ウクライナの原子力発電所の状況 #125


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第209号(現地時間2024年2月1日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は、来週ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)を訪問し、現場スタッフの人員減少など、ZNPPの依然として脆弱な原子力安全およびセキュリティの状況に関連する重要問題と最近の動向について議論し、評価する予定である。

グロッシー事務局長のZNPP訪問は今回で4回目。ZNPPの全6基は、1年半近く停止中で発電はしていないものの、大量の使用済燃料があり、適切に冷却されるなど、確実に安全性を保つ必要がある。

ZNPP訪問の前に、同事務局長は火曜日に、首都キーウでハイレベル協議を行う予定。

原子力事故を防止するIAEAの継続的な取組の一環として、事務局長は、プラント機器の保守作業に関連する潜在的なリスクなど、ZNPPにおける最近の原子力安全およびセキュリティに関する諸課題に取り組み、進展を図ることが期待されている。

事務局長はまた、ZNPPの人員配置に関する重要な問題に関し、ウクライナの国営原子力事業者であるエネルゴアトムに雇用されたスタッフが本日からサイトに立ち入れないというプラント側の新たな発表について、さらなる説明を求める予定。現在、ZNPPで働くスタッフは、ロシアからZNPPに派遣されたスタッフのほか、ロシア国籍を取得し、ロシアの運営事業体との雇用契約を締結した元エネルゴアトムのスタッフで構成されている。ZNPPは本日、同サイトに駐在するIAEAチームに対して、プラントには十分な資格を有するスタッフがおり、全ての持ち場には十分な人員配置がなされていると述べている。

グロッシー事務局長は、「来週ZNPPを訪問する際、本件について協議するつもりだ。プラントが、原子力安全およびセキュリティに必要な資格を有し、熟練したスタッフを確保することが極めて重要だ。およそ2年前の戦争開始以来、スタッフの数は既に大幅に減少している」と語った。

本日の発表前にも、ZNPPに駐在するIAEAチームは今週、この件に関する状況、とりわけ、中央制御室や重要な安全インフラやプロセスの保守を担当するスタッフに関する状況について、十分に状況を把握し、評価するために、より詳細な情報提供をZNPP側に求め続けている。

ZNPPは今週初め、IAEAチームに対して、ロスアトムが運営するプラントの名目上のスタッフのレベルは、ウクライナのそれに相当するスタッフのレベルよりも極めて低いと述べた。IAEA専門家は、現在ZNPPでロシアの運営事業体によって雇用されているスタッフが4,500名、940名の申請が検討中であることを伝えられた。軍事紛争開始前には、ZNPPではおよそ11,500人が働いていた。

グロッシー事務局長は1月25日の国連安全保障理事会で、プラントは「大幅にスタッフ人員が削減されており、彼らはかつてないほどの精神的プレッシャーに晒されている。原子炉は停止中にもかかわらず、この状況は持続的ではない」と語った。

事務局長はまた、原子力安全およびセキュリティに関する欧州最大の原子力発電所(ZNPP)のあらゆる場所へのIAEAのタイムリーな立ち入りの重要性を強調する予定。立ち入りは、ZNPPに駐在するIAEAチームが、ZNPPの原子力安全とセキュリティの7つの柱を十分に評価し、かつ、プラント保護のための5つの具体的原則に遵守しているか、監視するために不可欠である。

事務局長に同行する新たなIAEA専門家チームは来週、現地で現在の駐在チームと交替する。2022年9月1日に発足したIAEAザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)の16番目のチームとなる。

グロッシー事務局長は、「IAEA専門家の駐在は、ZNPPの原子力安全およびセキュリティの状況の安定化にある程度、役立っている。しかし、先週の国連安全保障理事会で述べたように、世界は現状に甘んじてはならない」と語った。

続けて、「私は、プラントが日常的に直面し続けている潜在的なリスクを強調し、ZNPPやウクライナの他の原子力施設における原子力安全およびセキュリティの確保を支援するために全力を尽くすというIAEAのコミットメントを改めて表明し、強化するために、再び現地を訪れることにした」と今回の訪問の意義を強調した。

ZNPPでは、現在のIAEA専門家チームが今週、サイトの巡回を実施、1号機の原子炉建屋と安全システム室を訪れ、一部ホウ酸の堆積物を確認した。IAEAの専門家は以前、3,6号機でホウ酸の堆積物を確認している。ホウ酸水は、原子力安全機能を維持するため、一次冷却系に使用されている。

今週、ISAMZはまた、2つの新たな燃料貯蔵施設、乾式使用済燃料貯蔵施設、スプリンクラー池を訪れた。チームは、現場でバックパックによる放射線モニタリング測定を行い、放射線レベルが正常であることを確認した。

昨年6月のカホフカ・ダム決壊後にスプリンクラー池付近に掘られた11基の井戸は、停止中のプラントおよび使用済燃料プールに冷却水を供給している。

6基のプラント中5基は冷温停止状態を維持、4号機は温態停止状態にあり、多くのプラントスタッフが住む近傍のエネルホダルの町などに蒸気と熱を供給している。

IAEAチームは月曜日、新たなディーゼル蒸気発生器(DSG)の試運転作業の一部を視察したが、プラント側より本日、運用が開始されたとの報告を受けた。蒸気は、液体廃棄物のプロセス用に使用されるという。ZNPPは、この新たな設備による蒸気供給により6基全てを冷温停止状態にできるかどうか、まだ確認中だ。

最近、気温が穏やかなため、9台ある可搬式ディーゼルボイラーの稼働台数を4台に減らすことができた。これらのボイラーは、プラントだけでなく、エネルホダルにも暖房を供給している。

IAEAチームは、1月初めに不具合を起こしたバックアップ電源の変圧器の修理が完了し、運用を再開したとの報告を受けた。ZNPPはIAEAチームに対し、近く不具合の原因について報告する予定である。

フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、そしてチョルノービリ・サイトに駐在するIAEA専門家は、空襲警報が頻繁に鳴り響くこともあるなど、厳しい戦時中の状況にもかかわらず、原子力安全およびセキュリティは維持されていると報告している。運転中の3つの原子力発電所に駐在するIAEAチームは、この1週間で交替を完了した。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-209-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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