ウクライナの原子力発電所の状況 #124
◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第208号(現地時間2024年1月26日)[仮訳]
ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、来月初旬に予定されている自身4度目となるウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)訪問を前に、ZNPPが置かれている原子力安全およびセキュリティの状況について依然極めて脆弱であり、重大事故の潜在的な危険性が「現実味を帯びている」と、国連安全保障理事会で警鐘を鳴らした。
2年前の開戦から6回目となる木曜日の安全保障理事会で、グロッシー事務局長は、危険な現実から目を逸らさないよう警告し、IAEAは、ZNPPやウクライナのその他原子力施設で起こり得る壊滅的な原子力事故を防ぐための支援に集中することを明言した。
同事務局長は、「原子力事故はまだ起きていないが、現状に満足することは、悲劇を招きかねない。そのようなことがあってはならない。そうなるリスクを最小限にするためには、私たちは全力を尽くさなければならない」と語った。
グロッシー事務局長は、欧州最大の原子力発電所(ZNPP)を保護するための5つの具体的原則が昨年5月に確立されて以降の進捗について、15か国の理事国で構成される安全保障理事会に説明し、サイトに駐在するIAEA専門家が、これら原則の遵守を監視するために必要な立ち入りを得ることの重要性を強調した。
同事務局長は、「今後2週間以内」に前線を越えZNPPに赴き、前回の訪問ミッションから約8か月ぶりに現地の状況を直接評価する考えだ。
前回グロッシー事務局長がウクライナ南部のZNPPを訪れたのは、原子炉冷却やZNPPの原子力安全機能に不可欠な水を供給していた下流のカホフカ・ダムが破壊された直後の2023年6月のことだった。
ニューヨークの国連本部で行われた安全保障理事会での演説で、同事務局長は、原子力安全およびセキュリティに対する潜在的脅威などの課題を強調したうえで、「プラントはかなりの期間、砲撃を受けていないが、この地域では大規模な軍事活動が続いており、時には施設の近辺で行われている。現地のIAEAチームの報告によると、ロケット弾がプラント近くの上空を飛行し、プラントが危険に晒されている」と述べた。
グロッシー事務局長はさらに、プラントの外部電源供給が依然「極めて不安定」であり、最近では紛争前に10系統あった外部送電系統が、現在ではわずか2系統しか機能していないことに触れたうえで、「ZNPPではこれまでに外部電源喪失が8回起こっており、原子炉や使用済燃料に不可欠な冷却を実施するために、原子力事故を防ぐ最後の砦である非常用ディーゼル発電機に頼らざるを得なかった」と述べた。
また、「かつてないほどの心理的プレッシャーに晒されている」スタッフの大幅な減少や、設備の保守状況に関する課題も強調した。
同事務局長は、「有資格かつ訓練された運転要員の減少や劣化したサプライチェーンは、プラントの安全性を維持するために不可欠な設備の保守にマイナスの影響を及ぼしている」とした。
グロッシー事務局長は、IAEA専門家チームは、紛争中の原子力安全およびセキュリティを確保するための7つの柱のほか、より新しいZNPPの5つの保護原則に関する状況を監視するために、十分な立ち入りが認められるべきと強調し、「チームがプラントのいくつかのエリアにタイムリーに立ち入ることが認められず、時には何か月も立ち入れないこともある」ことを明らかにした。
同事務局長は、「5つの具体的原則が遵守されていないという兆候はない」としたものの、「状況の変化に応じて、IAEAは原子力安全およびセキュリティに重要なZNPPのすべての分野にタイムリーに立ち入り、5つの具体的原則すべてが常に遵守されていることを監視する必要がある」と強調した。
今週、ZNPPに駐在するIAEA専門家は、先週不具合を起こしたパックアップ電源の変圧器の1基が修理中であり、構造的な損傷の兆候はない、と報告を受けた。
今回の不具合は、6基の冷却ならびに原子力安全機能に必要な外部電源の利用可能性が、依然として脆弱であることを浮き彫りにするものである。
ZNPPは、不具合の予備的な原因を調査、特定したとしており、IAEA専門家は、近いうちに結果を知らされるものと期待している。
また今週、IAEA専門家は、冷却池エリアを巡回し、水管理を担当するプラントスタッフと面談。冬の厳しい天候が、安全とは関係のないサイト内の一部ニーズに水を供給している冷却池にどのような影響を与えるか、またZNPPが氷の影響にどのように対処するかについて議論した。
紛争前、冷却池の水は、原子炉の運転により温かさを維持していた。現在、全6基が長期停止中で、IAEAチームは、冷却池の数か所で少量の氷を発見した。しかし、さらに寒かった今冬の初めには、冷却池の表面のほとんどが2㎝ほどの氷の層に覆われていたという。また、冬の寒さにもかかわらず、冷却池にはたくさんの魚が存在。数種の非熱帯性魚類は低温を生き延び、冷却池の水を浄化し続けている。
現在の冷却池の水位は15.61mで、カホフカ・ダムが破壊される前の水位から1mほど低く、ここ数か月はほとんど変化していない。
停止中の6基向けの冷却水については、スプリンクラー池近くの11基の井戸が供給し続けている。
IAEA専門家は巡回中、ZNPPの冷却池の隔離ゲートを訪問することは認められなかった。
その他巡回中、ここ1週間で、IAEA専門家は3号機の原子炉建屋と3,5号機の安全システム室を訪ねた。3号機の安全システム室の1室で、1か所、わずかなホウ酸の堆積物が観察された。
6号機のホウ酸の堆積物については、ロシア規制当局が1月20日、同機の貯蔵タンクの漏洩の修理について「特別命令」を発出した。ZNPPはIAEA専門家に対し、タンクの微細なひび割れを修理する意向を伝え、そのためには排水が必要となる。ホウ酸水は、原子力安全機能維持に必要な一次冷却系で使用されている。
IAEAチームはまた、750kVの開閉所の巡回も実施、現在送電網に接続されている送電線は1系統のみで、紛争前の4系統から減少していることを確認した。2022年に損傷した開閉所の部品は解体されていたが、スペア部品は入手可能だった。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家は、空襲警報が頻繁に鳴り響くこともあるなど、厳しい戦時中の状況にもかかわらず、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。1月23日、チョルノービリ・サイトに新たな専門家チームが到着し、チームの交替が実施された。
グロッシー事務局長は、安全保障理事会での演説で、これら原子力発電所は稼働しており、ほとんどの原子炉がフル稼働していると述べた。
同事務局長は、「我々のチームは、原子力安全およびセキュリティが維持されていると継続して報告しているが、軍事衝突の脅威が迫り、何度か避難を余儀なくされたプラントもある。私は、安全な運転を確保するためには、外部電源の利用可能性が不可欠であることを理事会に改めて喚起したい」と述べた。
※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)
※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日
ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~
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