ウクライナの原子力発電所の状況 #105


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第189号(現地時間2023年10月20日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が、温態停止状態の原子炉の数を2基に増やしただけでなく、近隣のエネルホダルの町への供給を含め、冬季の暖房需要対応の一環として、可搬式ディーゼルボイラーの運用を開始したことを明らかにした。

ZNPPは昨年9月から、国内送配電網への電力供給を中止している。2023年4月以降、欧州最大の原子力発電所であるZNPPは、5基を冷温停止状態とし、1基のみ液体放射性廃棄物の処理やその他安全機能維持に必要な熱供給のために温態停止状態としていた。

しかしながら、来る冬場に備え、ZNPPは先週、2基目となる5号機を温態停止状態へ移行させた。同機は10月16日未明より温態停止状態となり、4号機とともにサイト内に蒸気を供給し、また多くのプラントスタッフが住むエネルホダルに地域暖房を供給している。

既報のとおり、IAEAは何か月にもわたりZNPPに対して、代替の蒸気発生源を見つけるよう勧告しており、現地に駐在するIAEA専門家によると、プラントは、6基すべてを冷温停止状態にするために必要な外部ボイラーを発注したが、ボイラーの設置が完了するのは来年の前半になる見込みである。ウクライナの国家規制当局であるウクライナ国家原子力規制局(SNRIU)は6月、ZNPPの全6基を冷温停止状態に制限する規制命令を発出している。

またZNPPは先週末IAEAに対し、3号機の原子炉容器を休止することを決定したと別途報告した。原子炉容器は開いたままになっており、必要な場合に備えてホウ酸水の貯蔵庫として使用されていた。ホウ酸水は、加圧水型原子炉の一次冷却系にある核燃料とプールに貯蔵されている使用済燃料の冷却に使用される。ZNPPはIAEAザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)に対し、現在サイトにはそのような水の供給が十分にあることを伝えている。IAEAは、3号機の休止というZNPPの決定を支持している。その理由は、この行為は深層防護を強化し、同機の安全状態を改善するものだからである。ZNPPによると、2基以上を温態停止状態に移行させる計画はないとしている。

冬場を前に、IAEAは今週、昨年冬季にも地域暖房として使用された1,000kW~6,500kWの可搬式ディーゼルボイラー9台がZNPPに設置され、そのうちの8台が現在運用されている、との報告を受けた。

今月初め、6号機の蒸気発生器2台で軽微な水漏れが検出されたことを受け、ZNPPは、不具合が確認された蒸気発生器配管の修理を無事に終え、試験を実施した。試験の結果、6号機の4台の蒸気発生器のいずれからも水漏れは検出されなかった。ZNPPは現在、6号機の安全システムの一部について保守作業を実施している。

ZNPP近郊での軍事活動の最新の兆候として、専門家はほぼ毎日爆発音を継続して聞いており、時折銃声も耳にしている。

IAEAは、エネルホダルへの電力供給が10月18日の夕方に2時間以上停止されたとの報告を受けた。停電の原因は明らかではない。これは、約1週間前に変電所が損傷し、市内の一部の地域で電気と水道が使えなくなったという報告に続くものである。

IAEAチームはこの1週間、1、3、4、6号機の中央制御室、6号機のタービン建屋、1、3号機の原子炉建屋、3、4、6号機の非常用ディーゼル発電機、およびサイト周辺など、ZNPPサイト全域にわたり巡回を実施した。チームの報告によると、巡回中に地雷や爆発物は確認されなかった。

これらの活動の一環として、IAEAの専門家らは、ロシア連邦の規制のもと、プラントのスタッフの配置状況、スタッフの訓練とライセンスに関する情報収集に努め、運転スタッフのパフォーマンスを注意深く監視し続けている。

今月初旬に2号機の屋上を訪れた後、チームは1、5、6号機の屋上への立ち入りも要求し続けている。IAEA専門家らはまた、全6基のタービン建屋に立ち入る必要があり、10月18日に3号機のタービン建屋の全フロアに立ち入ることができたが、同日の4号機のタービン建屋への立ち入りは部分的にしか許されなかった。

ウクライナの他の3つの原子力発電所とチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームの報告によると、軍事紛争は続いているものの、これら原子力施設は安全かつ確実に運転しているという。IAEAチームは今週初めに、チョルーノビリ、リウネ、フメルニツキー、南ウクライナの各原子力発電所での人員交替を無事実施した。

IAEAは先週、ウクライナの原子力安全およびセキュリティの強化を目的とした機器等の29回目の納入を完了させた。具体的には、南ウクライナ原子力発電所に溶存酸素計、ナトリウムおよびガス分析計、オシロスコープ・マルチメーターを提供した。これらの機器は、日本と英国からの特別拠出金により調達された。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-189-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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