ウクライナの原子力発電所の状況 #109


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 193号(現地時間20231113日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日、IAEAの専門家からの報告として、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)近隣の工業地帯に、近隣のエネルホダル市を含む冬季の追加暖房対策の一環として、21台の天然ガスボイラーが設置されたことを明らかにした。

IAEAザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)は、新しいボイラーが57,000kW分の暖房を供給できることを確認した。加えて、ZNPPに設置されている9台の可搬式ディーゼルボイラーすべてが、発電所と近隣のエネルホダル市に冬季が訪れる前、秋の寒さが深まるにつれて必要となる暖房を提供するため、連日稼働しているという。

ISAMZチームは、ザポリージャ火力発電所(ZTPP)と工業地帯にある3台の大容量のディーゼルボイラーが、来月中に天然ガスに転換される予定であることを確認した。追加の暖房は、温態停止中のZNPPの4号機と5号機によって供給され、ZNPPの原子力安全・セキュリティ関連活動に必要な蒸気も生産しているほか、エネルホダル市内に設置された50台以上の可搬式ボイラーによって供給されている。

ウクライナの国家規制機関であるウクライナ国家原子力規制機関(SNRIU)は6月、ZNPPの全6基の運転を冷温停止状態に制限する規制命令を発出しているが、現在、1号機、2号機、3号機、6号機のみが冷温停止状態にある。

「ZNPPの原子力安全とセキュリティが不安定な状況が続いているため、チームは、1年で最も厳しい冬季に備えた取組みを注意深く監視する」「我々の存在は依然として不可欠である」とグロッシー事務局長は語った。

この1週間、ZNPPでのチーム交代のために最近、最前線を横断したIAEAの新しい専門家チームは、ほぼ毎日のように発電所の外で爆発音を聞き、NPPに近接した武力紛争がもたらす危険性を認識している。

IAEAチームは、ここ数日に実施された保守作業について報告を受けた。3号機の蒸気発生器の圧力試験は、18か月以上放置されていた原子炉容器の閉鎖後に必要な手順で、無事終了し、蒸気発生器の密閉作業が行われている。ZNPPは本日、IAEAの専門家に対し、今週、一次系の保守作業が実施され、その後最終的な圧力テストが実施される予定であると報告した。

またZNPPはIAEAに対し、6号機の1番目の安全トレインの保守が近いうちに実施される予定であることを伝えた。ZNPPの原子炉にはそれぞれ、安全トレインと呼ばれる3つの独立した冗長システムがあり、各ユニットの安全システムを構成している。これらのシステムは通常、安全性を維持するために必要な場合に起動できるようスタンバイモードになっている。他の2つの安全トレインの保守作業は10月に実施された。

先週、チームは1、2、3号機の主要変圧器の保守作業が今週開始されるとの報告を受けた。これは、4、5、6号機の変圧器で最近行われたものと同様である。

IAEAは、原子炉ユニットの安全システムに関して実施されてきた保守活動の一部が不完全であり、追加的な保守を実施する必要がある事態を懸念している。これは7月と8月、4号機が安全システムの保守作業後に温態停止状態に入ったことで明らかになった。しかし、8月に蒸気発生器のひとつで水漏れが発生したために4号機が冷温停止状態に戻された後、4号機の安全システムの熱交換器を洗浄するためのさらなる保守作業が必要となった。

「紛争が続いているため、ヨーロッパ最大の原子力発電所であるZNPPは、特に経験豊富な保守スタッフが減少し、包括的な体系的保守プログラムを維持できていない」「原子力発電所の安全性とセキュリティは、訓練を受けた経験豊富なスタッフが減少すればするほど危険にさらされる。これはZNPPにとって持続可能な状況ではない」とグロッシー事務局長は語った。

ZNPP常駐のIAEAチームは、毎日巡回を続けている。11月7日には、3号機の中央制御室、非常用制御室、電気室を視察し、同機の冷温停止状態を確認した。11月8日には1号機、11月10日には2号機の非常用ディーゼル発電機の視察が実施され、IAEA専門家はZNPPの冷却池と冷却塔も視察し、隔離ゲートの完全性を確認した。

IAEAは引き続き、安全性を評価するためには6基すべてのタービン建屋に立入る必要があると強調しているが、10月の巡回では1、2、4号機のタービン建屋への立入りが制限されたのに続き、11月10日にも1号機のタービン建屋の一部への立入りが禁止された。

