台湾の原子力動向

永久閉鎖された國聖原子力発電所
(当協会所蔵)

2023年1月1日現在、台湾で運転中の原子炉は3基・299.2万kW(うち、國聖2号機が2023年3月15日永久閉鎖)、IAEA-PRIS(国際原子力機関の原子炉情報)によると、2022年の台湾の原子力発電量は229億kWh、原子力シェアは9.1%となっています。

台湾はわが国と同様、島国で国内エネルギー資源に乏しく、エネルギー資源の90%以上を海外に依存しています。1970年代から米国ジェネラル・エレクトリック(GE)社とウェスチングハウス(WE)社から原子力発電所を輸入、これまでに 6基・514.4万kWの原子炉が導入され(2基・270.0万kWが建設凍結状態)、台湾の電力供給に寄与してきました。しかし、福島第一原子力発電所事故が台湾に与えた影響は多大で、台湾の原子力政策にも大きな影響を与えました。台湾国内での反対運動の高まりを受け、馬英九国民党総統(当時)は2011年11月、原子力安全、原子力依存率の漸減、低炭素グリーンエネルギー・環境などを目標とする新たなエネルギー政策を発表し、原子力への依存を徐々に下げてゆく基本方針を示しました。具体的には、既存の6基に40年の運転期間を設定し、段階的に閉鎖されることなどが示されました。

その後、脱原子力政策を掲げた民主進歩党(民進党)の蔡英文政権が2016年5月に発足し、同政権は、2025年までの「非核家園」(原子力発電のないふるさと)の実現を定めた電気事業法改正案を2017年1月に可決しました。2020年も引き続き与党となった民進党政権は新エネルギー移行政策を打ち出し、2022年3月には「2050年ネット・ゼロ排出へのロードマップ」を発表。「グリーンエネルギーの推進、天然ガスの増加、石炭火力の削減、脱原子力の実現」を原則に安定した電力供給の確保をめざしています。

2025年の脱原子力達成に向けて、既存炉6基の40年の運転期間満了に伴い、金山1、2号機(第1原子力発電所)、國聖1、2号機(第2原子力発電所)は既に閉鎖され、馬鞍山1、2号機(第3原子力発電所)も1号機が2024年7月、2号機が2025年5月にそれぞれ閉鎖予定です。このまま予定どおりに進めば、2025年に台湾の脱原子力が達成される見込みです。一方、1999年に着工した龍門(第4)原子力発電所については、建設中止を求める反対運動の激化により2014年4月、ほぼ完成していた1号機が運転前の安全検査完了後に停止、2号機は直ちに建設中止が決定され、両機とも2015年7月、正式に密閉管理の停止状態に置かれました。

このように原子炉の永久閉鎖が粛々と進められている台湾ですが、放射性廃棄物の最終処分場や使用済燃料貯蔵施設の建設などバックエンド面においても国民や地元自治体の支持を得ることが重要な課題となっています。

こうしたなか、台湾では来年1月に総統選挙が予定されています。野党・国民党の総統候補は現状の原子力発電維持を主張、蔡政権が掲げる2025年までの「非核家園」の政策から転換する考えを示しており、今後の動向が注目されます。

エネルギー・電力事情とエネルギー政策

台湾本島の面積は3.6万km2(九州よりやや小さい)、人口は約2,300万人、2022年の国内総生産(GDP)は約7,600億ドル、1人当たりの名目GDPは32,811ドルとなっている。

エネルギー消費量は、過去20年間で増加しており、石油換算で2002年の6,875万キロリットル(kl)から2022年には8,313万klとなり、年平均増加率は0.95%であった。これに対しエネルギー供給については、2022年のエネルギー自給率は2.73%に過ぎず、エネルギー資源の97.27%を海外に依存している。

また、2022年の総発電電力量約2,500億kWhのうち、原子力は約9%を供給した。

台湾のエネルギー政策は、1973年4月に「台湾地区能源政策」として策定されて以来、数度の修正を経ており、エネルギー安定供給、利用効率化、市場開放、環境対策、研究活動強化、広報推進を主要項目に掲げている。

2011年3月の福島第一原子力発電所事故を受け、馬英九国民党総統政府(当時)は同年11月、原子力安全、原子力依存率の漸減、低炭素グリーンエネルギー・環境などを目標とする新たなエネルギー政策を発表。原子力への依存を徐々に下げてゆく基本方針を示した。

