英国政府の「2050年までの原子力ロードマップ」: 大規模拡大に向けた今後の取組

2024年2月14日

英国政府は1月11日、エネルギー安全保障戦略(2022年4月発表)で掲げた2050年までに最大2,400万kWの原子力発電設備容量を達成し、電力需要の25%を原子力で供給するという野心的目標を達成するための方策を示す、「2050年までの原子力ロードマップ」(Civil Nuclear: Roadmap To 2050)を発表しました(1/12付原子力産業新聞にて既報)。

同ロードマップは、原子力発電なしでは2050年ネットゼロ達成とエネルギー・セキュリティ確保の達成は困難との認識の下、原子力拡大に向けた政府のビジョンを提示するとともに、英国の民生用原子力の復活への道筋を示しています。また、今回のロードマップの主な目的として、「原子力部門と投資家に明確なシグナルを送ること」を挙げ、英国の原子力導入に係る重要な決定と行動のタイムライン、そして今後実現するうえでの政府と産業界の役割を明確化するとしています。

コールダーホール1号機の運転記念式には
故エリザベス女王もご臨席

英国は、1956年に商業用原子炉のコールダーホール1号機(黒鉛減速炭酸ガス冷却炉(GCR)、6万kWe、2003年3月閉鎖)の運転を開始し、旧ソ連に続く、世界で2番目の原子力発電国となりました。1990年代半ばのピーク時には約1,300万kWあった原子力規模が、現在では約600万kWにまで減少しています。ロードマップでは、原子力発電が現在、大規模導入が可能で信頼性の高い、確実かつ低炭素な唯一の電源であり、ネットゼロの推進に重要な要素であると強調、「英国政府は原子力に対する長年の投資不足を解消し、民生用原子力における世界的なリーダーシップを回復すべく決断を下した」と述べています。

今回のロードマップ(A4版、計約70頁)では、エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)大臣による序文、エグゼクティブサマリーに続き、パートⅠ(政府の原子力発電に向けたロードマップ)とパートⅡ(活気ある民生原子力部門)の各章において、2050年までの政府の取組や2022年に設立され、現在SMRコンペを実施している大英原子力(Great British Nuclear, GBN)の役割、立地や規制、資金調達、核燃料サイクル、研究開発、廃止措置、人材、サプライチェーンなどに係る主な取組が紹介されています。ここでは、各項目における取組のポイントを紹介します。

2050年までのパスウェイ
  1. 政府は、サイズウェルC(SZC)原子力発電所以降のさらなる大型炉プロジェクトの検討を進める。
  2. 政府は、モジュール化とレプリケーション(複製化)の利点を生かして、英国でのSMR導入に取り組む。
  3. 政府は、2050年までに最大2,400万kWの原子力発電を展開するという野心をコミットし続け、この目標を達成するため、2030年から2044年まで5年毎に300万~700万㎾を供給する投資決定を確実に行うことをめざす。
  4. 政府は、市場への代替ルートに関する協議(Alternative Routes to Market consultation, 新型原子力技術に係る民間投資奨励に関する協議)を受け、民間のAMR(ヘリウムガス、ナトリウム、溶融塩など、軽水以外を冷却材として利用する原子炉)ベンダーに対する強力な政府支援策を策定する。
大英原子力(Great British Nuclear, GBN)の役割
  1. GBNは、ネットゼロを達成し、エネルギー・セキュリティを促進するため、SMRコンペを実施する。
  2. GBNの役割は、政府の民生用原子力プログラムなどを支援、拡大することである。
  3. GBNは、投資を妨げる幅広い業種と部門間の障壁について、政府に助言する。
立地および土地利用
  1. 政府は、新たな国家政策声明書に関する協議(Approach to siting new nuclear power stations beyond 2025, 2025年以降の新たな原子力国家政策声明書の指定に関する協議)を受け、原子力立地に関する新たな柔軟なアプローチの開発をめざす。
  2. コミュニティ・エンゲージメントは、今後も立地プロセスに不可欠である。
  3. 原子力廃止措置機関(NDA)は、所有する土地のどの土地が間もなく再利用可能かについて記載した予定案を定期的に公表する。利用可能な土地について商業的な関心があり、NDAと政府が実現可能で費用対効果が高いと判断する場合、まずは新規原子力プロジェクトに土地を供するという前提で、土地のリースやオプションのための公正かつ透明性のあるプロセスを実行する。

