ウクライナの原子力発電所の状況 #121
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第205号(現地時間2024年1月12日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は本日明らかにしたところによると、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)に駐在する国際原子力機関(IAEA)の専門家チームは、1,2,6号機の原子炉建屋への立ち入りが許可されておらず、プラントの原子力安全とセキュリティの状況や国連安全保障理事会で定められた5つの具体的な原則の監視が妨げられている。
2022年9月に IAEAザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)が発足して以来、15番目となる専門家チームがプラントに昨日到着し、無事チームの交代を完了。新たなチームは、6号機の原子炉建屋への立ち入りを改めて要請した。
ZNPPは、原子炉建屋は「密閉されている」と説明、本日の立ち入りは許可されなかった。ZNPPはチームに対し、立ち入りを否定するものではなく、1週間を目途に立ち入りさせることを提案してきたという。
2023年12月、ISAMZチームはZNPPに、1,2,6号機の原子炉建屋への立ち入りを拒否された。これは、IAEA専門家が冷温停止状態の原子炉建屋への立ち入りを認められなかった初のケースであった。それまですべてのISAMZチームは、プラント側が格納容器が密閉状態にあろうと、冷温停止状態のどの原子炉建屋にも立ち入ることができた。
グロッシー事務局長は、「専門家によるZNPPへのタイムリーな立ち入りが制限されることは、原子炉や使用済燃料プール、関連する安全設備の報告状況の確認を含め、IAEAが安全およびセキュリティの状況を独立的かつ効果的に評価できなくなる」と述べた。
また、昨年の10月18日以来、ISAMZチームは、各号機のタービン建屋の一部に立ち入れない状況が続いている。直近では、1月10日(水)にも1,2号機のタービン建屋への立ち入りが制限された。
グロッシー事務局長は、「原子力安全とセキュリティの状況は依然極めて不安定である。IAEAが原子力事故を防止し、プラントの完全性を確保するために、原子力安全とセキュリティのための7つの柱を評価し、ZNPPにおける原子力安全とセキュリティの確保に向け、5つの具体的原則の遵守を監視できるよう、自由な立ち入りをあらためて要請する」と述べた。
新たなIAEA専門家チームは、ZNPPの現在進行中の保守作業を監視している。12月22日に6号機のバルブやポンプ、いくつかの安全システム室の床にホウ酸が堆積していることを確認したため、IAEAチームは1月9日、フォローアップの巡回を行い、その状況を評価した。ホウ酸水は、原子力の安全機能を維持するため、一次冷却系に使用されている。漏えいが発生しても、被害の拡大を防ぎ、安全性への影響を回避するためには、迅速な調査や修理、清掃が極めて重要である。
チームが確認したところによると、12月22日の巡回時と比べ、6号機の建屋にある3つの部屋のうち、1つの部屋では堆積物が同程度残っていたが、残りの部屋では堆積量が著しく減少していた。
チームは、漏れの原因は経年化によるホウ素タンクの微細なひび割れと漏れを検知するパイプの詰まりであるとの報告を受けた。詰まりは修復済みだが、ホウ素タンクの微細なひび割れにより、いくつかの微小な漏れは継続している。ZNPPは、漏洩率は現状、許容範囲内と説明、微細なひび割れはタンクの排水後に修復可能であり、定期保守期間中に対処する予定としている。IAEAチームは、継続して状況を監視していく。
さらに今週、IAEAチームは、3,4号機のポンプステーションと1~6号機の中央制御室に立ち入った。プラントに設置されている9台すべての可搬式ディーゼルボイラーはこの1週間、冬季の暖房需要に対応するために使用されている。
冬の寒さが厳しさを増すなか、IAEA専門家によると、ZNPP周辺の温度は朝にはマイナス10度まで低下するという。ただし、原子炉冷却やその他原子力安全機能維持に使用されるスプリンクラー池に冷却水を提供する11基の井戸の運用には影響がない。水の流量は一定を維持している。
ZNPPの6基中5基は冷温停止状態を維持する一方、4号機は温態停止状態にあり、多くのプラントスタッフが住む近隣の町エネルホダルなどに、蒸気と暖房を供給している。
新たなISAMZチームはプラントの人員状況、とりわけ、中央制御室で働くスタッフや重要な安全インフラなどの保守を担当するスタッフについて、引き続き注視している。
本日、新たな専門家チームは、4台の新たなディーゼルボイラーなど、サイトの巡回を実施した。専門家らは新しい設備を視察、設置が完了し、試運転が開始されたとの報告を受けた。これら新たなディーゼルボイラーは、ZNPPに必要な蒸気を供給するためのものである。
紛争がZNPPの近くに迫っていることは明らかであり、IAEA専門家は、プラントから近郊での大きな爆発音を継続して耳にしている。
リウネ、フメルニツキー、南ウクライナ、チョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家チームは、先週ウクライナに対する複数回のミサイル攻撃などがあったものの、原子力安全とセキュリティが維持されていると報告している。
フメルニツキーに駐在するIAEA専門家は再び、1月6,7日の週末にかけて数回にわたって避難を余儀なくされた。リウネと南ウクライナ原子力発電所に駐在する各チームもまた、先週土曜日に避難した。チョルノービリ・サイトのIAEAチームはこの1週間、遠くで爆発音を耳にしたと報告している。
グロッシー事務局長は、戦争中の原子力事故を防ぐために、あらゆることをしなければならないとしたうえで、「原子力発電所と関連インフラへの影響がないようにすることが重要だ。原子力事故から誰も得るものはなく、回避しなければならない」と述べた。
またIAEAは今週、リウネと南ウクライナ原子力発電所に無線通信システムを納入した。この機器は、英国からの資金で調達された。IAEAによるウクライナへの原子力安全・セキュリティ関連機器の納入は今回で34回目となり、必要な時に多様で信頼性の高い通信手段を確保することを目的に実施された。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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