脱原子力を掲げた民主進歩党(民進党)の蔡英文政権が2016年5月に発足し、同政権は、2025年までの「非核家園」(原子力発電のないふるさと)の実現を定めた電気事業法改正案を2017年1月に可決。同年5月、台湾経済部(省)は2025年の脱原子力をめざし、「天然ガス50%、石炭30%、再生可能エネルギー20%(原子力0%)」とする発電量構成の目標を掲げた。

しかしその後、台湾各地で発生した大規模停電などの影響により電力不足の問題が深刻化したことで産業界は安定的な電力供給を求め、政府に対しエネルギー政策の見直しを要請。2018年11月の統一地方選挙と同時に、電気事業法改正案第95条第1項(原子力発電施設は2025年までに全ての運転を停止する)の賛否を問う住民投票が実施され、その結果、法規定廃止の賛成(5,895,560票)が反対(4,014,215票)を上回り、この法規定の削除が決定されたものの、政府は非核家園を目指す方針をその後も維持した。蔡政権は、「グリーンエネルギーの推進、天然ガスの増加、石炭火力の削減、脱原子力の実現」を原則に安定した電力供給の確保、脱炭素化とCO2削減を目指しており、再生可能エネルギーの普及を継続するとして、石炭火力からガス火力へのエネルギー転換を推し進めている。

2020年1月の総統選挙で蔡英文氏が圧勝し、同年5月に蔡英文政権は2期目に入った。台湾行政院は2021年4月、2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明し、2022年3月には台湾国家発展委員会が「2050年ネット・ゼロ排出へのロードマップ」を発表。「2050年ネット・ゼロ排出」達成のための経路として、「エネルギー転換」、「産業変革」、「生活変革」、「社会変革」の4つの主要な変革と「科学技術研究開発」、「気候変動、エネルギー関係法制度」の2つの基盤整備に基づき、各分野の行動計画が策定された。特にエネルギーについては、グリーンエネルギーの推進を掲げ、エネルギー輸入依存度を、2050年には50%以下に減少させ、総発電量に占める再生可能エネルギーの割合を60~70%に引き上げるとしている。

原子力開発の経緯と原子力の現状

台湾では、2023年3月に1基の原子力発電所が閉鎖し、現在は2基・195.8万kWの原子力発電所(馬鞍山1、2号機・PWR)が運転中である。台湾電力によると、3基が運転していた2022年の原子力発電電力量は全電力の9.1%(2021年:10.8%)にあたる約229億kWh(2021年より14.6%減)を供給した。原子力発電量シェアは福島第一原子力発電所事故前の2009年には20.6%を占めていたが、徐々に減少している。

台湾における原子力発電開発は、1970年代に米国ジェネラル・エレクトリック(GE)社とウェスチングハウス(WE)社から原子力発電所を輸入、1978年から1985年にかけて金山1、2号機(第1原子力発電所)、國聖1、2号機(第2原子力発電所)、馬鞍山1、2号機(第3原子力発電所)の計6基が営業運転を開始した。1999年からはGE社が主契約者であるが、日本のメーカーが主要機器を供給した龍門1、2号機(第4原子力発電所)(135万kW, ABWR×2基)が建設を開始した。

台湾の原子力発電所の運転実績は良好で、IAEAの調査によると、設備利用可能率(Unit Capability Factor)は、過去3年間(2020~2022年)も80%以上を維持している。安全確保については2011年3月の福島第一原子力発電所事故後、津波防止対策、耐震性の向上、緊急時対応訓練などの強化措置を講じるとともに、欧州基準に基づくストレステストおよび10年毎の総合安全評価繰り上げなどの実施により台湾の原子力発電所の安全性向上が示された。

しかし、福島第一原子力発電所事故を受けて原子力反対の世論が高まり、当時の馬英九総統(国民党)は2011年11月、龍門発電所(第4原子力発電所)を2016年までに完成させる一方、既存の原子炉計6基は40年の運転期間満了後に段階的に閉鎖していく政策を明らかにした。その後も、龍門発電所の建設中止を求める抗議運動が激化したことから、馬総統は2014年4月、ほぼ完成していた1号機を運転前の安全検査完了後の停止、2号機については直ちに建設中止を決定し、2015年7月、龍門1、2号機は正式に密閉管理の停止状態に置かれた。台湾電力は2019年2月、龍門発電所の営業運転を開始するには6~7年かかること、GE社が老朽化した多くの部品の生産を中止したため、交換が不可能などを理由に、同発電所の運転開始をしないことを表明した。さらに2021年12月、龍門発電所の建設再開の是非を問う住民投票が実施され、建設再開は反対多数(52.8%)で否決された。

