ウクライナの原子力発電所の状況 #123


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第207号(現地時間2024年1月19日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は本日、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)が今週数時間、バックアップ電源に不具合が発生し、ZNPPの原子力安全とセキュリティの持続的なリスクが浮き彫りになったことを明らかにした。

木曜日にZNPPのバックアップ電源の変圧器2台が故障したことは、6基の原子炉冷却やその他安全機能維持に必要な外部電源の利用が、引き続き脆弱であることを示している。

330kVの予備送電線は利用可能であり、750kV送電線が喪失してもZNPPへの電力供給ができたとはいえ、今回の故障は、既に脆弱である電力供給の冗長性を低減させるものである。欧州最大の原子力発電所であるZNPPで利用可能な送電線は、紛争以前は750kV送電線4系統と330kV送電線6系統であったのに対し、現在も利用できるものはこの2系統だけである。

バックアップの外部電源は8時間後に復旧し、予備の変圧器2台は稼働した。ZNPPは故障の原因を調査中であり、ZNPPに駐在するIAEA専門家に対し、変圧器の外部損傷は見られないと報告している。

この事象は、IAEAとの協議を経て、750kV送電線が故障した場合に、330kV送電線が即時に電力供給できるよう、バックアップ電源の変圧器工事を実施したわずか数週間後に発生した。

グロッシー事務局長は、「プラントの脆弱な電力状況は依然として、ZNPPの原子力安全とセキュリティの主な危険の一つであり、極めて憂慮される状況が続いている。ZNPPは2022年8月以降、外部電源喪失を既に8回起こしており、非常用ディーゼル発電機に頼らざるを得ない状況が発生している」と述べた。

この1週間、ZNPPに駐在するIAEA専門家チームは、ZNPP側とプラントの保守作業について協議し、ZNPPは原子力安全とセキュリティに不可欠な保守作業に係る2024年の保守計画を提示した。ZNPPはIAEAチームに対して、サイトの安全システムの保守と、昨年実施されなかった重要作業を優先的に実施すると伝えた。年間の保守計画には、安全システムやディーゼル発電機、変圧器、750kV開閉所が含まれている。

IAEAチームは、詳細レビューのための保守計画のコピーを受け取っていないが、議論やチームに提供された情報から、ZNPPは2024年中には包括的な保守計画を実施しないと判断している。

グロッシー事務局長は、「確立された保守計画とタイムリーな実施は、プラントの安全とセキュリティ確保に不可欠である」としたうえで、「特に6基の原子炉が長期にわたって停止している現状では、原子力安全を確保するために、この保守を実施する必要がある。IAEAがZNPPの原子力安全を十分に評価するためには、保守計画を十分に理解することが重要であり、我々は今後も保守の状況を注視していく”と述べた。

IAEAチームは、同サイトの巡回を継続しており、昨日は全6基の中央制御室を視察した。そこで専門家はスタッフの操作状況を見ることができたが、彼らの資格や経験など背景情報を確認することはできなかった。

今週初めに6号機の原子炉建屋への立ち入りが許可された後、IAEA専門家は他の原子炉建屋やこれまで立ち入りができていない全6基のタービン建屋の一部、そして原子炉建屋屋上への立ち入りを求めている。グロッシー事務局長によると、このような立ち入りは、原子力安全とセキュリティ、そしてZNPPを保護するための5つの具体的原則の遵守を監視するために必要であるという。

IAEAチームは、12月22日に初めて6号機の安全システム室の一部で確認されたホウ酸の堆積物について、状況の監視と情報取集に努めている。昨日訪問した中央制御室で、チームは貯蔵タンク内のホウ酸レベルは、ホウ酸漏れが確認されていたにもかかわらず、技術仕様で定められた基準値を超えていた。

IAEAチームによって以前確認され、2023年11月に撤去されたZNPPの外周沿い、施設内外のフェンス間の緩衝地帯にある地雷が、現在再び敷設されている。これは、運転中のプラント関係者が立ち入ることのできない制限区域である。グロッシー事務局長は、地雷敷設はIAEAの安全基準に反すると繰り返し警告している。

リウネ、フメルニツキー、南ウクライナ、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEAチームからはこの1週間、何度も空襲警報があったものの、原子力安全とセキュリティは維持されていると継続して報告された。フメルニツキー、リウネ、南ウクライナの各発電所に駐在するIAEA専門家は、ほぼ毎日のように空襲を報告しており、フメルニツキーとリウネの各チームは、何度か避難を余儀なくされた。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-207-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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