ウクライナの原子力発電所の状況 #117


ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 201号(現地時間2023127日)[仮訳]

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)は数日間にわたり、6基の原子炉冷却とその他の安全機能に必要な外部電源を単一の送電線に依存しており、軍事紛争中に送電網の混乱が生じた場合、非常に脆弱な状態となっていることを明らかにした。

このサイトの脆弱な電力供給は、依然として欧州最大の原子力発電所であるZNPPにおける原子力安全とセキュリティに関する懸念の中心となっている。このことは、先週土曜日にZNPPの外で発生した外部送電網の不具合により、残っていた送電線の両方が切断され、8回目の外部電源喪失が発生したことにより浮き彫りになった。その結果、ZNPPは一時的に、非常用ディーゼル発電機に電力を依存せざるを得なかった。

約5時間後に750kVの主送電線への接続が回復したが、最後の330kVの予備送電線はまだ切断されたままである。ZNPPに駐在するIAEA専門家は、修理は来週初めまでに完了する予定であるとの報告を受けた。紛争前、ZNPPには750kVの送電線4系統と予備送電線が数系統、利用可能であった。

IAEAチームはまた、4号機は先週の外部電源喪失で主冷却ポンプの稼働が一時的に停止したが、再び温態停止状態に入っており、サイトとZNPPスタッフの殆どが住んでいる近隣の町エネルホダルに暖房と蒸気を生産していると報告した。他の5基の原子炉は、冷温停止状態のままである。

「IAEAは、この壊滅的な戦争中の原子力事故を防ぐためにできる限りのことを行うことに引き続き全力を注いでいる。ZNPPでは、時には発電所から遠く離れた場所にある事象によって引き起こされる相次ぐ外部電源喪失が、この状況において、特に冬季において依然として主要な課題の1つとなっている。原子力事故により誰も何も得るものはなく、事故は避けなければならない」とグロッシー事務局長は語った。

さらに同事務局長は、ZNPPはこれまで外部送電線1系統に依存していたが、それは明らかに持続可能な状況ではないと述べた。

2日前、新たなIAEA専門家チームが、過去数週間にわたってZNPPで原子力安全とセキュリティを監視していた同僚らと交替するため最前線を渡った。これは、2022年9月に事務局長がZNPPへのIAEA支援・援助ミッションを設立以来、現地に駐在する14番目のIAEAチームとなる。

IAEAの新たな専門家チームは、ZNPPの人員配置状況や外部電源の状況、そして先月5号機の蒸気発生器の二次系でホウ素が検知されたことを受け、プラントが今後実施する対応を含む、現場での保守活動に引き続き細心の注意を払っていく。ホウ酸塩水は、原子力安全機能を維持するために、一次冷却材に使用されている。

紛争がZNPPに物理的に差し迫っていることを常に思い起こさせる中、IAEAの専門家らは、おそらく重火器やロケット弾によるものと思われる遠くの爆発音を継続して耳にしている。本日、新たなチームは現場近くで9回の爆発音を耳にしたと報告した。

また本日、IAEAチームは原子炉全6基のタービン建屋の視察を実施した。専門家らは、訪問したエリアでは、地雷、爆発物、軍事装備品、車両などは一切確認しなかった。タービン建屋のすべての部分にアクセスできたわけではないため、原子力安全に影響を与える可能性のある物品が存在するかどうかを完全に評価するには、追加のアクセスが必要となる。

ウクライナの他の場所では、フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの原子力発電所やチョルノービリの現場に駐在しているIAEA専門家らは、一部の施設では頻繁に空襲警報が鳴るなどの困難な戦時状況にもかかわらず、原子力安全とセキュリティは維持されていると報告している。

IAEAは、要望の高い機器の提供やその他の技術支援を通じて、ウクライナにおける原子力安全とセキュリティを引き続き支援している。先週、南ウクライナ原子力発電所は、サイトの非常用ディーゼル発電機用のスペアパーツとゴム製品の3回目(最後)の納入を受け、外部電源が喪失した場合でも、稼働態勢が確保できるようにした。この支援の提供は、今年5月に締結されたIAEA、フランス、ウクライナの原子力事業者エネルゴアトムの間の三者協定に基づいて実施された。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-201-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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