11月3日と5日に実施された敷地外周の点検では、地雷や爆発物は、以前に確認された場所を含め、一切発見されなかった。

サイト周辺以外では、IAEAは貯蔵施設の大型ディーゼル燃料貯蔵タンク3基を視察した。この貯蔵燃料は、ZNPPの非常用ディーゼル発電機20台を少なくとも10日間動かすために必要である。この貯蔵施設は、可搬式ディーゼルボイラーへの燃料供給にも使用されている。チームは、タンク内の燃料の量を知らされ、可搬式ボイラーにディーゼル燃料を運ぶトラックへの充填作業を見学した。

原子炉冷却やその他の原子力安全・セキュリティ機能のためにサイトで使用されている水について、ZNPPは、11本の地下水井戸の断熱が進行中であることを確認した。井戸は、原子炉冷却用のスプリンクラー池に毎時約250m3の冷却水を供給している。断熱工事は11月末までに完了する予定である。IAEA専門家はまた、井戸のポンプ用電源は、最優先ラインから供給されており、井戸のポンプは2台の共通の非常用ディーゼル発電機から電力を供給できるため、敷地外の電力がすべて失われた場合でも冷却水の利用が可能であるという。

現地のIAEAチームは、ZNPPの緊急時訓練が11月後半に実施される予定であることを確認した。ZNPPでの最後の大規模訓練は、紛争が始まる前の2021年11月に実施された。それ以来、ZNPPのスタッフの数はかつてないほど変化しており、緊急事態に効果的に対応する能力を阻害する可能性がある。IAEAは、ISAMZチームが次回の訓練を視察し、訓練から課題を得る必要性を強調する。

IAEAは、現地での作業の一環として、職員の状況や状態に関する情報収集を続けている。これには、ロシアの規制下における、同発電所の運転スタッフの訓練とライセンス取得状況も含まれる。IAEAの専門家は11月7日にZNPP訓練センターを訪問し、訓練担当者の人数や訓練プロセスに関する詳細な情報を収集した。

またIAEAは先週、ロシアの原子力・放射線安全規制機関であるロステフナゾル(Rostekhnadzor)が、ZNPP原子力・放射線安全検査責任者の着任に伴い、ZNPPに常駐することになったとの報告を受けた。同チームは、ロシア国家法に基づき、ZNPPの常時監督と規制管理を行い、従業員にライセンスを与えることを意図しているようだ。

これとは別に先週、IAEAは、チョルノービリ・サイト、リウネ、フメルニツキー、南ウクライナの各原子力発電所(NPP)において、各チームの交代を成功裏に実施した。各チームは、これらの原子力施設の安全かつ確実な運転を報告した。

フメルニツキーNPPに常駐のIAEAチームは10月11日、発電所全体の緊急時対応訓練を視察し、その際、訓練はよく計画・実施されており、緊急時対応の取り決めは効果的であったと指摘した。先週、IAEAの専門家は、訓練のフォローアップ活動が実施され、現場内外のコミュニケーション、防火、除染など、さらに改善すべきと特定された分野に対する行動計画が策定されたことを知らされた。

さらに先週、IAEAはウクライナで医療・調整支援ミッションを実施した。チームは、チョルノービリ・サイト、スラブチチ市立病院、スラブチチの現地センターを訪問し、職員のメンタルヘルス支援の状況を視察した。チームはまた、キーウの様々な当局関係者に会い、メンタルヘルス支援プログラムを含む、ウクライナへの技術支援と援助全般に関する調整と協力について協議した。

チームは、IAEAやその他の二国間または多国間の取り決めを通じて提供された支援、およびウクライナ当局からの支援により、武力紛争の影響を受けた様々な地域においてここ数か月で進展が見られたことを指摘したが、同時に、チョルノービリの現場における運営スタッフの困難で急場しのぎの生活環境についても言及した。スタッフは、基本的な備品が不足した部屋に6人以上で寝泊まりし、換気されておらず、湿度の高い屋内環境での生活を強いられている。

グロッシー事務局長は、「このような状況は、運営スタッフの肉体的・精神的健康に打撃を与えており、長期的に持続可能なものではない」と語った。

また先週、IAEAはウクライナへの32回目の機材搬入を手配した。この機材は、IAEA対応支援ネットワーク(RANET)の下、カナダから寄贈された。今回の寄贈はカナダからの2回目の寄贈である。今回の寄贈により、リウネ、南ウクライナの各NPP、チョルノービリ・サイト、保健省公衆衛生センター、電離放射線源・個人被曝線量登録機関、SNRIUに、個人防護具、IT機器、ヨウ化カリウム錠剤、救急箱などが寄贈された。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-193-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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