ウクライナの原子力発電所の状況 #120


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第204号(現地時間2024年1月3日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長によると、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)は、国際原子力機関(IAEA)専門家チームとの協議を経て、軍事紛争中に繰り返し発生している主要外部電源喪失に備え、バックアップ電力を即時供給できるよう措置を講じたことを明らかにした。

度重なる電源喪失は依然、欧州最大の原子力発電所であるZNPPの安全とセキュリティに係わる深刻な懸念であり、全基停止中でも原子炉冷却やその他安全機能維持に電力が必要である。2022年8月以降、ZNPPは8度の外部電源喪失に見舞われている。

ZNPPに唯一残る750kV送電線が切断されても、330kVの予備送電線が系統に繋がっていれば外部電源にアクセスできるが、2023年半ば以降、この予備送電線の運用は手動操作となっている。

ZNPPに駐在するIAEA専門家はZNPP側と協議し、この問題に対処することが原子力安全とセキュリティにとって重要であることを強調した。その結果、プラントは予備の変圧器の工事を実施し、3台中2台を稼働させた。うち1台は、6基すべての原子炉の予備送電線に常時接続されている。

グロッシー事務局長は、「750kVの開閉所を介した主要電源が喪失した場合でも、予備送電線が稼働状態を維持していれば、手動ではなく自動で、つまり遅延することなくプラントに電力を供給することができる」と述べた。そして「ZNPPの外部電源をめぐる状況は依然として脆弱であるものの、このことはサイトの電力供給体制における独立性と冗長性を可能にするものであり、大きな進展である。この対策は330kVの送電線が利用可能である場合にのみ有効であるため、我々の経験から分かるように、保証されているとは言い難い」と付言した。

ZNPPが継続的に直面している危険を象徴するように、IAEAチームはここ数週間、サイト近郊で定期的に爆発音を耳にしている。

ZNPPの6基中5基は冷温停止状態を維持、4号機は温態停止状態にあり、スタッフの多くが住む近隣の町エネルホダルなどに蒸気と暖房を供給している。

IAEAチームは、ZNPPの原子力安全とセキュリティの状況やこの主要施設を保護するための5つの具体的な原則の遵守活動の一環として、サイトの巡回を継続して実施している。

しかし、IAEA専門家は、サイトすべてへの立ち入りが依然許可されておらず、ここ2週間は、1,2,6号機の原子炉建屋への立ち入りも許されていない。IAEA専門家が冷温停止状態にあるユニットの原子炉建屋への立ち入りが許可されないことは初めてである。原子炉建屋には、炉心や使用済燃料がある。チームはこれからも立ち入りを要求し続ける。

さらに、ZNPPのタービン建屋の一部への立ち入りも制限され続けており、先週は3,4,6号機への立ち入りも制限された。また、IAEA専門家は、セキュリティ上の懸念から実施されなかった12月19日に予定されていた原子炉建屋屋上への立ち入りも許可待ちである。

12月22日に行われた6号機の安全システム室の巡回では、IAEA専門家は、原子炉格納容器内部のバルブやポンプ、いくつかの部屋の床にホウ酸が堆積していることを発見した。プラント側はチームに対し、漏れの原因はホウ酸の貯蔵タンクの1つであり、漏れの規模が小さいことから、すぐに修理する予定はなく、影響を受けたシステムの計画保守の一環として修理する予定であると伝えた。このタイプの漏れは、プラントの運転中に発生し得るものである。しかし、このような事象が発生した場合、さらに深刻な安全性への影響を防ぐため、事業者による適切かつタイムリーな注意、調査、そして対応が必要となる。IAEAチームは、この問題に関する進展を注意深く見守っていく。

既報のとおり、IAEAチームは2024年の保守スケジュールの提供をプラント側に要求し続けているが、まだ提供されていない。

IAEAチームは過去2週間、サイトの4台の可搬式ディーゼルボイラーの設置の進捗を監視し続けている。既報のとおり、新たなボイラーは、廃棄物処理を含むさまざまな原子力安全機能に必要な蒸気を追加供給する予定である。

サイトには現在9台の可搬式ボイラーがあり、そのうち少なくとも8台が稼働し、冬季の間、熱を供給している。

リウネ、フメルニツキー、南ウクライナ、チョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、先週ウクライナで広範囲なミサイル攻撃があり、フメルニツキーのIAEA専門家は3度避難を余儀なくされたものの、原子力安全とセキュリティが維持されているとの報告を継続して行っている。

リウネ原子力発電所に駐在するIAEA専門家は、12月29日に巡行ミサイルが発電所付近を通過したとの報告を受けた。また、南ウクライナ原子力発電所のIAEA専門家は、ミサイルとドローンが発電所立地地域に飛来したとの報告を受けた。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-204-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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