ウクライナの原子力発電所の状況 #108
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第192号(現地時間2023年11月3日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、国際原子力機関(IAEA)の専門家チームが今週、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の原子力安全とセキュリティを監視し、現在駐在中のチームと交代するため最前線に向かったことを明らかにした。今回のミッションは、IAEAが昨年、軍事紛争中の原子力事故防止支援のためZNPPに常駐体制を整えて以来、13回目。
ロシアからの報告によると、IAEA専門家の交代が行われた木曜日にも、多くのプラントスタッフが住むエネルホダルの町でドローンによる攻撃があった。
IAEA専門家らはここ数週間から数か月の間ほぼ毎日、ヨーロッパ最大の原子力発電所であるZNPPで爆発音を耳にしており、このことは原子力安全とセキュリティに対する危険と隣り合わせであることを浮き彫りにしている。
グロッシー事務局長は、「この14か月間、IAEA専門家がZNPPに駐在し、原子力安全とセキュリティを監視し、プラントの動向を世界に伝えてきた。彼らの活動は、この主要な原子力施設の安全を維持し、ウクライナをはじめとする世界の人々と環境を守る取組にとって不可欠である。しかし、リスクは依然としてある。われわれの重要な仕事は、必要な限り続ける」と述べた。
この1週間、IAEAの専門家らは、燃料貯蔵施設や1号機の非常用ディーゼル発電機、750㎸送電線の開閉所、臨時の緊急時対応センターなどを視察し、サイトでの巡回を継続している。11月には、紛争以来初となる緊急時訓練が予定されている。
専門家らはまた、ZNPPの冷却池とその周辺を訪れ、冷却塔の放水路の洗浄作業を視察した。IAEAチームは、ZNPPの6基が現在停止中であることから、この洗浄作業を行うことが可能になったとの報告を受けた。
2022年の保守作業後も開放された状態にあった3号機の原子炉容器は先月閉鎖され、プラント関係者はIAEA専門家に対し、3号機の蒸気発生器の圧力試験が進行中であり、週末に完了する予定であること、そしてその後、一次冷却系と二次冷却系の試験が実施される予定であることを報告した。そして本日、圧力試験終了後、3号機は冷温停止状態に保たれることを確認した。
開放された原子炉容器と隣接する使用済燃料貯蔵プールにはホウ酸水があり、必要に応じてポンプで汲み上げ、6基のいずれかの燃料の冷却に使用することが可能である。ZNPPサイト内の2つの特別棟にもさらに大量のホウ酸水が貯蔵されている。原子炉容器の閉鎖は、同基の原子力安全の状態を改善する。
ZNPPは今週、IAEAの専門家に対し、4基が冷温停止中、2基が温態停止中で原子力安全機能維持と冬季のエネルホダル向けの暖房用に蒸気を生産しているが、いずれの原子炉も再稼働させる計画はないとした。
IAEAは、プラントの安全性に不可欠な機器の保守が継続的な懸念事項となっていることから、引き続きZNPPの保守活動に細心の注意を払っている。
グロッシー事務局長は、「プラントの保守要員の数が減少し、必要なスペア部品の入手も限定的なため、安全システムに影響を及ぼす可能性がある。必要な保守がすべて実施されることが不可欠だ」と述べた。
このような活動に関連して、IAEA専門家は、6号機の安全システムの一部の保守と一次冷却系の水圧試験が今週完了したとの報告を受けた。
IAEA専門家はまた、スタッフの状況や状態、ロシアの規制に基づく運転スタッフの訓練や許認可に関する情報収集も続けている。
冬に向けた準備の一環として、ZNPPは6月のカホフカ・ダム破壊後、代替冷却水源としてスプリンクラー池エリア付近に掘削された井戸の断熱を開始した。断熱は冬の間、井戸が池に冷却水を供給し続け、6 基に不可欠な冷却を提供できるようにするためである。
IAEAチームは、ここ数か月で ZNPP の他の3基の建屋屋上へのアクセスが可能になった後も、1, 5, 6 号機の建屋屋上への立ち入りを要求し続けている。
IAEAの専門家らは、6基のタービン建屋すべてへの立ち入りも要求している。しかし、10月27日には2号機のタービン建屋への部分的な立ち入りのみが許可され、同月初旬にも1号機と4号機のタービン建屋への同様の限定的な立ち入りが認められている。
現在、プラントにある9台の可搬式ディーゼルボイラーのうち8台が、冬季の暖房用に稼働しており、プラントやエネルホダルの暖房用の必要な需要に応じて使用されている。
ウクライナの他の3つの原子力発電所(フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ)およびチョルノービリ原子力発電所に駐在するIAEAチームは、紛争が継続しているにもかかわらず、これらの原子力施設が安全かつ確実に運転していることを報告している。
IAEAは今週、ウクライナの原子力安全とセキュリティを支援するため、ウクライナに31回目となる機器納入を実施した。ウクライナの国営企業のUSIE Izotopとウクライナ国立科学アカデミーの原子力発電所安全問題研究所に対し、ギリシャからポータブルガンマ線検出器が寄贈された。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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