ウクライナの原子力発電所の状況 #110


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 194号(現地時間20231117日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長が本日明らかにしたところによると、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の原子炉は今週初め、一時的に外部電源を喪失し、冷却その他の重要な機能に必要な電力は非常用ディーゼル発電機から供給された。

ZNPPでは、水曜遅くに6号機で起きた90分間の停電の原因を調査している。現場のIAEA専門家も独自の評価を行うために情報を収集している。影響を受けるユニットは冷温停止状態であるが、引き続き電力を必要としている。ZNPPのその他5基の原子炉はいずれも電源を喪失していない。そのうち3基が冷温停止中であり、2基は蒸気と暖房を供給するために温態停止中である。

グロッシー事務局長は、「紛争中にこれまでに7回確認されたように、これは外部電源の完全な喪失ではなかったが、ZNPPにおける原子力安全とセキュリティの不安定な状況を改めて浮き彫りにした。IAEAはZNPPの状況を国際社会に報告することができるよう、情報収集を続けていく」と述べた。

停電の翌日、ZNPPはIAEA専門家に対し、6号機の安全システムの一部が計画停止中に交換されたことを通知した。

ZNPPは750kVの主送電線1系統および330kVの予備送電線1系統を介して電力網に接続しているが、紛争以前は送電線4系統、予備送電線は6系統あった。

ZNPPに駐在するIAEA専門家らは、紛争の最前線から少し離れてはいるが、ほぼ毎日爆発音を耳にしている。

これとは別に、IAEA専門家は、現在温態停止中である5号機の蒸気発生器の二次冷却系統で化学ホウ素が検出されたとの報告を受けた。ホウ酸塩水は、原子力安全を維持するために一次冷却材に使用されている。そのためZNPPでは、5号機の二次冷却系統におけるホウ素測定の頻度を増やした。測定値は比較的安定しており、原子炉の技術仕様で許可されている制限内にある。二次冷却系統では放射能は検出されなかった。

ZNPPは、ホウ素濃度が依然として許容範囲内にあるため、サイトは5号機を温態停止状態で維持する意向であるが、近隣の町エネルホダルで暖房用のすべてのボイラーが運転を開始した後に再検討すると述べた。その時点で現場は5号機を冷温停止に移行するかどうかを決定する。

ZNPPは、4号機と5号機を温態停止状態に維持し、サイト内で原子力安全を目的とした暖房と蒸気を供給するとともに、ほとんどの発電所職員が居住するエネルホダルにも暖房を供給している。IAEAは、代替の蒸気発生源の準備状況を確認するため、状況をウオッチしている。ウクライナの国家規制当局であるウクライナ国家原子力規制検査局(SNRIU)は6月、ZNPPの全6基の運転を冷温停止状態に制限する規制命令を発令している。

IAEA専門家が過去1週間に実施した他の活動では、チームは水曜日に初めて、ZNPPの6基の中央制御室すべてに次々と立ち入り調査を実施した。これにより、人員配置に関するより多くの情報が収集され、各原子炉ユニットの状況を確認することができた。

「前向きな進展だ。私はZNPPに対し、タイムリーなアクセスと情報共有が定期的に行われるよう強く求める。これにより、ZNPPの全体的な状況を把握できるだろう」とグロッシー事務局長は語った。

同日、IAEA専門家らは5号機のタービン建屋の視察も実施したが、先週の1号機のタービン建屋訪問時および10月の1、2、4、5号機視察時と同様、立ち入りは部分的に制限されていた。IAEA専門家は、ZNPPを防護するための原子力安全とセキュリティに不可欠な7つの原則5つの基本原則の順守を監視する活動の一環として、6つのタービン建屋すべてへの同時立ち入りを引き続き要求している。

先月の3号機原子炉容器の閉鎖に続き、ZNPPは今週IAEA専門家に対し、原子炉の一次冷却系統の試験が完了し、二次冷却系統の圧力試験も数日以内に完了する予定であると報告した。

これまで1週間にわたり、冬季に追加暖房を供給するため、ZNPPに設置された9基の可搬式ディーゼル ボイラーのうち最大7基がほぼ毎日稼働している。それらの使用法は、プラントの蒸気とエネルホダルの暖房の要件によって異なる。

今週、ウクライナの他のサイトでは、IAEA専門家は11月15日と16日にリウネ原子力発電所(RNPP)で実施された緊急訓練を視察したが、この訓練には南ウクライナ原子力発電所(SUNPP)とフメルニツキー原子力発電所(KhNPP)からの応援スタッフが参加した。IAEAは、これら3つの発電所にチームを継続的に派遣し、RNPPの内部電源と外部電源の両方の緊急制御室から演習のさまざまな側面をウォッチした。

演習中、SNRIU(原子力事故の早期通報に関する条約および原子力事故または放射線緊急事態の場合の援助に関する条約に基づくウクライナの管轄当局)は、IAEAの事故・緊急センターと情報を共有した。

緊急演習の後、RNPPは報告会を実施し、演習の実施内容について振り返り、学んだ教訓を文書化し、改善すべき領域を特定した。

ZNPPは来週緊急演習を実施する予定で、IAEAチームも視察する予定である。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの原子力発電所とチョルノービリサイトのIAEAチームは、紛争が続いているにもかかわらず、これらの原子力施設が安全かつ確実に運営されていると報告している。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-194-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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