今後の原子力開発の規制および合理化
  1. 政府は、計画システムをより良く、より速く、より環境に優しく、より公平で、よりレジリエントにすることにより、計画システム全体が英国の将来のインフラ需要を支援できるようにするため、広範な国家重要インフラプロジェクトの改革を導入する。
  2. 政府は、環境成果報告書(EOR)によって、戦略的環境評価(SEA)と環境影響評価(EIA)という既存の環境評価プロセスを改革する。EORは合理化され、政府の環境コミットメントを意思決定の中心に据えた、成果ベースの評価手法となる。
  3. 英原子力規制庁(ONR)は、設計評価と許認可プロセスを合理化し、効率性を実現、新規市場参入者や代替開発モデルに備えるよう努める。
  4. ONRと英環境庁(EA)は、英国市場への参入をめざすベンダーに対して、早期の規制関与のための枠組を立ち上げる。
  5. ONRとEAは、海外の規制評価を最大限に活用する方法、および2段階の包括的設計評価(GDA)から許認可に移行する際の要請について、GDA申請者向けのガイダンスを公表する。
  6. ONRとEAは、成熟した規制機関と引き続き協力し、国際協力を促進、規制評価を共有し、海外の規制業務の価値を最大化する。
  7. 政府は、産業にとって、新しい「よりスマートな規制課題」に着手する。即ち、市場への代替ルートの協議(新型原子力技術に係る民間投資奨励に関する協議)を通して、産業界に対し、新規プロジェクトの展開の効率化を推進するためにいかにして官僚主義を低減することができるかを特定するよう要請する。
資金調達および資金モデル
  1. 新規原子力プロジェクトの投資家および開発者は、差額決済(CfD)モデル(電力市場価格との差額精算方式)および規制資産ベース(Regulated Asset Base、RAB)モデル(一定の条件で投資回収を保証する制度)の適合性について政府と協力することができる。
  2. 政府は、原子力損害の補完的な補償に関する条約(CSC)への加盟をめざし、原子力の第三者責任体制を強化、原子力部門への投資を支援する。
  3. 政府は、グリーン・タクソノミーに原子力を含めることについて協議を行い、新たな投資優遇措置の獲得に貢献する。
英国の核燃料サイクル
  1. 政府は、英国国内の燃料サイクル能力を再生し、成長させる。
  2. 政府は、2030年代までに英国へのロシア製核燃料およびウランの供給を排除し、各国パートナーと協力して、ロシアへの依存を終焉させ、政治的な影響力のリスクから解放された、共有の強靭な同盟国のサプライチェーンを構築する。
  3. 政府は、産業界とともに最大3億ポンドを投じ、英国産HALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の濃縮および再転換能力を提供する。
  4. NDAは、スプリングフィールド・サイトの廃止措置を進め、新規能力を開発するスペースを確保する。
  5. 政府は、核燃料基金(NFF)の下、最大1,000万ポンドを投じて、核燃料の製造能力や専門知識の開発、HALEUの再転換などの英国の核燃料サイクル・プロジェクトの実施を加速する。
  6. 政府は、セラフィールドで高ハザードの低減活動を優先する一方、先進原子力技術によるセラフィールドに保管されているプルトニウム利用を支援しないと約束し、ベンダーに対して明確性を与える。

原子力イノベーションおよび研究開発
  1. 政府は、2030年代までに高温ガス炉の実証をめざす。
  2. 政府は、研究および医療用放射性核種供給のための国内研究炉と英国陽子線源の重要性を認識し、次回の歳出見直しに向けた投資オプションを検討する。
廃止措置および廃棄物管理
  1. 政府は、地層処分施設(GDF)を建設し、最大2,400万kW分の廃棄物を処分できるようにする。
  2. 政府は、原子力廃止措置および放射性廃棄物を含む放射性物質の管理に関する英国全体の政策枠組みを更新し、公表する。
  3. 政府は、資金手当てされた廃止措置プログラムに関する政策を見直し、新規原子力にも適切性を維持し、かつ将来世代が廃止措置費用を負担せずに済むようにする。
将来の原子力労働力
  1. 政府は、原子力技能を開発するために、国防や教育部門だけでなく、原子力やその他部門にわたる関係者とともに引き続き緊密に協力していく。
  2. 政府は、主要なステークホルダーとともに、以下を優先して協働で取り組んでいく。

  a. 原子力労働人口を増やし、将来のリーダーを育成する。
  b. 原子力部門の雇用と機会を促進しつつ、原子力部門の注目度を高めるためのコミュニケーション
   と協力を行う。
  c. 労働力の多様性を確保し、特に社会経済的水準の低い地域で、原子力部門でのキャリアのメリッ
   トを高める。

原子力サプライチェーンの開発
  1. 政府は、国防省(MOD)や主要な供給パートナーと協働で、強靭な原子力サプライチェーンを確保するため、共通のサプライチェーンの課題を特定し、取り組む。
  2. 政府は、サプライチェーンがより参入しやすい機会を創出し、必要な政策策定に向け、参入障壁を特定するため、産業界との関与を継続する。
  3. 政府は、先進的な製造手法などの革新的な作業方法を開発・展開し、英国企業が国内外でより多くの機会に対抗できるよう、産業界を支援する。
ロードマップを実現するために
  1. 政府は、MODや英国原子力産業協会(NIA)と協働し、原子力産業協議会(NIC,原子力産業界と政府との協議体)が実現すべきロードマップに沿った作業プログラムの開発を含め、同協議会を再構築し、刷新する。
  2. 政府は、原子力を立地する、あるいは検討している地方自治体やコミュニティとの関与戦略を見直し、これらフォーラムからの洞察がロードマップの策定過程や政策立案、目標に確実に反映されるようにする。
  3. 政府は、全体的な目標を達成するための進捗が順調に進んでいるかどうかとともに、実現可能な政策の影響を注視していく。
  4. 政府は、進化する政策を反映するため、2025年末までにこのロードマップを「更新」する。

お問い合わせ先:情報・コミュニケーション部 TEL:03-6256-9312(直通)