候変動防止に対する原子力の貢献への期待が高まるとともに、これまでG7会議の場で、原子力の意義と活用に言及してきた岸田首相が1日に行われた首脳級演説の中で、COPの場で初めて原子力の活用に言及しつつ我が国がクリーンエネルギーの最大限の導入を図ると述べたことも、原子力が成果文書に盛り込まれることに大いに貢献したのではないかと思われる。

この閣僚宣言を受け、世界の原子力産業界団体・企業は「原子力産業界の誓い」を公表し、2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍とする目標に賛同し、既存の稼働中の原子力発電所による貢献を最大化し、安全で責任ある確かな方法で新規原子力の展開のペースを加速することを約束した。

COP28に向けては、9月に世界原子力協会(WNA)と開催国であるUAEの原子力公社(ENEC)によって、「ネットゼロ原子力(NZN)」というイニシアティブが発足した。当協会は、このイニシアティブの発足メンバーとして、海外の原子力産業界団体と共に国際原子力機関(IAEA)と連携し、パビリオンを設置・運営するなど、COP28の場で気候変動対策における原子力の貢献を訴求した。また、当協会も設立メンバーである、世界150以上の原子力関連組織が結集した草の根イニシアティブNuclear for Climate (N4C)も若手を中心にパビリオンを設置・運営するとともに、ポジション・ペーパーを発表し、政策立案者に対し、重要なクリーンエネルギー源として、原子力を支援することの重要性を活発に訴えた。

COPにおいて原子力が存在感を発揮するのはCOP26(英国:グラスゴー)、COP 27(エジプト:シャルム・エル・シェイク)に続き3回目である。COP 27では史上初めて、IAEAが、当協会を含め各国原子力産業界団体と共同で、パビリオンを出展した。そして、今回はさらに原子力のプレゼンスが向上・拡大し、NZNパビリオン、IAEAパビリオンを中心とした活動のほかに50にも及ぶ原子力関連サイドイベントが開催された。また、今回初めて、日本政府主催のジャパン・パビリオンで、原子力に係るパネル展示が実施されたほか、米国、カナダ、韓国、英国、仏国などの各国パビリオンでも積極的に原子力に関する展示やイベントが行われたことは大きな前進である。とりわけ、UNFCCC公式イベント「原子力による脱炭素化への貢献」や、世界から官民のハイレベルな関係者や多くの若者たちが参加した「Net Zero Nuclear Summit 2023」などには当協会からも登壇し『原子力産業界は、福島第一発電所事故の反省と教訓を心に刻み込み何よりも安全を最優先にしている。私たちの安全性への真摯なコミットメントについて常に社会と議論しコミュニケーションすることが、2050年に向けての私たちの長い挑戦を支える礎となる』との発言を行ったところである。当協会はホームページにCOP28特集ページを設けNZNの活動を始め現地でしか入手できない情報を掲載しているので、是非ご覧いただきたい。

原子力は、エネルギー・経済安全保障に優れ、かつ環境に対し持続可能な信頼できる確立された技術であると同時に、高速炉、小型モジュール炉、高温ガス炉、核融合炉など今後も一層成長が期待できるイノベーティブな分野が広がっている。また、発電部門以外にも、熱供給や水素製造により産業、輸送、家庭など様々な部門の脱炭素化を支えるポテンシャルを有している。  COPにおける原子力のプレゼンスは年々高まっており、原子力が気候変動対策の有効な手段になるとの認識も、確実に浸透してきている。当協会は、世界の原子力関係組織と協力して、気候変動問題におけるクリーンエネルギーとしての原子力の最大限活用を訴求する取組みを引き続き展開していきたい。最後に、ネットゼロ原子力(NZN)イニシアティブの趣旨にご賛同いただき、ご支援いただいた日本企業の皆様にお礼申し上げたい。

<参考>
〇特集 COP28 in Dubai, United Arab Emirates 2023 (UAE)
 https://www.jaif.or.jp/information/cop28/

〇COP28:UAEコンセンサス採択 原子力の価値を認知
 https://www.jaif.or.jp/journal/culture/cop28/20935.html

〇世界の原子力発電設備容量を 3 倍に 22 か国が宣言に賛同
 https://www.jaif.or.jp/journal/culture/cop28/20741.html

〇「原子力産業界の誓いー2050 年までに世界の原子力発電設備容量を3倍に!」
 の表明について
 https://www.jaif.or.jp/pressrelease/cop28/

〇Nuclear for Climate が COP28 ポジション・ペーパーを発表
 https://www.jaif.or.jp/cop28_position_paper/

〇NZN ホームページ
 https://netzeronuclear.org

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