2025年の脱原子力目標に向けて、既存原子力発電所6基の運転期間(台湾では当初の運転認可期間は40年となっている)満了に伴い、金山1号機と2号機はそれぞれ2018年12月と2019年7月に、國聖1、2号機は、2021年12月と2023年3月に閉鎖された。馬鞍山1、2号機は2024年7月と2025年5月に閉鎖される予定であり、これにより台湾の脱原子力が達成される見込みである。

原子力行政体制

台湾では行政院(内閣)に設置された原子能委員会(AEC)が、原子力関連業務を統括しており、首相(行政院長)から任命された国務大臣が委員長となる。国務大臣の指示による戦略の設定、原子力政策の策定、原子力関連規則作成に加え、原子力安全のための許認可発給など、原子力規制機関としての役割を担っているほか、放射線防護と環境モニタリング、核セキュリティと緊急時対応、放射性廃棄物管理と廃止措置を所掌、管理・監督している。事務局の事業部門には、統合計画部、原子力規制部、放射線防護部、原子力技術部の4部署を設置。3つの傘下機関として、研究開発を担う核能研究所(INER)、放射性物質管理局(FCMA)、放射線モニタリングセンター(RMC)が機能している。

また、行政院経済部(省)所掌の台湾電力は、台湾国内唯一の国営電力会社として台湾全土の発送電から配電にいたるまでの電気事業を一括して行っており、原子力発電所の建設・運転管理、放射性廃棄物管理を実施している。

放射性廃棄物管理

台湾では、原子能委員会の傘下機関である放射性物質管理局(FCMA)が、放射性廃棄物の処理、貯蔵、処分施設の建設、運転、廃止措置の監査、ならびにそれらの輸出入、処理、輸送、貯蔵、処分およびその他の関連業務の安全管理と検査を担当している。

台湾の放射性廃棄物は、低レベル放射性廃棄物(LLW)と高レベル放射性廃棄物(使用済燃料、HLW)に分類される。

現在の放射性廃棄物管理のシナリオとしては、①低レベル放射性廃棄物は、原子力発電所内貯蔵および所外(蘭嶼島)暫定貯蔵⇒集中中間貯蔵⇒最終処分、②高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)は、燃料取り出し⇒プール貯蔵⇒所内乾式貯蔵⇒集中中間貯蔵⇒最終処分、としている。集中中間貯蔵施設は、最終処分場が操業するまでの一時的措置として、3か所の原子力発電所(高レベルおよび低レベル)と蘭嶼島(低レベル)の暫定貯蔵施設に貯蔵中の廃棄物をすべて暫定貯蔵する目的で建設が計画中である。

低レベル放射性廃棄物の状況

低レベル放射性廃棄物は焼却・圧縮・固化後、亜鉛鋼板ドラム缶に入れられ、約50%が原子力発電所、43%が台湾の南東に位置する蘭嶼島、約7%が核能研究所(INER)の貯蔵施設で保管されている。原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物の保管と管理は台湾電力が、医療、農業、工業、研究機関から発生する低レベル放射性廃棄物はINERが担当している。

蘭嶼島の中間貯蔵施設は1982年に操業を開始したが、保管の貯蔵容量(ドラム缶約10万本)がほぼ満杯となったことに加え、住民の反対もあり、1996年以降は受け入れを停止している。

放射性物質管理局(FCMA)は2003年9月、「低レベル放射性廃棄物の最終処分および施設の安全管理に関する規則」を公表。2006年5月に公布された「低レベル放射性廃棄物最終処分施設の設置場所に関する法律」では、所轄官庁を原子能委員会、実施機関を経済部とし、最終処分場選定のための法的手続きを定め、2006年8月にはサイト選定グループが設置された。

2007年3月、低レベル放射性廃棄物の最終処分場の候補地について、サイト選定プロセスが開始され、台湾経済部は2012年7月、金門(キンムン)県烏坵(ウキュウ)郷(海底下トンネル設計)と台東(タイドン)県達仁(ダジン)郷(浅地層トンネル設計)の2か所を対象地とした「候補地選定報告書」を公表した。しかし候補地2か所の地元自治体は、最終処分場候補地確定の住民投票実施を拒否しており、地元住民による抗議のため、現場の調査活動も中止となっている。

なお台湾電力によると、2025年までに台湾におけるすべての原子力発電所が40年間の運転期間終了によって発生するLLWの発生量は、ドラム缶約60万本と見込んでいる。

