ウクライナの原子力発電所の状況 #100


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 184号(現地時間2023922日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)において地下水井戸10本の掘削が完了し、6月のカホフカ・ダム破壊後停止されている、原子炉への冷却水供給の長期的な解決策に近づいたと発表した。

これにより、ZNPPの6基の原子炉と使用済燃料を冷却するスプリンクラー池に、毎時200m3以上の水を供給できるようになったが、IAEAへの報告では、原子炉と使用済燃料プールの冷却維持用に毎時約250m3の水を供給するため、サイトは追加の井戸1本を掘削し、合計11本の井戸を用意する予定であるという。ZNPPの冷却池は無傷のまま残っており、ZNPPの停止中の原子炉を何か月も冷却可能な大量の水がある。

IAEA専門家は今週もZNPPの立入り調査を実施した。チームは2号機、5号機、6号機の中央制御室を訪れ、2号機と5号機が冷温停止状態、6号機が温態停止状態にあることを確認した。さらに、チームは4号機と5号機の非常用ディーゼル発電機を視察。ZNPPのサイト周辺を点検した。チームは、調査中に重火器は観測しなかったが、以前から報告されている地雷が、依然として設置されていることを確認した。

武力紛争が始まって以来、中央制御室の有資格者を含め、相当数のスタッフがZNPPを去っており、プラントのスタッフレベルの低下が引き続き懸念されている。IAEA専門家がZNPPから受けた報告によると、ロシアの原子力発電所から追加スタッフの採用が続いており、彼らはロシアの規制の下で訓練を受けた有資格者だという。IAEAチームは、状況をよりよく理解するため、中央制御室オペレーターの人数と資格に関する情報収集を継続している。

IAEA専門家は、IAEAのモバイルバックパックシステムを使用して放射線モニタリングを実施した結果、ZNPPの放射線レベルが正常であることを引き続き確認している。モニタリング結果は、IAEAの国際放射線モニタリング情報システム(IRMIS)で公表されている。

ZNPPへの外部電源の状況に変化はなく、サイトはウクライナの送電網に接続されている4系統の750kV送電線のうち最後に残った1系統と、6系統の330kV予備送電線のうち1系統から電力供給を受けている。IAEAチームは、他の高圧送電線の復旧の可能性については情報をもっていない。

ウクライナでの紛争中、IAEA専門家は、最前線に位置するZNPPから少し離れた場所で多数の爆発音を引き続き耳にしており、原子力安全とセキュリティの潜在的な危険性を浮き彫りにしている。

また、リウネ原子力発電所に駐在するIAEA専門家によると、9月21日午前、発電所から近隣の町ヴァラシュに電力を供給する110kVの送電線が緊急停止し、停電が発生した。発電所の管理者によると、これは同地域へのミサイル攻撃が原因であった可能性があるという。電力は1時間以内に復旧し、リウネ原子力発電所の安全な運転に影響はなかった。

グロッシー事務局長は、「これらの報告は、同国における軍事紛争の間、原子力施設とそのスタッフが直面する潜在的な原子力安全とセキュリティのリスクを改めて思い起こさせるものである」と語った。

今週、ウクライナの他の原子力発電所とチョルノービル・サイトのIAEAチームは、武力紛争が続いているにもかかわらず、原子力施設が安全かつ確実に稼動していることを報告した。4つのサイトのチームは、来週中に交代する予定である。

また、先週、IAEAはウクライナへの機材搬入を2件手配し、武力紛争開始以来の搬入件数は24件となった。これらの搬入により、フメルニツキー原子力発電所、リウネ原子力発電所、南ウクライナ原子力発電所、およびUSIE Izotope社は、IT機器、医療機器や医療用品、実験装置、核セキュリティ関連システムなど、様々な物資を受領した。これらの物資は、カナダと日本からの特別拠出金によって賄われた。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-184-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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