ウクライナの原子力発電所の状況 #126


◆ウクライナの状況に関するIAEA事務局長声明 第210号(現地時間2024年2月8日)[仮訳]

ラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長は今週、紛争中の原子力事故を防止するIAEAの継続的な取組の一環として、ウクライナのザポリージャ原子力発電所(ZNPP)を訪問し、原子力安全とセキュリティの状況を視察した。

2年前に戦争が開始されてから、グロッシー事務局長がウクライナ南東部にあるZNPPへ訪問するのは今回で4回目。同事務局長は、昨年5月に国連安全保障理事会で同プラント保護のための5つの具体的原則が打ち出されて以降、ZNPPへの砲撃がないことを確認した。これら5つの原則では特に、ZNPPからの、またはZNPPに対するいかなる種類の攻撃もあってはならず、またZNPPからの攻撃に使用される可能性のある重火器の貯蔵場所や兵員の基地としてZNPPを使用してはならない、と述べている。

しかし、事務局長は、欧州最大の原子力発電所(ZNPP)が危険と隣り合わせの現在の状況に甘んじてはならないと警告している。最前線に位置するZNPPは、2022年には何度も砲撃にあった。またこれまでに8回、外部電源を喪失し、直近では12月に発生、原子炉冷却やその他重要な原子力安全機能に必要な電力を供給するために非常用ディーゼル発電機に一時的に頼らざるを得なかった。

水曜日、現地で視察を終えたグロッシー事務局長は、「国連安全保障理事会で打ち出された5つの基本原則の遵守、およびプラントの物理的健全性は比較的安定しており、前向きな進展だが、細心の注意を払う必要がある」と語った。

事務局長はまた、ZNPPのその他の原子力安全およびセキュリティの課題に焦点を当て、2023年6月に下流のカホフカ・ダムが破壊され、これまでプラントに水を供給してきた巨大な貯水池が枯渇した後、冷却水の代替水源を見つけるためのここ数か月のプラントの取組などを評価した。グロッシー事務局長は前回、ダム決壊直後にZNPPを訪問している。

グロッシー事務局長は、6基の原子炉の冷却を行うスプリンクラー池に水を継続的に供給するため、11基の井戸が運用されていることを確認した。

「現在のところ、全ての原子炉が停止され、プラントは必要な水を十分確保できている。しかし、これは持続可能なソリューションではなく、特に発電が再開された場合はなおさらだ」と事務局長は述べた。

グロッシー事務局長はまた、2月1日からウクライナの国営事業者であるエネルゴアトムに雇用されているスタッフの立ち入りを認めないという先週のZNPPの発表を受け、プラントの人員配置に関する重要な問題を提起した。

事務局長は現地で、プラントが現在停止していることから、現在の人員で十分であり、採用の募集をさらに進めていると伝えられた。

「スタッフの数は、戦争前の11,500人から既に大幅に減少している。6基が停止中であっても、運転業務を遂行し、原子力安全およびセキュリティに重要な機器が適切に維持されることを確保するためにも、十分な人数の有資格者が必要である。我々は、この点について状況を注視していく」とグロッシー事務局長は述べた。

事務局長はまた、2022年9月からサイトに駐在するIAEA専門家チームが5つの具体的原則の遵守を監視し、また事務局長が紛争当初に概説した原子力安全およびセキュリティの7つの柱を評価するために必要な立ち入りが許可される重要性を強調した。

事務局長は、「IAEA専門家チームが立ち入りし、質問できることが重要だ。見ているだけで、話してはいけないという提案もあった。それは良くないことだ」と述べた。

前向きな一歩として、ZNPPはIAEA専門家に対して、すべての中央制御室に立ち入り可能、と伝えた。

グロッシー事務局長は今回の視察で、4号機の大きなタービン建屋の1つと経験豊富なスタッフの存在が重要である同機の制御室にも足を運んだ。4号機は現在唯一、温態停止状態にあり、近隣のエネルホダルの町などに蒸気と熱を供給している。他の5つの原子炉は冷温停止状態にある。

事務局長はまた、最近運用が開始された4台の新たなディーゼルボイラーを視察した。新たな設備による蒸気は、プラントの液体廃棄物のプロセス用に使用されるという。ZNPPは、この新たな設備による蒸気供給により4号機を冷温停止状態にできるかどうか、まだ確認できていない。今週初め、IAEA専門家チームは、新たなディーゼルボイラーによる蒸気を使用し、特別棟で処理されている液体廃棄物を視察した。

事務局長に同行したIAEAの新たな専門家チームが、従来のIAEAチームと交替した。2022年9月1日のIAEAザポリージャ支援/調査ミッション(ISAMZ)発足以降、16番目のチームとなる。

グロッシー事務局長は、今回の訪問で、IAEAがサイトに駐在することの重要な役割を確認し、そしてその仕事がまだ終わっていないと述べた。

「放射線影響を伴う原子力事故が起きずに紛争が終結するまで、我々の仕事が完了したと言うことはできないであろう。我々は、この取組を継続し、今日もその重要な一端を担っている」とさらに述べた。

ウクライナの他の4サイトに駐在するIAEAチームは、空襲警報が頻繁に鳴り響くなか、活動を継続している。フメルニツキー原子力発電所のチームは昨日、避難を余儀なくされた。

IAEAはまた、機器やその他の支援を通じて、ウクライナの原子力安全およびセキュリティを引き続き支援している。この2週間に、新たに2件の納入が行われ、今回で36回目となる。英国の資金提供により、リウネ、南ウクライナの各原子力発電所、およびIzotopの施設に、放射線防護や利用可能な核物質防護措置を補完するために、新しい機器が提供されている。

https://www.iaea.org/newscenter/pressreleases/update-210-iaea-director-general-statement-on-situation-in-ukraine


※日本原子力産業協会は、ウクライナの原子力発電所及び都市名等の名称については、ウクライナ語および表記・発音に基づく以下の表記を使用します。
 フメルニツキー、リウネ、南ウクライナ、ザポリージャ、チョルノービリ(チェルノブイリ)、
 キーウ(キエフ)、ハリキウ(ハリコフ)

※ロシア軍によるチョルノービリ原子力発電所の占拠期間:2022年2月24日~2022年3月31日

 ロシア軍によるザポリージャ原子力発電所の占拠期間:2022年3月4日~

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