高レベル放射性廃棄物、使用済燃料の状況

台湾では原子力発電所から発生した使用済燃料について、再処理を行わず、高レベル放射性廃棄物(HLW)として直接処分する方針である。現状では、HLWとして各原子力発電所サイトの使用済燃料プールに貯蔵しているが、1970年代または1980年代初頭に運転開始した金山原子力発電所と國聖原子力発電所は、サイト内の使用済燃料プール(湿式貯蔵)の貯蔵容量が限られており、40年の運転期間内に発生したすべての使用済燃料を収容するには不十分である。台湾電力は、電力の安定供給確保と最終処分計画策定までの時間を確保するため、各発電所内に一時的な独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI)を建設・計画中である。金山原子力発電所の屋外型乾式貯蔵施設は2012年に建設が完了しており、屋内型の乾式貯蔵施設も計画中。國聖原子力発電所の乾式貯蔵施設も2015年8月に建設許可を取得しているものの、これらはすべて地元自治体の承認が得られておらず、操業、建設開始時期が見通せない状況にある。

使用済燃料の最終処分に関しては、KBS-3というスウェーデンの処分構想による「深地層処分」を計画している。台湾電力は2004年12月、「使用済燃料最終処分計画」(SNFD)を原子能委員会(AEC)に提出、2006年に承認を得た。SNFDによると、①潜在的な母岩特性(岩盤分布調査)および評価(~2017年)、②候補地の選定と承認(~2028年)、③詳細なサイト調査および試験(2038年)、④処分施設の設計と安全性評価(~2044年)、⑤処分施設の建設(~2055年)の5段階を経て、2055年までに最終処分場を操業する計画である。台湾電力は同計画に基づき2017年12月、岩盤分布調査の結果や処分場の長期安全性に関するリスク評価などをまとめた「使用済燃料の最終処分に関する技術的実現可能性報告書」(SNFD2017)をAECに提出、2018年12月には国際審査チーム(IRT)とAECの審査が完了し第1段階を終了、第2段階に移行している。なお、台湾電力が2028年までにサイト候補地を提案できない場合には、2029年に集中貯蔵施設のサイト選択を開始し、2044年末までに運用を開始することをAECが要求している。

原子力発電所の廃止措置

台湾の原子炉施設規制法によると、原子力発電所の事業者は、永久停止計画日の3年前に廃止措置計画を所轄官庁(原子能委員会、AEC)に申請することとなっており、閉鎖後の解体方式は「即時解体」を原則とし、AECの認可取得後、25年以内に廃止措置を完了することを基本方針としている。

台湾初の原子力発電所である金山(第1)1号機が2018年12月5日に閉鎖された後、同2号機も40年の運転期限を迎えた2019年7月15日に閉鎖され、同発電所の廃止措置認可は2019年7月16日、発効した。

金山原子力発電所の廃止措置計画によると、①廃止措置の移行段階、②解体と除染を実施する廃止措置段階、③サイトの最終状況調査段階、④サイトの修復段階、の4段階に分け25年をかけて実施される。

金山原子力発電所では、使用済燃料をサイト内に乾式貯蔵するための屋外型の独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI)が2012年に完成したものの、地元自治体からの土壌水質保全証明書が発行されないため、未使用のままとなっている。原子炉炉心の使用済燃料が搬出不可能で原子炉付近の解体にも着手できないため周辺設備から解体している状況である。2021年11月にはガスタービン建屋の解体が終了。同サイト内に屋内型の大規模なISFSIの建設を計画中である。

國聖原子力発電所では、1号機の使用済燃料の貯蔵プールがほぼ満杯で炉心から取り出すことができず、屋外型乾式貯蔵施設の建設計画も流出廃水削減要件に関する地元自治体の承認を得られず無期延期となっている。こうしたなか、2021年7月1日に運転を停止、40年の運転期限を迎える同年12月27日に永久閉鎖した。続く2号機も2023年3月14日に永久閉鎖。2018年12月に台湾電力がAECに提出した國聖原子力発電所の廃止措置計画は2020年10月、AECが承認した。

なお、馬鞍山1, 2号機の廃止措置計画が2021年7月、台湾電力よりAECに正式に提出されている。同1号機は2024年7月27日に、同2号機は2025年5月17日にそれぞれ40年の運転期間満了を迎え、閉鎖される予定である。

核不拡散と保障措置

台湾は1968年に核拡散防止条約(NPT)に署名して批准したが、1971年に中国の国際連合とIAEA加盟により、国際連合脱退と同時にIAEAも脱退した。以降、原子力分野においても国際社会との交流が極めて難しい状況にあり、特定国や国際機関との限られた範囲内での情報収集や国際協力を行っている。保障措置については、台湾、米国、IAEAの三者間の協定に基づき、査察が実施されている。■

(2023年8月作成)

お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)