ウクライナの原子力発電所の状況 #103
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第187号(現地時間2023年10月11日)[仮訳]
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、本日、IAEAの専門家がウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)2号機の屋上への立入りを許可され、そこで地雷や爆発物は確認されず、建屋の屋上からタービン建屋の屋上全体と、1号機と3号機の原子炉建屋とタービン建屋の屋上の一部も目視したが、地雷や爆発物は確認されなかった、と語った。
IAEA専門家チームは、ウクライナにおける軍事紛争の間、欧州最大の原子力発電所であるZNPPを守るための5つの具体的原則(NPPは攻撃されるべきではなく、重火器の基地としても使用されるべきではない)が遵守されているかを監視するため、1号機、5号機、6号機の屋上も立入りできるよう、以前から要請している。
本日の立入りは、爆発物が置かれた可能性があるという報告を受けて、8月3日にIAEAの専門家が3号機と4号機の屋上への立入りを許可されて以来のことである。なお、当時、地雷や爆発物は確認されなかった。
「ここ数か月の度重なる要請の後、ようやくもう1つの原子炉の屋上に立入ることができた。これは正しい方向への一歩ではあるが、国連安全保障理事会で提示し、承認された5原則の遵守を評価するには、まだ多くの立入りが必要である。これが認められるまで我々は要請し続ける」とグロッシー事務局長は語った。
IAEAの専門家はまた、5原則に抵触する可能性のある資機材がないことを確認できるよう、6基のタービン建屋すべてに立入ることを要求している。この要求はまだ承認されておらず、IAEAチームは一度に1つのタービン建屋の状況しか確認できない。
現地にいるIAEAチームがほぼ毎日、爆発音を聞き続けていることが、軍事紛争の最中にZNPPが直面するリスクを浮き彫りにしている。通常、爆発音はZNPPから少し離れた場所で発生しているようだが、昨日はZNPPに近い場所で4回の爆発があった。
「間違いなく、ZNPPの原子力安全およびセキュリティ状況は、依然として非常に不安定である。ウクライナでの戦争中に原子力事故が起きないよう、我々は引き続き全力を尽くす」とグロッシー事務局長は語った。
ZNPPの6基の原子炉のうち、5基は冷温停止状態のままであり、4号機は温態停止状態にあり、発電所スタッフの多くが住む近隣の町エネルホダルに温水を供給するとともに液体放射性廃棄物を処理するための蒸気を供給している。
既報の通り、ウクライナの国家規制機関であるウクライナ国家原子力規制検査院(SNRIU)は、ZNPPの全6基の運転を冷温停止状態に制限する規制命令を発出している。さらに、IAEAはZNPPに対し、発電所の需要を賄い、すべての原子炉を冷温停止状態に維持できるよう、代替の蒸気発生源を見つけるよう強く働きかけている。
ZNPPは、今月初めに冷温停止状態に移行した6号機の保守作業を継続している。IAEAの専門家に伝えられたところによると、4号機の蒸気発生器の1つで発見され、すでに修理済みの水漏れよりははるかに小さいものの、6号機の2次系にホウ素が存在するため、2基の蒸気発生器で試験を行ったという。試験の結果、各蒸気発生器の1つの配管で小さな水漏れが確認されたが、現在は修復され、修復の成功を確認するための試験が行われている。
IAEAの専門家はまた、6月上旬に下流のカホフカダムが破壊されたことを受け、ZNPPの水源の状況を引き続き監視している。原子炉と使用済燃料の冷却水の代替水源を見つけるために、最近、11本の地下井戸の掘削を完了し、合計して毎時約250m3を供給している。9月下旬に発生した水位問題の後も安定している12か所あるスプリンクラー冷却池の水位を維持するのに十分な量である。
この1週間、IAEAチームは、5号機の中央制御室と原子炉建屋、6号機の原子炉建屋を含め、サイト内をくまなく点検した。専門家はまた、2号機の安全システムの試験や、6号機の変圧器の保守作業も視察した。これらの点検中、チームは新たな地雷や爆発物を発見していない。
こうした活動の一環として、IAEAの専門家たちは、運転スタッフのパフォーマンスも注意深く観察し、スタッフの配置状況や訓練や運転資格の状況について、より多くの情報を収集している。
ウクライナの他の3つの原子力発電所とチョルノービリ・サイトに常駐するIAEAチームは、武力紛争が続いているにもかかわらず、これらの原子力施設が安全かつ確実に稼働している。
リウネ原子力発電所を拠点とするIAEAチームによると、新型の燃料の原子炉への装荷に成功したことを含め、2号機の定期保守作業が完了したという。同機は再稼働後、本日送電網に再接続された。
先週、IAEAは、ウクライナの原子力安全およびセキュリティの強化を目的とした機材等の27回目および28回目の搬入作業を完了し、フメルニツキー原子力発電所には、安定した信頼性の高い通信を支援するスターリンク端末2台と関連機器を、南ウクライナ原子力発電所には、気密管理用の付属品を備えた移動式ヘリウム漏れ検知器を提供した。これらの機器は、欧州委員会を含む欧州連合(EU)から提供された資金で調達された。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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